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雅子さまの笑顔

2020.05.01 公開 ツイート

ご即位1周年。いま、病で苦しまれた雅子さまが皇后であることの意味 矢部万紀子

病を得た方が皇后であることの意義

それから10年経った2003年(平成15年)12月、雅子さまは公務を停止した。「適応障害」という病名が発表されたのが翌年7月で、今も療養は続いている。雅子さまに何があったのか。皇太子さま(当時)から「雅子のキャリアや、そのことに基づいた雅子の人格を否定するような動きがあったことも事実です」という発言があり、「外国訪問できなかったということなども含め」雅子も私もとても悩んだという追加説明もあった。だが、それだけではないだろうと思った人は多かった。

中でも敏感に反応したのが、均等法第一世代の女性たちだった。彼女たちも悩んでいたから、雅子さまに自分を重ねたのだ。均等だったのは雇用機会だけ、会社は相変わらず男性ファースト。その現実を前に彼女らは、直感的に雅子さまの現状を把握した。皇室という組織が雅子さまの活躍を阻んでいる、と。

令和が始まる3カ月前に『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)を上梓した。民間から皇室に入り、ミッチーブームを起こした美智子さま。皇后になってからも、国民の期待以上の働きをされた。その奇跡の軌跡を描きつつ、後に続く雅子さまの苦しさも書いた。

社会貢献しようと入った皇室で、まず期待されたのは「男子出産」だった。そのことは、金澤一郎さん(元皇室医務主管)の証言で紹介した。再掲する。

〈ご成婚前に、いわゆる「皇室外交」もできるからと説得をお受けになったようですね。
ただ、皇室に入られてから、想像されたことと違うことがさまざまおありだったと思うの
です。皇室では、外国の王室も同様ですが、まずは「お世継ぎ」を期待されます。しかし、初めの六年半はお子さまに恵まれなかった。〉(「文藝春秋」2012年8月号「前皇室医務主管独占インタビュー」)

拙著を読み、「涙が出た」と言ってくれた人がいた。均等法第一世代の女性だった。あんな素晴らしい人が苦労されたことが、改めてわかった。自分も新卒で入った会社で悩んだから、心にしみた。そのような感想の後、最近の雅子さまが明るくてうれしい。そう言って笑っていた。

NHKのニュースに話を戻す。土川さんは雅子さまのことを「目立ちたがり屋さんではないので控えているけれど」、人気者だったと語った。お茶目で、快活で、コロコロ笑い、周囲を朗らかにする、そんな存在だった、と。

それを聞いて、ああ、国民はそういう雅子さまを見たいのだなと思った。皇太子妃時代、国民は雅子さまをあまり見ることができなかった。療養中で公務をお休みされることが多く、不登校になった愛子さまに付き添って登校する姿などが報じられたが、お茶目で快活な姿とはほど遠かった。

番組中、「即位後朝見の儀」に車で向かう雅子さまの映像が、何度も流れた。歴代皇后に伝わるティアラをつけ、ローブ・デコルテの正装。雅子さまは車の窓を開けて、待ち構えていた人々に笑顔で手を振られていた。

司会の武田アナが「半蔵門に入る時の映像ですが、何度も見ましょう」と言っていた。四時間近い番組を持たせるには、繰り返しは当然必要なことではあったのだが、国民は雅子さまの笑顔を求めているのだと実感させられる言葉だった。

雅子さまが体調を崩したことについても、番組は話題にした。雅子さまのもう一人の友人、谷川由子さんは「つらいことも多かった雅子さまだからこそ、難しい環境にある方、悲しい思いをなさっている方に、よりお心を添えることができる立場であり、そのことでご自身が輝くことになる。そうお察し申し上げております」と語っていた。

谷川さんのこの発言は、たぶん多くの国民がすでに感じ取っていることだと思う。そう、病を得た方が皇后であることに意義がある、と。

関連書籍

矢部万紀子『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』

弾けるような笑顔、華やかなファッション、外国賓客に対する堂々たる振る舞いと、日々輝きを増す皇后雅子さま。しかし、一九九三年のご結婚から今日までの道のりは、長く苦しいものだった。外交官から皇室へと新しい人生を選択したものの、男子出産の重圧にさらされ、生きる意味を見失った日々。そこからどう立ち直ってこられたのか?失わなかった「普通の人としての感覚」とは?雅子さま、そして愛子さまほか女性皇族にとって生きやすい皇室を考えながら、誰にとっても生きやすい社会のあり方を問う、等身大の皇室論

矢部万紀子『美智子さまという奇跡』

一九五九(昭和三四)年、初の民間出身皇太子妃となった美智子さま。その美しさと聡明さで空前のミッチーブームが起き、皇后即位後も、戦跡や被災地を幾度となく訪れ、ますます国民の敬愛を集める。美智子さまは、戦後の皇室を救った“奇跡”だった。だが、今私たちの目に映るのは、雅子さまの心の病や眞子さまの結婚問題等、次の世代が世間にありふれた悩みを抱えている姿。美智子さまの退位と共に、皇室が「特別な存在」「すばらしい家族」である時代も終わるのか? 皇室報道に長く携わった著者による等身大の皇室論。

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矢部万紀子 コラムニスト

1961年三重県生まれ。コラムニスト。83年朝日新聞社に入社し、記者に。宇都宮支局、学芸部を経て、「アエラ」、経済部、「週刊朝日」に所属。94年、95年、「週刊朝日」で担当したコラムをまとめた松本人志『遺書』『松本』(ともに朝日新聞出版)がミリオンセラーになる。「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理をつとめたのち、書籍編集部で部長をつとめ、2011年、朝日新聞社を退社。シニア雑誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長となる。17年に株式会社ハルメクを退社し、フリーランスで各種メディアに寄稿している。著書に『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)がある。

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