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アルテイシアの熟女入門

2021.09.01 更新 ツイート

JJはなぜDaiGo化せずにすんだのか? アルテイシア

同世代のJJ(熟女)とLINEしていたら「やったー、マンモスうれピー!」と返ってきた。

副詞にマンモスを使う人をひさびさに見た。

懐かしくて「のりピー語」でググったところ、マンモスの対義語は「ありんこ」だという知見を得た。

昨今のマンモス激おこ案件といえば、メンタリストDaiGo差別発言である。

これに対して「差別やヘイトも一つの意見だ」と擁護する声もあったが、「こんなもん許していいわけないだろ!」と大多数の人が批判したことで、DaiGoは態度を一変させて撤回謝罪するに至った。

 

この流れには、小さな希望も感じた。

差別を滅ぼすために必要なのは、社会全体が明確にノーを突きつけること。大多数の善良な人々の声が、ヘイトの暴走を止めるのだ。

「生活保護の人が生きてても僕は別に得しないけどさ、猫は生きてれば得なんで」
「自分にとって必要のない命は軽いんで、ホームレスの命はどうでもいい」
「いない方がいいじゃん。犯罪者殺すのだって同じですよ」
「邪魔だし、プラスになんないし、臭いし、治安悪くなるし」

これらの発言はもちろん許せないし、口からウミウシを産みそうになる。でも私はそれ以上に「恥ずかしい……」と感じた。

34歳の大人とは思えない、この幼稚さとイキリ感。

通訳の友人が「トランプ元大統領の英語って小学生レベルなんですよ。あのわかりやすさが支持者の心をつかむんでしょうね」と話していたが、DaiGoも200万人以上のフォロワーを集めている。

わかりやすい単純な言葉は、大衆の心をつかむ危険がある。

「貧困は自己責任」の一言ですませて思考停止する方が、貧困を生み出す社会構造を学んで考えるよりもずっと楽だ。

弱い立場の人を叩いて優越感に浸ることは、手っ取り早いストレス発散になる。

ヘイトをばらまく著名人や政治家はマンモス法螺貝を持っていて、その大きな声が人々を煽って扇動するリスクが高い。

我はありんこ法螺貝しか持たない野良作家だが、それでも言い続けたい。我々の社会は差別やヘイトを許さないと。

差別やヘイトに対抗するには、教育が大切だ。

全ての人間にはオギャーと生まれた瞬間から人権がある、差別されない権利がある」という当たり前すぎる教育を、日本はあまりにもしてこなかったんじゃないか。

スウェーデン在住の友人いわく、スウェーデンでは保育園から人権教育やジェンダー教育を徹底するという。
世間やメディアに刷り込まれる前に、真っ白な状態で教えることによって、子どもたちは差別や偏見のない大人に育つ。

また、スウェーデンでは差別的な発言や投稿をすると処罰されるそうだ。個人のモラルだけに頼るんじゃなく、ちゃんと罰則を作っている。

一方、日本では政治家が差別発言をして、ろくに処罰もされない。

その友人に「政治が腐り切っとる、ほんまギロチンにかけたろか」と言ったら「ギロチン組み立てたろかと思うよね!」と返ってきて「ギロチンまでDIYするんだ、さすがIKEAの国の人」と感心した。

私はあの象形文字の壁画みたいな説明書を見ながら、いつも途方に暮れている。でも組み立て代行サービスを頼むと結局割高になっちゃって……

なんの話をしてたんやっけ(JJ仕草)

また、スウェーデンでは子どもに民主主義を根本から教えるそうだ。

「スウェーデンでは政治を批判するのは国民の義務だし、良いことだとされているよ」という友人の言葉に、来世はスウェーデンに転生して長靴に住もうと思った。

ここで驚くべき事実を知った。私は『長くつ下のピッピ』は長靴に住む妖精の話だと思っていたが、長い靴下を履く少女の話なんだそうだ。

いくつになっても人生は発見の連続、しゃかりきコロンブスである。なんの話をしてたんやっけ。

日本では政治批判すると「反日」「パヨク」と呼ばれたり、「芸能人が政治を語るな」「ろくにわかってないくせに」と叩かれたりする。

芸能人が政治を語るなと言ったら、会社員も学生も主婦も誰も語れない。

国民が意見を言ってそれを反映するのが民主主義なのに、わかってないのはそっちだろ! と尻からアナコンダを産みそうになる(産めるものなら産みたい)

