この夏は記録的な猛暑にも関わらず、多くのかたに店にお越しいただきありがとうございました。会計の際にイントネーションが違うなと思ったら東北からのお客さんだったり、「大阪から来ました。スタンダードブックストアの中川さんから『まだTitleに行ってへんのか⁉』と言われてしまって……」と会って早々になぜか苦情を言われたり、ともかく様々な地域からお越しいただけたようです。
人によって旅するときの楽しみは様々だと思いますが、本好きの人が旅をすれば、旅先にある本屋には、立ち寄らずにはいられないでしょう。さらに言えば「定有堂書店に行きたいから鳥取に行く」といったように、行きたい本屋ありきで旅をする場所が決まることだってあるかもしれません(そのような本屋好きの人に向けた、全国の本屋さんを特集したガイドブックが何種類も発売されています)。
わたしも旅に出たら、その土地の本屋には必ず立ち寄ります(体が勝手に動いています)。大きめの新刊書店ならその地方について書いた本や、地元作家を集めた本棚があるので、まずはそこを見てその土地に関する大まかな知識を仕入れ、商業出版・個人制作問わず、地元で作られた出版物をいくつか買って帰ります。いまでは残念ながら書店がない地域も増えており、道の駅や個人美術館など、思わぬところに珍しい本が置いているケースも見かけるようになりました。
いまはどの町にどんな本屋があるのか大体の情報があるので、店を探す手間が省ける反面、「こんなところに、こんなよい品揃えの本屋さんを見つけた!」という驚きはほぼなくなってしまったように思います。以前松本を旅したとき、何回か泊まったことのあるホテルのまえに新しい古本屋が出来ており、入ってみたら「どこからこんな本を仕入れたんだ……」と驚く品揃えでした。スイッチが入り、気がつけば何冊もの本を手にしていましたが、これが前もってその店のことを知っていれば、それほど感動しなかったかもしれません。いつかまたどこかの町で、そうしたうれしい出合いがあることを願っています。
今回のおすすめ本
熊本の橙書店が発行する文芸誌『アルテリ』の六号は、熊本文芸の魂のような存在でもあった、石牟礼道子の追悼特集。それぞれの書き手の故人にたいする想いが素直に表された、「アルテリだから」という内容です。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2024年5月10日(金)~ 2024年5月28日(火)Title2階ギャラリー
キッチンミノル出版記念写真展「ひこうきがとぶまえに」
~航空整備士の仕事~
しゃしん絵本作家のキッチンミノルが出版社を立ち上げました。第一作目は、飛行機が格納庫に帰ってきてから、再び空に飛びたつまでの航空整備士さんの仕事を、JAL全面協力の元、キッチンミノルが温度感ある写真と文章追いかけたしゃしん絵本『ひこうきがとぶまえに』です。紙面では航空整備士の仕事や見たことない機器、機械類がページいっぱいに広がります。
今回は絵本の中の写真や惜しくも絵本には収めることができなかった写真を展示します。写真だからこそ伝わる迫力! 緻密さ!! 臨場感!!! 子どもだけでなく、大人も一緒に楽しめます。
◯【店主・辻山による<日本の「地の塩」を巡る旅>書籍化のお知らせ】
スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」がとうとう書籍化! 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。
『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』
著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Title予約サイト
◯【書評】
『涙にも国籍はあるのでしょうか―津波で亡くなった外国人をたどって―』(新潮社)[評]辻山良雄
ーー震災で3人の子供を失い、絶望した男性の心を救った米国人女性の遺志 津波で亡くなった外国人と日本人の絆を取材した一冊
◯【お知らせ】
店主・辻山の新連載が新たにスタート!! 本、そして読書という行為を通して自分を問い直す──いくつになっても自分をアップデートしていける手段としての「読書」を掘り下げる企画です。三ヶ月に1回更新。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。
毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。4月16日(日)から待望のスタート。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
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本屋の時間
東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。