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『中動態の世界』で考える

2017.08.01 更新 ツイート

第3回(全4回)

一発ですべてを変える「革命」を求めても、世界は変わらない國分功一郎/千葉雅也

哲学を1回かじっているかいないかで、何かが大きく違う

國分 それに言葉を継ぐとさ、そういうことをやるときには、やっぱり哲学がとても重要だと思うわけ。哲学を1回かじっているのとかじっていないとでは、何かがすごく違う。どういう例がいいかなあ。よく世の中でね、何かの問題への解決策として、ものすごく陳腐な結論が出てくることがあるでしょ。哲学を勉強していれば、いや、これ陳腐だから、これちょっとおかしいでしょって思えることがたくさんある気がする。
 だけど、これは僕らみたいな研究と教育に関わっている人間の責任なんだけど、哲学というものが、少なくとも日本ではそんなに身近に感じられていると思えない。だから、僕はこの後、哲学教育を一生懸命にやりたいなと。教科書を作るとか、実はいろいろ案があって、考えてるんです。哲学というものをもうちょっと身近に考えてもらいたくて。
 今回の本のあとがきで書いたんですが、哲学ってよく、「真理を探究してるんですか」と言われるんだよね(笑)。

千葉 まあ、言われますよね。

國分 「人生の真理、極めちゃってるんですか?」みたいに言われるんですが、全然極めてないですよ。真理じゃないんですよね。何か問題があって、その問題に答えようとして、悪戦苦闘して、何か概念を作る。理論と言ってもいいですけど。哲学というのは、そのプロセスだと思うのね。これはドゥルーズも言っていることだね。哲学において大切なのは真理じゃなくて、問題とそれに応える概念。
 だから、今回も、依存症とか民主主義とか、いろんな問題との出会いがあって、それに対応しようとして、哲学を使って悪戦苦闘した。僕は今回は、中動態という概念を練り上げる形で応えようとしたけど、こういう、哲学を勉強して、その使い方を様々な仕方で経験しておくことは、シチズンシップを涵養していくのに、とても役立つと思うよね。

千葉 うん。基礎力ですよ。ビジネスをやるのにも役立つことです。問題を立てるのは、すごく基礎的なことですからね。というか、人ってなかなか問題を立てようとしない。問題を立ててしまうと気持ち悪いから、みんな問題を見ないようにしてる。

國分 そこが問題ですね(笑)。

千葉 まず問題を立てることの気持ち悪さというか、ある種のマゾヒズムに引き込む必要がある。哲学教育はそこが難しいんじゃないですか。

國分 それはよくわかるな。
俺も中動態のプロジェクトは、遅く見積もっても、2012年にはスタートしているんですよ。実際はもっと前からスタートしてるんだけど、少なくとも五年ぐらいはモヤモヤとした、はっきりとしない状態を生きてきたわけですね。「終わんないなあ」とか、「ここの章をどうしようかなあ」とか。たまに執筆で行き詰ってウーってなって、家族にも迷惑をかけたし。
 問題を考えながら日常生活もするってすごく大変ですよね。山に籠もって真理を追究してるんだったらむしろ楽。でも、山に籠もるわけにはいかないし。

千葉 そう。問題を立てることの気持ち悪さに、生活との両立が加わるから、なおさら大変。

國分 そうなんです。ただ、これには慣れもある。自分なりのやり方を発見すればなんとかできるところもある。だから、確かに問題を立てると気持ち悪いというのは、ほんとそうなんだけど、そことどうつきあうかを、1人1人が自分なりに学べたらいいと思うんですよね。

千葉 問題を立てるというのをポジティブに言えば、深みがあって、やりこみようがある、難しいおもちゃを抱え込むようなものですよね。いろいろいじってて、こんなこと始めなきゃよかったと思ったりしながら、でも、やってると面白くなってくる。ただ、一般には、何か問題の影がチラッと見えただけで、「ヤバい。もう近づくのやめよう」となるケースが多いと思うんですよ。
 そこで、そのヤバい遊びにどう引き込むかというあたりが問題で、それはちなみに、僕の『勉強の哲学』では、その引き込みについてまさに言語化して、説明しておりますので、ぜひ(笑)。

國分 狙っているわけじゃないのに、偶然、千葉君の本の話になっちゃうね(笑)。

千葉 そうそう。偶然なっちゃうんだけどね。

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『中動態の世界』で考える

『中動態の世界――意志と責任の考古学』(医学書院)と『勉強の哲学――来たるべきバカのために』(文藝春秋)。今年の2大話題作の著者、國分功一郎さんと千葉雅也さんの対談を4回にわたってお届けします。

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國分功一郎

1974年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。高崎経済大学を経て、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。専攻は哲学。主な著書に、『スピノザの方法』(みすず書房)、『暇と退屈の倫理学 増補版』(太田出版)、『ドゥルーズの哲学原理』(岩波現代全書)、『来るべき民主主義』(幻冬舎新書)、『近代政治哲学』(ちくま新書)、『民主主義を直感するために』(晶文社)、『中動態の世界』(医学書院)、『スピノザ「エチカ」(100分de名著)』(NHK出版)など。

千葉雅也

1978年栃木県生まれ。東京大学教養学部卒業。パリ第10大学および高等師範学校を経て、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻表象文化論コース博士課程修了。博士(学術)。哲学/表象文化論を専攻。フランス現代思想の研究と、美術・文学・ファッションなどの批評を連関させて行う。現在は、立命館大学大学院先端総合学術研究科准教授。主な著書に『動きすぎてはいけない』(河出書房新社)、『べつのしかたで』(河出書房新社)、『勉強の哲学』(文藝春秋)など。

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