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ハイスペック女子のため息

2019.06.11 更新

結婚がすべてじゃないけど

【居場所を考える】私は松居一代のことを笑えない〔再掲〕山口真由

幻冬舎plusフェスまであと2日!!

恋愛も結婚も、基本のふたりの関係がうまくいっているなら、そこは素敵な心のオアシス。安心して帰ってこられる場所があるのはすばらしいことです。でもそれが手に入りそうで入らないとか、想像と違ったとか、癒しからシビアな場所に変わっていたとか……。居心地よく過ごしたい筆頭の場所を、さて、私たちは、どう整えていけばいいのでしょうか。

*   *   *

 

1 「マツイ棒」まで使ってお掃除する女って怖くない?

「いや~、こんなきれいなお姉さんと飲めて」

「お姉さんって歳でもないですけど……」

「そうだね。もう、おばさんか」

カウンターで冷えた日本酒を飲みながら、私より8つ年上の男は軽く笑う。自分で卑下する分には何の問題もないことが、他人からあえて口にされることで刺さるように感じる。続けて彼は言う。

「その倫理感とか、常識とか、この人に自分の子どもを育ててほしいって、そう思って、僕は結婚した」

そっか。なるほど。結婚ってそういうものなんだ。なんとなく、自分が結婚できない理由が分かった気がする。そっか。私の倫理観、私の常識――それに自分の子どもを託そうと思う人っていないだろうな。なんか、自分で納得、うん。

(なんで私は普通のことをちゃんとできないんだろう?)

家に帰って、なんだかとても惨めな気持ちになる。私の人生はこのまま平坦に続いていくのかもしれない。年老いたときに、パートナーを持たず、子どももいないことを、私はきっと寂しいと思うのだろう。自分の人生が曲がり角から下り坂に差し掛かり、ゆるゆると老いを迎えるときに、若く昇っていく存在が身近にあることが、どれだけ希望になるのだろう。

考え事をしたからか、暑さのせいか眠れない……

「そうだ、松居一代のYOUTUBE投稿を見よう」と思いつく。

最近、日本の多くの人がこの新しいユーチューバーから目を離せずにいる。正直、私はこの人が可哀そうだと思う。「夫に未練はない」という言葉が、これほど未練たらたらに響いたことが、かつてあっただろうか。自分で資産を増やす賢い女性が、愚かな姿をさらして日本中の笑い者になって。

うちの妹によれば、百歩譲って船越英一郎が不倫をし、ここ数年松居一代がそれに耐えていたとしても、松居一代と結婚した15年超を耐え続けた船越英一郎の方が可哀そうだという。確かに、そうかもね。っていうか、なんでこの人と結婚したんだろうね。この人、こうなる前から、そういう傾向はあったよね。お掃除の仕方とかめっちゃ怖いしね。あんな隙間まで「マツイ棒」とかで掃除する人、めっちゃ怖くない?

とにかく、この人といると疲れるだろうという気はする。前にテレビで観たけど、彼女は常に何かをしている。朝起きた瞬間から、時間を最大限活用しようとする。何かせずにはいられないのだ。自分の能力の限りを尽くして闘う以外の選択肢を持たないのだ。待った方がいいとか、距離を置いた方がいい、一歩下がって冷静になろう、そういう発想をすることができない。

ベッキーだって、「ゲス不倫」と言われて大きなスキャンダルに巻き込まれたとき、その大きな黒い不幸が頭上を通り過ぎていくのをずっと待っていることができなかった。会見を開き、週刊文春に直筆でお詫びの手紙を書き……

スタジオジブリの『魔女の宅急便』の中で、主人公の新米魔女キキが魔法の力を失う場面がある。相棒のクロネコのジジと会話することができない。箒に乗って空を飛べなくなったキキは、自分の魔法の力の象徴を失った。そして、自分のアイデンティティを見失ったように途方に暮れる。ついに偶然いきがかった絵描きのウルスラに、もし絵を描けなくなったらどうするのかを切実に問う。

「描くのをやめる。散歩をしたり、昼寝をしたり、何もしない。そのうち急に描きたくなるんだよ」

これがウルスラの言葉だった。そして、幼い頃にこの映画を見た私は、この言葉になぜか涙がぽろぽろこぼれたものだ。もしかしたら、私はそのときから、自分自身が「何もしない」女には決してなれないことを知っていたのかもしれない

世の中には「何もしない」ことができる人とできない人がいる。そして、ハイスペ女子は、多くの場合、後者だ。頑張ることに慣れ過ぎている。頑張らないことが一番難しい。

長い勉強の歴史の中で、私はたびたびスランプに陥ってきたけれど、その度に、あらゆる努力で乗り越えてきた。すべての扉をがむしゃらに叩き続け、開けようとトライし続けた。そのうち、いずれかのドアが開き、その向こうに続く道が、必ず私をスランプから救い出してくれた。

嵐が過ぎさるをの黙って待つことが、私にはできそうにない。

2 別れ話をしたら12枚の手紙を書いてくる女ってめっちゃ怖くない?

