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アルテイシアの59番目の結婚生活

2021.09.18 更新 ツイート

ミナミさんがこのコラムを読んでくれるといいな アルテイシア

去年の夏、今さらながら『HiGH&LOW』シリーズにハマった。

我はちっちゃな頃から夢女子で、15で夢小説を書き始めたが、生身の芸能人にハマったことはなかった。

つまりナマモノには目もくれず、二次元一筋で生きてきたのだ。

ところがハイローのとある登場人物を見た瞬間、眉間から稲妻が飛び出した。

「好き……」

 

で、そこからLDHの動画やライブDVDを見まくった。

JJ(熟女)は動体視力が衰えるお年頃。そのため踊っているメンバーを個体識別できないが、彼とメンディーさんだけはすぐわかる(メンディーさんは大きいから)

彼が画面に映った瞬間「好き……」と汗びっしょりになる。

大量発汗しながら、我は沈思黙考した。

ハイローシリーズは登場人物がむっさ多いし、魅力的なキャラは他にもたくさんいるし、彼は主要キャラというわけではない。

なのになぜ私は彼を好きになったんだろう?

その時、ふたたび眉間から稲妻が飛び出した。

「ミナミさんに似てるんだ……!」

ミナミさん(仮名)は、私が小学生の時に好きだった女の子である。

大げさじゃなく、私はミナミさんに出会って人生変わった。

幼い頃の私は人間が苦手で、いつも猫や木に話しかけていた。
人と会話するのが苦痛だったため、幼稚園ではいつも一人で空想したり絵本を読んだりしていた。

おまけに天下一の運動音痴だったため、体を動かすのも苦手だった。

小学校に入学した後も、休み時間にドッチボールやドロケイをするのが苦痛で、いつも一人で空想したり本を読んだりしていた。

つまりコミュ障でぼっちの陰キャだったのである。

そんなわけで、男子によくいじめられた。その時にかばってくれたのがミナミさんだった。

ミナミさんとは小二の時にたまたま近くの席になり、会話するようになった。

ミナミさんは活発で運動神経抜群で、いつもショートカットにズボンのボーイッシュな子だった。

おまけに腕っぷしが強かった。

ミナミさんは「オトコオンナ!」とからかってくる男子を拳でぶちのめしていた。ついでに私をいじめる男子のこともぶちのめしてくれた。

ミナミさんと仲良くなったおかげで、他の子たちとも仲良くなれて、気づくと私は陽気なおしゃべり少女になっていた。

子どもってスゲー。

もちろん陽気なことばかりじゃなく、うちは毒親家庭だったので、少女時代は戦場のガールズライフであった。

そんな中で、ミナミさんと過ごす時間だけが救いだった。

「あたしたち、腹心の友よ!」と誓い合ったわけじゃないけど、私たちはいつも一緒だった。

私が生まれた下町には輝く湖水も恋人の小路もなかったし、地元のイケてるスポットはダイエーとドムドムだったけど、ミナミさんといれば楽しかった。

公園でホッピングをしたり、神社でコックリさんをしたりと、昭和の子どもらしい日々を送っていた。

ミナミさんは団地に住む鍵っ子で、ミナミさんの家でもよく遊んだ。二人ともあだち充の漫画が好きで、『タッチ』や『日当たり良好』を夢中になって読んでいた。

一度だけ、うちにお泊りしたこともある。私には同い年の双子の弟がいて、三人で花火をした。

へび花火をしながら「うんこや!」と叫んだことを覚えている。私は45歳になっても道にうんこが落ちていると「うんこや!」と叫ぶ。そうすることによって、うんこを踏まないように注意喚起できるのだ。

何の話をしてたんやっけ(JJ仕草)

