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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2021.09.27 更新 ツイート

二次元における推しの活躍が自分の力量次第の件について カレー沢薫

刀剣乱舞のゲームが出るらしい。

刀剣乱舞自体もゲームだろうと思うかもしれないが、あれは仏像や巨大な火柱の前で三日三晩経を唱え続けるのと同じで、ゲームというよりは「修行」もしくは、己の信仰心がどれほどのものか示す「試練」に近い。

 

刀剣乱舞も早6周年、開始時からその行(ギョウ)に取り組んできた者は面構えが違う。
他のソシャゲがやれ水着だクリスマスだと騒いでいる中「大阪城地下を都合100階ほど掘って来い」と言われても、眉一つ動かさないどころか、もはやアルカイックスマイルである。

ハロウィンもクリスマスも所詮人間が作り出したものである、そういう意味ではクリスマスイルミネーションも大阪城地下100階も根本は同じであり、ただそこに推しがいるか否かに本質があるということに気づいたのだ。

こうなってくると、逆に地下100階をやり遂げた特典として「祝! 大阪城制覇!」という額縁を貰って激高した日が懐かしくもある。

しかし『美味しんぼ』にこういう話がある。
二回連続美味しんぼってしまい恐縮だが、それだけ学びの多い作品なのだから仕方がない。

結婚してからどんどん牙が抜け、嫁はセミナー顔になっていった主人公・山岡士郎だが、その難癖力は衰えていない。

寺の精進料理に「こんなの精進料理なんかじゃない」と言いがかりをつけ「これがモノホンの精進料理だ」と言って出したものは、ニンニクなどをふんだんに使った料理であったという話があった。

これはヴィーガンの前に羊頭を置いて「羊は草食ってんだから実質野菜でしょ?」とかます嫌がらせではない。
確かに山岡さんはそういうことを言いだしても不思議ではない人だがその時は別の意味があった。
つまり、野菜だの豆だのを食って、煩悩が起こりづらい状態にして開く悟りなどイージーモードすぎる、それよりもニンニクなどでギンギンにしたハードモードに挑んで開いた悟りこそが本物だということである。

相手はそう言ってドヤ顔をする山岡さんの顔面に金剛力士パンチを食らわすこともなく「それも一理ある」と笑って済ませていたので、逆に「いつも食ってる精進料理でちゃんと悟りは開けている」と証明する結果になってしまっていた。
つまり「大阪城を100階まで掘る」という、すぐに無心になってしまうゲームをやっていたら、悟りぐらい開けてしまうのは当たり前なのである。

刀剣乱舞プレイヤーは他のゲームに比べてゲーム内容的に不遇のように思っていたが「悟りやすさ」で言えば、むしろ「優遇」だったのだ。
供給される煩悩が圧倒的に少なければ悟りを開きやすいのは当たり前である。

もちろん刀剣乱舞はゲーム以外で多数展開しており、ゲームの5000億倍キャラが喋って動くアニメや、ついに推しが画面から出て来てしまった、2.5次元舞台、映画など、ゲームの比ではない炎の中でひたすら読経を続け、ネクスト涅槃を目指している人も多いと思う。

しかし、私は元々「ゲーム」というコンテンツが好きであり、今までハマった作品やキャラは大体ゲームなのである。
落ち着きがないため、ただ鑑賞するだけのアニメや映画はあまり体質にあっていないため、その中のキャラにもハマりづらいのだ。
それよりも、自分が能動的になれるゲームの方が没入しやすく、キャラへの思い入れも強くなってしまうのだ。

よって刀剣乱舞がゲーム化するというのは、私にとってアニメ化や映画化よりビックニュースであり、朗報である。

しかし、正直そのゲームを自分でプレイするかどうかはわからない。
これは新しい炎に身を投じるのが怖いという気持ちもある、先ほどもゲーム版刀剣乱舞の公式ページのへし切長谷部を見ながら30分ほど数珠を握りしめていた。

だがそれよりも問題なのはゲームの「ジャンル」である。

新しく発売される刀剣乱舞のゲームは「刀剣乱舞無双」と言い、あの有名な三国無双や戦国無双の刀剣版なのである。
元々刀剣乱舞は刀剣男士たちが刀で敵と戦うゲームなのだから無双シリーズとの相性はかなりいいはずだ。
むしろ「刀を擬人化」となったら、嫌でも様々なバトルゲーム案が浮かんできてしまうと思うが、それらの誘惑に負けずあれだけゲーム性を削ぎ落したゲームを作るのは逆にスゴイ、プレイヤーもだが、ゲーム自体がすでに解脱している。
ゲームのコンセプトもキャラもいい、ただ問題は「アクションゲーム」という点だ。

その昔、用もなくゲーム屋に立ち寄ったところ「デビルメイクライ」というゲームのプロモが流れており、キャラクター、そしてアクションのカッコよさに思わず衝動買いしてしまったことがある。
ちなみにこのゲームのキャッチコピーである「イカれたパーティのはじまりかい?」という言葉は、未だに夫が夜不在の時などに使っている。

だが、私の操作するキャラは、プロモで見たキャラとは別人だったのである、いつ後ろから「ご本人」が登場してくれるのか、と思ったがどうやらこの何もないところで飛び跳ねているのがご本人のようである。

アクションゲームというのは、プレイヤーの力量がモロに出てしまうジャンルであり、攻略を見ればなんとかなるというものでもないのだ。

何もないところで飛び跳ねたり、樽とかに体当たりし続けたる長谷部を見るのはあまりにも忍びない。

二次元は現実と違って「私はあの人に相応しくない」というような面倒な葛藤は起きづらいように見えて「推しを上手く描けない」など、自分の力量が推しに追いついてないという現象には良く直面するのだ。

推しは何も悪くない、敗因はこの私、推しは常に最高のパフォーマンスをしている。

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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