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物理の4大定数

2021.10.11 更新 ツイート

宇宙はどんな形をしているのか 小谷太郎

光速c、電子の電荷の大きさe、重力定数G、プランク定数h。
宇宙を支配する物理の4大定数を、NASA元研究員の小谷太郎氏がやさしく解説。
現在のテーマは「重力定数G」。
アインシュタインの一般相対論は、宇宙の形はどんなものかを考えるための重要な道具でもあった。

*   *   *

 
(画像:iStock.com/ArtEvent ET)

宇宙に形はあるのか

1915年、一般相対論のアイデアを発表したアインシュタインは、次に宇宙全体の形状や変化の研究に取り組みます。「宇宙論」という学問分野の始まりです。

宇宙全体の形状などという、思い描くのも困難な「もの」を、どう研究したらいいのでしょう。そもそも宇宙に形があるのでしょうか。

一般相対論以前は、宇宙がどんな形でどうしてそうなったのかについて、空想をめぐらすことは、神話やおとぎばなしの領分で、それを科学的に行なう方法など、だれも知りませんでした。

宇宙論を単なる空想から物理学の一分野にするには、宇宙を表わす方程式が必要だったのです。

そしてアインシュタインは、世界でただ一人、自分の考案した一般相対論こそ、宇宙の成り立ちを議論する道具であるとわかっていました。

一般相対論の数式(いわくテンソル)から、宇宙を表わす方程式は導かれるのです。

 

アインシュタインはまず、宇宙の体積は有限であり、かつ定常である、つまり時間変化せず、未来も過去も変わらない姿で存在しつづけると仮定しました。

(宇宙が有限かどうかは、じつは現在の研究者も確信が持てないでいます。そして定常については、はっきり間違いだとわかっています。

しかし学問分野を創始する一歩としては悪くありません。というか、偉大な仕事です。)

宇宙は有限か無限か、研究者の意見は分かれている(画像:iStock.com/Helen_Field)

アインシュタインが考えた宇宙の形「S3

ここで有限の空間について少々説明しましょう。なんだか頭がよじれるような概念ですが、じつは数式を使わなくても理解できます。

(ただし、数式を使わないから簡単というわけではありません。)

たて・よこ・高さの広がりを持つ空間を3次元空間と呼びます。数学では「多様体」という用語を使ってもっと緻密(ちみつ)な議論をしますが、ここでは大ざっぱな話ですませます。

有限の3次元空間にはさまざまな種類があるのですが、アインシュタインが宇宙の形として採用したのは「S3というタイプです。「エスさん」という(星新一のショート・ショートの登場人物のような)読みかたをする人が多いようです。

日本語の教科書では「4次元の中の超球面」「3次元の超球面」「3次元球面」などと無秩序に呼ばれていて混乱状態なので、ここではS3と呼びます。ここ数スクロール分は覚えていてください。

 

S3宇宙は有限で、つまり大きさに限りがあり、どこか一方向に進んで行くと、元の場所に戻って来ます

具体的に説明しましょう。たとえばこの宇宙をアンドロメダ銀河の方向に進んでいくと、250万光年ほどでアンドロメダ銀河に達します

ここを突っ切ってさらに進むと、天の川銀河やアンドロメダ銀河の所属する「銀河群」を飛び出して、星も水素原子もダーク・マターもない極度に空っぽの領域に出ます

(光速より速く移動することは不可能ですが、S3の説明をする場合には、光速を超える宇宙旅行を想像してもかまいません。)

この宇宙がS3でも、そうでなくても、ここまでの旅路は同じです。

 

この宇宙が本当にS3ならば、ここから先がちがってきます

宇宙にはいくつも銀河団や銀河群が浮いています。そういう銀河群や銀河団を通過して旅するうちに、やがて前方に大きめの渦巻き銀河が現われます

その片隅には8個の惑星をしたがえた恒星があり、内側から3番目の惑星は、なにもかも懐かしい感じの青色です。

地球に戻って来たのです。

S3宇宙をまっすぐ進むと懐かしい地球が見えてくる(画像:iStock.com/Anastasiia_M)