そうそう、ヒロちゃん(仮名)という友達の家でもよく遊んだ。

ヒロちゃんの家で『銀河鉄道999』のビデオを繰り返し見て、私はキャプテン・ハーロックの夢女子になった。

あの時に「傷=かっこいい」と刷り込まれたため、40歳の時に子宮全摘手術をした時も腹の傷がかっこよくて誇らしかった。

そんなある日、ヒロちゃんが犬を飼い始めた。

うちの親は動物嫌いでペットを飼えなかったため、私はヒロちゃんの犬に会うのをものすごく楽しみにしていた。

でもミナミさんはヒロちゃんの家に行きたくないと拒んだ。

「犬が怖いの? オバQみたいに」と聞いたら「昔飼ってた犬を思い出すから」と言って、ミナミさんが泣きだした。

ミナミさんの涙を初めて見た私はびっくりして、何も言えなかった。今だったらもっとうまく寄り添えたのになと思う。

ミナミさんのおかげで友達ができたけど、私はあいかわらず一人で本を読むのも好きだった。

うちの母親は子どもに本を買うより自分のブランド物を買いたい人だったので、実家に本棚はなかったし、絵本を読み聞かせてもらった記憶もない。

子ども時代の私はいつも図書館で本を借りてモリモリ読んでいた。

なので「子どもに本を読み聞かせなきゃ」とプレッシャーを感じる子育て中の友人に「大丈夫や、好きな子は勝手に読む(※個人の体験です)」と伝えている。

そのうち私は自分でも小説を書くようになった。

その時に書いたのは、ミナミさんと私が泥棒コンビとして活躍する小説だった。

幼少期の私は泥棒か探偵になるのが夢だったが、それで生計を立てるのは難しそうだと気づいて、ミステリー作家になろうと思いついた。

私の小学校の卒アルには「将来はアガサ・クリスティみたいな作家になる」と書いてある。

アガサ・クリスティには1ミリもかすってないが、一応作家にはなった。ちなみにうちの夫の卒アルには「大きくなったら恐竜になりたい」と書いてある。

夫に「恐竜になりたかったんだね」とほっこり言ったら「今でもなりたい」とまっすぐな目で返された。

ミナミさんはたしか陸上選手になりたいと言ってた気がする。

ミナミさんは足が速くて、いつもリレーの選手に選ばれていた。私は走っているミナミさんを見るのが大好きだった。

あれは恋よりもっと大きな感情だったと思う。私が「恋愛より友情の方が尊い」と思うようになった原点はミナミさんかもしれない。

でもミナミさんとはずっと一緒にいられなかった。

小4になると中学受験のために塾に毎日通わされて、友達と遊べなくなった。

親が選んだスパルタ塾では、点数が悪いと一列に並ばされてビンタされた。少女の私を殴ったおっさんがまだ生きていたら絶対に息の根を止めてやる。

当時の私はずっと「死にたい」と思っていた。学校でミナミさんに会えることだけが救いだった。

それなのに、中学生になると連絡をとらなくなった。

ミナミさんは地元の公立中学に、私は私立の女子校に進んで、当時はパソコンも携帯もない時代で、私たちは自然と疎遠になってしまった。

子どもだった私には、ミナミさんの存在がどれだけ貴重だったかわからなかったのだ。

あの人に出会えたことがどれだけ幸運なことだったか、大人になってから気づいた。

私はミナミさんのおかげで、人間を信じられるようになった。ミナミさんが自分を好きになってくれたから、自分は生きていていいんだと思えた。

毒親育ちは親に突然キレられたり怒鳴られたりするため、人間が怖くなる。一番身近にいる親が信頼できないため、人を信頼できなくなる。

戦場のような家庭育ちで人に心を開けないから、人づきあいを避けるようになったり、表面的なつきあいしかできなくなったりする。

また、親から無条件に愛される経験をしていないと「自分はこの世界に生きていていいんだ」と思えない。

かつ、人の好意がわからなくなる。

自分を好きになってくれる人が現れても「何か裏があるんじゃないか、利用するつもりじゃないか」と疑ってしまったりする。

あるいは「自分は特別に何かしないと好かれない」と過剰に尽くしてしまったり、相手に嫌われるのが怖くて無理に合わせてしまったりして、対等な人間関係を築けなくなる。

以上は毒親育ちあるあるだが、もちろん毒親育ちもいろいろだ。

いろいろだけど「みんなちがって、みんなつらい」のは事実であり、それぞれが親の呪いに苦しめられる。

その呪いを解くカギが「信頼できる人に出会うこと」「そのまんまの自分を好きになってもらうこと」なのだと思う。

私にとってはそれがミナミさんだった。

ミナミさんは裏表のない、損得のない、そのまんまの人だった。そしてなぜかコミュ障でぼっちの陰キャの私を好きになってくれた。

「なんで私を好きになってくれたの?」「なんで仲良くしてくれたの?」と聞きたいけど、ミナミさんは「は? そんなん知らんわ」と答えるだろう。

ミナミさんが原点だったせいか、その後も私が仲良くなるのはサラッとサラサーティ系の女子だった。

性別関係なく、裏表のある人や意地悪な人はいる。中高時代もそんな女子はいたし、思春期まっさかりなのでケンカや対立もあった。

それでも私は女子校が好きだった。水泳の時間にプールでキン肉バスターをかけあうのが楽しかった。

男のいない女子校は男社会からの避難所であり、私にとっては毒親からの避難所でもあった。

45歳の中年女性がプールでキン肉バスターをかけられたら死んでしまうかもしれない。

そんなJJになった今でも女子が好きだし、女子といる時が一番楽しい。女子といる時の自分が一番自然体で好きだなと思う。

そして女子に対する仲間意識が強い。我ながらだいぶ強い。この強さはMUGENの皆さんにも負けない気がする。

そんなわけで「女の敵は女? そんなバナナ わけわかめ 黙れバカめ♪」とラップしながら、バイクで暴走行為をするんじゃなく、平和に女子会をしている。

私のシスターフッドの原点になったのが、ミナミさんとの出会いだと思う。

我ながら親子ガチャは大ハズレだったけど、友情運には恵まれていた。そのことを神に感謝とかは特にしないけど、ミナミさんにはお礼を言いたい。

ミナミさんが今どこで何をしているかはわからない。

何度もネットで検索したけど出てこなくて、数年前の同窓会にも出席していなくて、周りに消息を聞いてもわからなかった。

私はミナミさんに会いたいけど、あちらの都合はわからないので、会えなくても感謝の気持ちを伝えたい。

だから万に一つの可能性でも、このコラムを読んで「これあの子じゃね?」と気づいてくれたらいいなと思う。

というわけで、最後は私信で失礼します。

ミナミさん、お元気ですか?

こちらはあの後いろいろあって、両親が遺体で発見されて、弟は消息不明だけど、私は元気です。

ミステリー作家にはならなかったけど、こつこつと文章を書きながら、恐竜になりたい夫と暮らしています。

私はミナミさんに出会って人生変わりました。あなたが私を助けてくれたように、自分も誰かを助けられる人間になりたいなと思っています。

あの時、友達になってくれて本当にありがとう。

追伸『HiGH&LOW THE WORST』という作品に、ミナミさんによく似た人が出てくるので、よかったら見てみてください。

*   *   *

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アルテイシアの59番目の結婚生活

大人気コラムニスト・アルテイシアの結婚と人生にまつわる大爆笑エッセイ。

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アルテイシア

神戸生まれ。現在の夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。 著書に『続59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』『もろだしガールズトーク』『草食系男子に恋すれば』『モタク』『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』『オクテ男子愛され講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』など。最新作は『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』がある。 ペンネームはガンダムの登場人物「セイラ・マス」の本名に由来。好きな言葉は「人としての仁義」。

Twitter: @artesia59

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