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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2021.09.12 更新 ツイート

土方歳三の水着及び夏衣装が実装されないとわかるまでが夏 カレー沢薫

今、スマホでスペルをググった後に砂浜に「bye-bye」と書いたところである。

私がカタカナで書くと「ハハイ-ハハイ」という逆にこれ以上陽気な感じになってしまう恐れがあるからだ。

 

夏が終わった。
もう9月なんだからとっくに終わっているだろうと思うかもしれないが、家に帰るまでが遠足なように、ソシャゲ「Fate/Grand Order」に土方歳三の水着及び夏衣装が実装されないとわかるまでが夏なのだ。
つまり2月とかに発表されれば、もうその時点でその年の夏は終了ということになり、日本列島は「1年中冬」という異常気象になる。

確かに最近は、ウマ娘のほうに時間も金もつぎ込んでしまっている私だが、一声「土方歳三の夏衣装を出す」と言ってくれれば、こちとらは、医学や人命救助、まして巨人とは全く無関係な、売買的な意味で「心臓を捧げる」準備は出来ているのだ。

ちなみに冒頭の「bye-bye」とかけたわけではない、土方さんが出ないとわかった今、そこまでクレバーではいれるわけがないだろう。

逆に言えば「来年の夏まで生きる理由ができた」とも言えなくはない。

俺たちの心のバイブル『美味しんぼ』でも、大病を患い1年に1回コハダの寿司をたった2貫食うことを楽しみにしているジジイにすし屋が「来年はもっと良いコハダが入りますよ」と毎年言っているというエピソードがあった。

ジジイは去年言われたこととかすぐ忘れる、という話ではない、そんなものはジジイになるのを待たずとも30半ばで余裕で忘れるようになる。
「来年はもっと美味いコハダが食える」ということで「これは来年まで死ねない」という生きる希望を与えているのだ。

それと同じように「今年新撰組仲間の沖田さんオルタの水着がきたということは来年土方さんきますよ」とすし屋に言われれば、それじゃ来年まで生きてみるかという気になるし、それまでに金を貯めなければという労働意欲、内臓を少しでも高値で、という健康意欲にもつながるのである。

正直、一昨年ぐらいに普通の沖田さんの水着が来た時にも同じことを言われたが、それは関係ない、希望というのは時に嘘から生まれることもある。
しかし、そうは言ってもジジイもいつか死ぬ、もしくはすし屋が先に死ぬ。

そうなったら逆に「もう少し生きれば美味いコハダが食えたかもしれないのに」という希望が逆に心残りになってしまう恐れがある。
実際「来年まで生きればハンター×ハンターの最終回が見れたかもしれないのに」と思いながら亡くなった方もいると思う。
だが、それに関しては「全然見れてない」ので安心してほしい。
私も今死んだら、来年土方さんの夏衣装が見れたかもしれないのにという思い残しで死んでも死にきれない。

よってメーカー側には「急いでくれ」の一言である。
さもなくば各地に平将門に並ぶ怨霊が量産されることになってしまう。

しかし毎年土方さんの夏衣装を熱望しながらも「本当に来たらどうしよう」という気持ちがあることも否めない。
おそらく同じ気持ちを抱えているオタクは割と多いのではないかと思う。
「どうしよう」というのは文字通り「どうにかなる」可能性があるからだ。

実際、推しに夏衣装が来た人のリアクションというのは素直に「ヤッター!」と素直に快哉を叫んでいる人間は稀であり、大体の者が「マジ……ムリ……」とメンヘラみたいなことを言い出している。
中には「ちくしょおお! 人殺し!」とゴルゴ13に出てくる「気持ちよすぎてキレてる女」みたいになっている者もいる。

これはオタクがよく言う「しんどい」という状態なのだが、これは比喩でも大げさに言っているわけでもなく、本当にしんどいとしか言いようがないのだ。
どんなに美しい宝石でも、それを体中の穴に詰められたら死ぬのと同じである。

しかし、推しに展開がなくて餓死するよりは、推しの新規絵や新声帯に殺された方が何億倍もマシであり、オタクにとってはフィギュアや薄いDB(ドスケベブック)で圧死に並ぶ名誉の戦死である。

しかし、推しに動きがないとわかった瞬間、涙を流して残念がると同時にちょっと「ホッとしている」自分がいるのも事実だ。

これは推しが来ない=お金を使わなくて良い、という安堵かと思っていたが、最近そうではないような気がしてきた。
むしろ金なら出すし臓器なら摘出するから推しを出してくれという気持ちの方が強い。
おそらく、この安堵は「予定が狂わずに済んだ」という安堵だと思われる。

大人になると、仕事や家事、育児、介護など「何が起こってもやらなければいけない日々の仕事」というものが大体ある。

私にも、一応家事があり、守らなければいけない締め切りというものがある。
しかし、推しが水着になったらそれが守れなくなるのだ。

何を言っているかわからない方もいらっしゃるとは思うが、推しにデカい動きがあったら情緒的に、仕事とか家事とかまともできるはずがないのである。

学生時代なら1、2日寝込んでも大丈夫かもしれないが、大人になると1、2日機能停止しただけで、生活が破綻する恐れがあるため、推しが不動だと「今日もいつも通り予定をこなすことができる」という安堵が生まれるのだ。

しかし現在、コロナワクチンの副反応で同じようなことになり、コロナには罹らないかもしれないが、その前に生活や予定が狂って死んだという人もおり、むしろ予定が狂うのが怖くてなかなか打ちにいけないという人もいるのではないだろうか。

それを考えれば、推しに予定と生活をハチャメチャにされるというのはまだ幸せなことかもしれない。
今すぐにハチャメチャになりたいので、ぜひ今からでも土方さんの夏衣装を実装してほしい。

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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