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前進する日もしない日も

2021.09.24 公開 ツイート

なんでも出てくる冷凍庫 益田ミリ

揚げ物でも煮物でも炒め物でも蒸し物でもなく焼いた物が食べたい日ってないだろうか。わたしはある。

ああ、焼いたもんが食べたいなぁ。

ホットプレートを使うほどの祝賀感がなくてよく、とにかく焼き目がついていればよい。

そんな夜はフライパンである。冷凍ソーセージをストックしてあるので、野菜と一緒にじゅーじゅー焼き、フライパンごと食卓へ。

買い物の回数を減らせば、当然、冷凍庫がパンパンになってくる。冷凍ソーセージ、冷凍ごはん&冷凍パン、大量に手作りして冷凍した餃子、洗って小分けにした様々な冷凍野菜、冷凍バナナ、冷凍キウイ、冷凍シフォンケーキ。

冷凍麻婆豆腐もある。中華料理屋で多めにテイクアウトした麻婆豆腐をジップロックでフリージング。

「冷凍庫あまってるな」

コロナ以前のスッカスカだった冷凍庫が嘘のようだ。今ではパンパンの冷凍庫を眺めて「なんでもある~」と癒されている。

仕事を辞めて上京したのは26年前。2ドアの小さな冷蔵庫を買った。狭いワンルームマンションである。どこに座ってもいつも冷蔵庫が視界に入った。

冷蔵庫に壁紙を貼ってみようか? そうしたらオシャレな「キャビネット」に見えるんじゃないか。

余計なことをしがちなわたしは、さっそく花柄の壁紙を買ってきた。

貼ってみた。完成したのはキャビネットではなく単に花柄の冷蔵庫だった。

東京でできた新しい友達が家にくるたび、みながわたしに聞いた。

「これ、貼ったの?」

誰ひとり「オシャレだね」とは言わなかった。引っ越すとき処分したが、部屋から出すのが恥ずかしかった。

おっと。今時計を見たら午後の2時。出かけなければ! 一旦パソコンを閉じる。

 

帰ってきた。

買ってきた。

最近オープンしたケーキ屋さんのケーキ。夜まで開いているはずなのに夕方に行くといつも「売り切れました」の張り紙。やっと、今日、買えたのだった。

チーズケーキ、バナナケーキ、チョコレートケーキ、キャロットケーキ。

うち3つはすでにラップに包んで冷凍庫へ。この原稿を書き終えたら、冷凍しなかったバナナケーキにバナナを添え、バナナづくしのおやつである。ちなみに今夜は焼き物ではなく冷凍麻婆豆腐。山椒の粉を追い足してカスタマイズするつもり。

窓から見える空が高い。

小さな楽しみを見つけるこじんまりとした日々。もうすぐコロナ禍二度目の秋を迎えようとしている。

*   *   *

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前進する日もしない日も

仕事の打ち合わせ中、まったく違うことを考えてしまう。ひとり旅に出ても、相変わらず誰とも触れ合わない。無地の傘が欲しいのに、チェックの傘を買ってくる。〈やれやれ〉な大人に仕上がってきたけれど、人生について考えない日はない。そんな日々のアレコレ。

 

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益田ミリ イラストレーター

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書に、漫画『すーちゃん』『僕の姉ちゃん』『沢村さん家のこんな毎日』『週末、森で』『きみの隣りで』『今日の人生』『泣き虫チエ子さん』『こはる日記』『お茶の時間』『マリコ、うまくいくよ』などがある。また、エッセイに『女という生きもの』『美しいものを見に行くツアーひとり参加』『しあわせしりとり』『永遠のおでかけ』『かわいい見聞録』や、小説に『一度だけ』『五年前の忘れ物』など、ジャンルを超えて活躍する。

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