こうして政治家たちは都合のいい国民を育ててきたのだ。

国民が「本人の努力不足」と自己責任教に洗脳されていたら、政治批判されずにすむ。

「文句を言うのはワガママ」「黙ってお上に従え」と奴隷教育されていたら、権力者はやりたい放題できるだろう。

20年前に小泉政権が発足した頃から「自己責任」という言葉をやたらと聞くようになった。同時に国民の経済格差がどんどん開いていった。

30歳の女友達が「大学の授業でホームレス問題を取り上げた時、『ホームレスは自己責任だと思う』と9割の子が答えてました」と話していた。

その子たちもオギャーと生まれた瞬間から「ホームレスは自己責任」と思っていたわけじゃないだろう。

まともな人権教育を受ける機会がなかったことは、子どもたちの責任ではない。

私は10代を山の上の女子校で過ごした。

そこは明治にアメリカ人の女性宣教師が作ったキリスト教の学校で、「あなたの隣り人を愛せよ」が基本理念だった。

毎日の礼拝や授業で差別や人権について学んだし、ボランティア活動もさかんだった。

そんな環境で育った私は「差別は絶対にあかん」「世の中、助け合いが基本やで」とごく自然に思うようになった。

学校ガチャに左右されず、全ての子どもが差別や人権について学べるように、義務教育で教えるべきだ。

でも義務教育を変えるには政治を変えなきゃいけなくて、奴隷教育のせいで国民は政治に興味がなくて、ほんまにどうしたらええんやろか……ヤン・ウェンリー転生してきてくれないかな……

ヤンに会いたい……(泣いてる)

涙を拭いて、DaiGoのことを考えよう。

彼は大金を稼げる自分を成功者だと思い、自信過剰になってイキっているのだろう。

金を稼ぐことが人間の価値だと信じているため、「金を稼げない、役に立たない人間はいない方がいい」と思っている。

「人がゴミのようだ」とガチで言っちゃうぐらいの中二病、と言うと中二の皆さんに失礼なぐらいの幼稚さだ。

かつ、彼の発言からはウィークネスフォビア(弱さ嫌悪)を感じる。

彼は「子どもの頃にいじめられていたが、いじめっ子に反撃したら周囲の態度が変わった」とよく話している。

いじめやハラスメントに反撃できる人ばかりじゃないし、「もっとひどい目に遭うんじゃないか」と不安になって当然だ。

DaiGoはキレて壁にナタを投げつけたらしいが、相手に怪我させてしまったら自分が加害者になる。

いじめやハラスメントの被害者に必要なのは、周囲のサポートだ。

周りが見て見ぬふりをしないこと、「一人で抱え込まず相談してね」「助けを求めてね」と伝えることが大切なのだ。

子ども時代のDaiGoに助けてくれる人がいなかったのなら、可哀想に思う。周りの大人たちがいじめを止めるべきだった。

でもDaiGoは「俺は可哀想な被害者じゃない、そんな弱い奴らといっしょにするな!」と言うんじゃないか、知らんけど。

彼の本心は知らんので、これは私の勝手な想像である。

「自分は可哀想な被害者じゃない、そんな弱い奴らといっしょにするな」というのがウィークネスフォビアである。

ウィークネスフォビアをこじらせると「やられっぱなしの弱い奴が許せない」と弱者を叩く側になる。

新刊『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』に書いたが、うちの父は有害な男らしさをじっくりことこと煮詰めたようなおっさんだった。

彼は「弱いからいじめられるんだ、強くなってやり返せ!」と息子を殴って「俺は我が子を谷底に落とす獅々だ」とイキっていた。

そして事業に失敗して全てを失って、最期は誰にも助けを求められず自殺エンドとなった。

私がトランプを見ると吐きそうになるのは、父に似ているからだと思う。

トランプは議会襲撃前の集会で「強さを見せるんだ! 強くならなければならない! 弱さでは私たちの国を取り戻すことはできない!」と演説して支持者を煽った。

議事堂の廊下には、暴徒がおしっこやうんこをした形跡があったという。そんなの小学生でもやらないだろう。

私もおしっこやうんことコラムに書くけど、人前でするのは無理だし、国会の廊下でするとか絶対無理……みたいな話はどうでもよくて。

「この世は弱肉強食だ、勝つか負けるかだ」「負ける奴はバカで弱いから悪いんだ」と人を見下す人間を見ると幼稚すぎてめまいがする。

同時に「恥ずかしい……」と赤面するのは、私にも恥ずかしい過去があるからだ。

私は毒親から逃げるために18歳で家を出た。そしてバイト漬けで学費や生活費を稼ぎながら、国立大学に通っていた。

当時は親のお金で留学したり教習所や語学スクールに通う同級生に対して、ねたみ・うらみ・つらみ・そねみでガールズバンドを組める状態だった。

そんな自分がみじめで劣等感の塊だったからこそ、周りを見下すようになった。

「苦労知らずの甘ちゃんめ」と周りをバカにして「こんなに苦労や努力をして俺ってスゲー!」と選民意識をこじらせて「努力してない奴を許せない」と考えるようになっていた。

そんなふうに考えないと、やってられなかったのだ。そのせいで大学時代はあまり友達ができなかった。

当時はハタチそこそこの娘さんだったし、しかたないよな~と思う。でもやっぱり思い出すと恥ずかしい。

大人になって視野が広がって、その考えが間違っていたことに気づいた。

私は親子ガチャはハズレだったけど、私立の中高に通えて、国立大学に入学できて、バイトで稼げたことはラッキーだった。
努力したくてもできない環境にいる人、スタート地点に立てない人もいるのだから。

