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原発事故10年目の真実 ~始動した再エネ水素社会

2021.03.30 公開 ツイート

#16

東芝、日立、三菱重工の失敗 菅直人

いまも続く福島と日本各地の原発問題。急成長する再エネの現状を追いながら、原発全廃炉への道筋とその全貌をまとめた『原発事故10年目の真実 〜始動した再エネ水素社会』(菅直人著)から、試し読みをお届けします。

政府が原発ゼロを決めないために、原発にのめり込んだ結果、巨額の赤字を背負い込んだのが、東芝と日立だ。この2社もいまは原発事業から完全に撤退した。

 

東芝は2006年にアメリカ第二の原発メーカーのウェスティングハウスを買収し、東芝グループの一社とした。アメリカで原発を作るために買収したのだ。だがうまくいかず、約98億ドルの損失を出して、2017年にウェスティングハウスは経営破綻し、米連邦破産法(日本の民事再生法にあたる)の適用を申請した。このときには会計処理をめぐって不正があったことが発覚し、大揺れした。東芝本体が倒産するのではとまで言われた。

日立は2012年に、イギリスの発電会社ホライズン・ニュークリア・パワーを買収した。メーカーが発電会社を買ったのは、ホライズンが建設予定だった原発を日立が受注するためだ。イギリスは、原発を減らす政策はとっていないが、といって、どんどん作れというのでもなく、いまあるもののリプレース(建て替え)は認めるという政策だ。

ホライズンも、イギリス西部のアングルシー島に2基を新設する計画だった。2015年2月に視察に行ったことがある。

現在の古い型の原発周囲の農場を、巨額の価格を提示して買収を進めていた。そこは比較的貧しい地域で、買収に応じて移転した家の廃墟があちこちにあった。しかし、400年以上、この地に住む一家は買収に応じておらず、私たちを温かく家に迎えてくれた。

アングルシー議会で議員全員を前に話をすることもできた。原発を推進するコンサルタントも同席して、いかに建設予定の原発が安全かを話していたが、私は「福島原発事故のときに半径250キロ圏内から5000万人の避難の可能性が専門家から提示された」「福島原発の事故の検証は終わっておらず、すべての原発が停止している(当時)」「それにもかかわらず、日立が安全と言って外国で原発を建設することは倫理にも反し、日本国内でも反対している」と明確に述べた。

アングルシー議会の議員の多くは、雇用が生まれるなど経済的理由で賛成していると聞いていたが、疑問を感じている議員の発言もあった。その後の住民の会合には会場に入りきれないほどの人が集まり、熱心に話を聞いてくれた。集まった人々は反対の人が圧倒的だった。

3・11以降どの国でも安全規制が強まったため、原発の建設費が日本円にして約3兆円に膨れ上がった。そこで日立はイギリス政府に対し、向こう40年間の電気料金の保証を求めた。再生可能エネルギーの普及で、電気料金が安くなる可能性があり、それだと建設費を回収できないおそれがあったからだ。だがイギリス政府は「一時金を出すのはいいが、何十年間も電気料金を保証することはできない」と主張したため交渉は決裂し、計画は凍結された。

日立はプロジェクトから撤退し、3000億円の損失を出している。

もう一社が三菱重工で、政府とタッグを組む形で海外へ原発を売り込んでいた。これには私も一役買っており、反省するしかない。民主党は新成長戦略の柱として原発輸出を掲げており、私も総理在任中、もちろん3・11の前だが、トルコ、ベトナムに日本の原発をトップセールスしていた。そのメーカーとして予定されていたのが、三菱重工だった。だが、トルコもベトナムも、現地の反対の声が強まり、計画が頓挫した。

東芝、日立、三菱重工が相次いで原発事業から撤退

3社がすべて大きな傷を負っているので、これで日本のメーカーが海外で原発に手を出すことはないと考えている。安倍政権の継承を掲げる菅(すが)政権はまだ海外輸出をあきらめていないようだが、政治的にもありえない政策だ。

いま、世界で原発を増設しているのは中国とロシアだ。アメリカもフランスも増えてはいない。アメリカはかなりの数の閉鎖・廃炉を決めている。

日本では、3・11までは新設計画が6基、建設中が3基あったが、すべて止まっている。3・11以後、安全基準が厳しくなり、建設費が当初の予算の何倍にもなりそうなので、常識的に考えれば採算がとれないからやめるところだ。しかし、原子力ムラは常識の通じない世界なので、まだあきらめていない。

原発にまわす資金があれば風力や太陽光の発電所を建てたほうが将来性もあるし、採算もとれるはずだが、なぜかその方向へ行かない。別に法律で、9電力会社は再生可能エネルギーで発電してはいけないとなっているわけではないのに、やろうとしないのである。

関連書籍

菅直人『原発事故10年目の真実 始動した再エネ水素社会』

全廃炉しかない――3.11で総理大臣だった私が、180度方針転換して分かったこと、してきたこと。 ◯原発ゼロでもCO2を削減し、全電力をまかなえる ◯営農しながら発電するソーラーシェアリングの威力 ◯事故後に決めた3つの政策(「エネルギー基本計画の白紙」「保安院の廃止」「FIT制度の創設」)がいま効いている ◯発送電分離・独立がなぜ重要なのか ◯廃炉へ促す「原発一時国有化」のメリット ◯フィンランドのオンカロ視察――使用済み核燃料の地層処分――

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原発事故10年目の真実 ~始動した再エネ水素社会

原発ゼロは達成できる——その論拠、全廃炉へのすべて。3.11で総理大臣だった著者がこの10年でしてきたこと、わかったこととは。事故後、新エネルギーへの道を切り開いた重要な3つの政策から、急成長する再エネの今、脱炭素の裏にある再稼働の動き、全廃炉へ向けた問題と解決の全貌がわかる。

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菅直人

1946年山口県宇部市生まれ。衆議院議員、弁理士。70年東京工業大学理学部応用物理学科卒業。社会民主連合結成に参加し、80年衆議院議員選挙に初当選。94年新党さきがけに入党し、96年「自社さ政権」での第1次橋本内閣で厚生大臣に就任。同年、鳩山由紀夫氏らと民主党を結成し、党代表に就任。2010年6月第94代内閣総理大臣に就任(~2011年9月)。著書に、『大臣』(岩波新書)、『東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと』(幻冬舎新書)、『総理とお遍路』(角川新書)などがある。

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