S3宇宙では、一直線に進んでいくと、ある距離を進んだところで宇宙を一周して元の場所に戻ります。どの方向に進んでもそうなります。

これは、球面上を進んでいくと、一周して元の場所に戻ることに似ています。(じつは球面は「S2」という有限の2次元空間です。)

一直線に進むと元の場所に戻ってくるということは、光を発すると、じゅうぶん長い時間の後には、光が元の場所に戻ってくるということです。

そのため、性能のよい望遠鏡を空に向けて、光が宇宙を一周するほど長い時間待つと、自分の姿が見えます。

これをアインシュタインは「望遠鏡で宇宙の彼方を覗くと自分の後頭部が見える」と表現しました。S3宇宙のうまい説明です。

S3宇宙では、一直線に進んでいくと、ある距離進んだところで宇宙を一周して元の場所に戻る。望遠鏡で宇宙の彼方を覗くと、自分の後頭部から発した光が見える(イラスト:小谷太郎)
これは球面上を進んでいくと、一周して元の場所に戻ることに似ている。じつは球面は「S2」という有限の2次元空間だ(イラスト:小谷太郎)

宇宙の大きさはどれぐらいなのか

S3宇宙を一周するには、どれほどの距離を旅すればいいでしょうか。その距離は宇宙の大きさを表しています。

当時、宇宙の大きさについての人類の知識は不確かで、天の川銀河が全宇宙そのものだという説もありました。

そこでアインシュタインは天の川銀河サイズのS3を宇宙モデルとして考えました。これだと10万光年か20万光年ほど旅すると地球に戻ってくることになります。

 

話が前後しますが、1924年にエドウィン・ハッブル(1889-1953)は、アンドロメダ銀河が天の川銀河の外にあって、天の川銀河に匹敵する恒星の大集団であることを見いだします。

そこで人類は、宇宙が天の川銀河よりもずっと大きく、天の川銀河もアンドロメダ銀河も宇宙に浮かぶ無数の銀河に過ぎないと知りました。

最近の観測データによると、銀河や銀河団が浮いている宇宙空間は、少なくとも半径500億光年程度はあるようです。

ということは、もしもこの宇宙がS3ならば、宇宙一周には1000億光年以上の旅程が必要です。おそらくもっとずっと大きいでしょう。

 

大きさは10万光年であれ500億光年であれ、この宇宙の形がS3だと仮定するならば、その数値や情報を一般相対論の方程式に代入して、宇宙の時間変化を計算することができます

アインシュタインは、(おそらくワクワクしながら)その計算を実行しました。そしてその結果をみて狼狽(ろうばい)しました。

一般相対論の方程式からでてくる計算結果は、くしゃっと潰れてしまう宇宙を表わす解や、逆に際限なく膨張する解など、ろくなものがないのです

この宇宙が定常で未来永劫過去永遠に存在しつづけると信じていたアインシュタインは、そういう解が存在しないと知ると、一般相対論の方程式に変更を加えました。

方程式にある定数項を付け加えると、定常的な宇宙が解として許されるのです。

こうやって付け加えられた定数項は「宇宙項」と名づけられ、変更された方程式にしたがう定常的な宇宙は「アインシュタイン(宇宙)解」と呼ばれるようになります。

こうして1917年、アインシュタインは人類初の宇宙論の論文を発表します。

 

●次回は10/26の公開予定です。

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小谷太郎

博士(理学)。専門は宇宙物理学と観測装置開発。1967年、東京都生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センター、東京工業大学、早稲田大学などの研究員を経て国際基督教大学ほかで教鞭を執るかたわら、科学のおもしろさを一般に広く伝える著作活動を展開している。『宇宙はどこまでわかっているのか』『言ってはいけない宇宙論』『理系あるある』『図解 見れば見るほど面白い「くらべる」雑学』、訳書『ゾンビ 対 数学』など著書多数。

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