そう思えるようになったのは、20代前半でフェミニズムに出会ったことも大きい。

フェミニズムは弱者が弱者のまま尊重されることを求める思想だ。

強者になりたい人はなればいいけど、無理に強者を目指さなくていいし、強者だからといって弱者を差別してはいけない。

どんな立場や属性の人も尊重される社会を目指すのがフェミニズム。

みたいなことを全部、フェミニストの先輩たちの本から学んだ。

新卒で広告会社に入社したことも大きかったと思う。

その会社の正社員は高学歴エリートばかりで、特にカースト上位の一軍男子みたいなタイプが目立っていて、朝から晩までコスパコスパ言うてる彼らのイキりちらかしたエリート意識やオラついたホモソノリが……

と悪口が止まらないが、要するに私は彼らが嫌いだった。

彼らはナチュラルに人を見下して、特に女を見下していた。男社会の優等生として生きてきて、ミソジニー(女性蔑視)が染みついていたのだろう。

傲慢で尊大な彼らと働くことで「こんな人間にだけはなりたくない」とDaiGo化せずにすんだので、今では感謝しているなんてことは全然なくて、今でもひたむきに嫌っている。

同質性の高い集団内では、強者は自分が強者だと思わずに生きている。そして強者であればあるほど自分の特権に気づきにくい。

社会が大きな教室だとすると、エリートは一番前の席に座っている人たちだ。後ろの席の人からは黒板が見えづらいし、授業の声も聞こえづらい。

一番前の席で後ろを振り返ったことのない人には、それがわからない。

弱い立場の人やマイノリティの存在が見えないから「本人の努力不足、自己責任」といって、社会の構造を変えようと思わない。

たとえば、東大生の親の半数以上が年収950万円以上だ。親の経済格差が教育格差につながり、進学という選択肢すらない人もいる。

塾や習い事をする余裕などなく、家計を支えるためにバイトする子どももいる。日本は7人に1人の子どもが貧困状態にあり、先進国で最低レベルだ。

それを知識として知っていても、リアルで見たことがないため、存在が「ないもの」にされてしまう。

「俺だって必死で努力してここまで来たんだ!」と本人は思っているが、そもそもスタート地点に立てない人が見えていない。

そんな人ばかりが組織の中心にいたら、価値観が偏るのは当然だろう。よって同質性の高いメンバーから、多様性のあるメンバーに変える必要がある。

また偏った価値観を学び落とすため、大人にも人権教育やジェンダー教育が必要だろう。

私は6年目で会社を辞めてよかった。ずっとあの場所にいたら、男社会に染まって女王蜂になっていたかもしれない。そんなのマンモスおそろピー。

退職後、私は「いずれ文明は破綻して紙幣は紙くずになるぞ」と真顔で言うオタクと結婚した。
夫は弱い立場の人に優しいし、誰かが困っている時に見て見ぬふりをしない。

要するに、私はそういう人間が好きなのだ。お金はあんまりないけど、気の合う相棒や友人たちがいてマンモスハッピーである。

「俺も金持ちになりてえ」とDaiGoに憧れる子どもや若者もいるだろう。

でも人を見下して差別して良いことは何もない。

傲慢で尊大な人は嫌われるので、まともな人は離れていくし、利害目的の人しか寄ってこない。

利害目的の人は「こいつと関わると損だな」と判断すると切り捨てる。それこそ脱税や不正がバレて財産をボッシュートされたら、何も残らないのだ。

人を尊重しない人間は、人から尊重されない。スタンド使いは引き合う法則と同じで、優しい人には優しい人が寄ってくる。

だから自己責任論や弱さ嫌悪を「ブッ壊すほど……シュートッ!」とゴミ箱に捨ててほしいなと、このJJは思うのだ。

このJJには『夢』がある!

それは全ての人が尊重される、安心して暮らせる社会にすることだ。

そのために「アルテイシアは死んでも法螺貝を離しませんでした」の覚悟で、長生きしたいと思う。

 

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コメント

あーみん@6m  “スウェーデンでは子どもに民主主義を根本から教えるそうだ。 「スウェーデンでは政治を批判するのは国民の義務だし、良いことだとされているよ」という友人の言葉に、来世はスウェーデンに転生して長靴に住もうと思った。” https://t.co/S4bPmOsvqo 8日前 replyretweetfavorite

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人生いろいろ、四十路もいろいろ。大人気恋愛コラムニスト・アルテイシアが自身の熟女ライフをぶっちゃけトークいたします!

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アルテイシア

神戸生まれ。現在の夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。 著書に『続59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』『もろだしガールズトーク』『草食系男子に恋すれば』『モタク』『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』『オクテ男子愛され講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』など。最新作は『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』がある。 ペンネームはガンダムの登場人物「セイラ・マス」の本名に由来。好きな言葉は「人としての仁義」。

Twitter: @artesia59

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