あるとき、私は遠距離恋愛をしていた彼からLINEで別れを告げられた。

「話したいことがあるんだ」

そうか、もしかしたら、いや、たぶん。そうか。でも、そうなのだろう。そうだよね。

話はやはりそういうことだった。彼は私とは別れたいそうだ。「とにかく会って話そう」と言っても、「会いたくない」と、もはや取り付く島もなかった。

とにかく、私は打ちひしがれた。ううん、打ちひしがれたなんて言葉が割に合わないくらい、消耗しきってしまった。一晩中眠れなくても、それでも朝が来ると仕事に行かなければならない。

「だいじょうぶだから。だいじょぶ、だいじょぶ。うん、だいじょうぶ」

寝つけない超早朝に、一人の部屋で自分にゆっくりと言い聞かせていると、また、涙がぽろぽろとこぼれてきた。そのまま、あふれてくる感情がほぐれて乱れてぐっちゃぐっちゃになった何色もの糸のように、心の中で絡まりまくり、私は前に進めなくなった。このままじゃ、きっと今日は仕事にならないだろう。

だから、私は書くことにした。

昔から私は書く。感情があふれて自分の思考がぐっちゃぐっちゃになったときに、とにかく書く。無心で手を動かす。何かをしないと、私は一歩も前に進めないのだ。

パソコンでワードを立ち上げて、文章を打ち込む。感情があふれているときの文章は、支離滅裂かつ意味不明。とりあえずなんでもいい。打って打って打って打ちまくる。そうすると、心の中にたまったものが少しずつ体外に排出されていく。そうやって、私は少しずつ落ち着きを取り戻し、次にすべきことを秩序だって考えられるようになる(もとい、このときはなったと思い込んだ)。

打ち尽くしたとこらへんで、ようやく、まともな文章が書けそうな気がしてきた。さっきからずっとずーっと彼のことを考えていて、恨みもつらみも、ごめんねも、いろいろな言葉が頭の中を渦巻いている。だから、私は、次のステップとして、それを彼に対する手紙として編集することにした。

また、あふれてきた涙をぬぐい、ついでに鼻をかむ。そして、10本の指を濡れティッシュで丁寧にぬぐう。とたんにまた哀しくなる。彼は、若干、潔癖症の気があって、特に汚れた指で何かを触ることを嫌った。一度、スルメを食べた指で、彼のパソコンを触ったら、激しくご不興を買った。それ以来、私はパソコンを触る前に十指を拭くのが習い性となった。

「パソコンを触る前に指を丹念に洗う癖がつきました。これから同じことを繰り返すたびに、きっと私は思い出すでしょう。私の生活の中に残る痕跡が、今はとても切ないけど、時間が経てばすごく愛しいと思えるようになると思う……」

うんぬんかんぬん……パソコンで手紙を書き終えた後は、やっぱ思いを伝えるには手書きでしょうと、それを清書する。渾身の手紙は、なんと便箋12枚に及ぶ。便箋が足りなくなることを見越して、途中からは表裏作戦を決行。手紙を書き上げた私は、その足で駅前広場の郵便局まで行って、切手を買って投函した。熱に浮かされたように一連の行動を終えたときには数時間が経っていた。久しぶりに手書きで何枚も手紙を書いたので、受験勉強時代に作った中指のペンダコがジンジンした。

それでも私は、何かを成し遂げた気持ちだった。今から仕事に行けば、なんとか間に合うだろう。ふーっ。じとっと悲しみに暮れるより、行動を起こすことで問題は解決するはず。

3 「出し~た手紙は、今朝ポストに~舞い戻った~」♪

だからこそ、数日後に、自分の家のポストで自分の書いた渾身の手紙を見つけたときには、その数日間張り詰めていた気持ちのタガが外れそうになる。彼はどう反応するだろう、彼はなんて言ってくるだろうと、その緊張だけが私を支えていたのだ。

手紙が舞い戻ってきた原因は、差出人の位置に彼の、宛先の位置に私の住所と名前を書いてしまったから

(私は、普通のことをきちんとこなすことができない……)

暑い夏の日に仕事から歩いて帰ってきて、張り詰めていた緊張が行き場をなくし、笑いたいのか泣きたいのか。とにかくシャワーを浴びて汗を流し、それからビールをぐびっと一缶飲み干した。コクーン。

そして、手紙をびりびりに破いた。びりっびりっ。破りながら、どんどん爽快な気持になっていった。

「これでいいのだ!」

後日、友達にこの話をしたら、真顔で諭された。

「その手紙、戻ってきて本当によかったよ。もし届いてたらがん引きだよ、まじで」

あっそう……とにかく、私は何かをせずにはいられない。がん引きされようと裏表で合計12枚の手紙を書かずにはいられない。それで、「12枚もあって読みにくいかも」って思ったら、手紙を出すのを躊躇するよりは、むしろ手紙の右下にナンバリングしちゃうタイプ。(1)~(12)って。これなら読みやすいでしょ的な。

私は、何かをしていたい。常に、自分が前だと思う方向に進んでいたい。結果、ジグザグになって壁にぶつかりまくっても、私は全力で進み続けたい。そうすることしかできないから。

だから、私は松居一代に同情すると同時に、こんな人といたら疲れるだろうなというのも理解する。

帰り際に、「私に自分の子供を託そうとは思う人が今のところいないとしたら、それはなんで?」と思い切って尋ねた私に、冒頭の男性はこう言った。

「う~ん……自分の弱味を見せたがらないじゃん? 自分の弱さをさらけ出せない人って、本当は強くないのかな」って。

まじ? こんなに今さらけ出してるのに、まだ足りないの? 次はどんだけ恥ずかしい話をさらせばいいの? 勘弁してよ、もう(笑)。

 

イベント情報

幻冬舎plus presents
「人生の居場所をどう作る?
~つながりの見つけ方、孤独との付き合い方~」

出演:山口真由/カワムラユキ/松永天馬/矢吹透

日時:2019年6月13日 OPEN 18:30/START 19:30

場所:LOFT9 Shibuya
(東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 1F)

チケット:前売¥2000/当日¥2500(税込・要1オーダー500円以上)

関連書籍

山口真由『東大首席・ハーバード卒NY州弁護士が実践! 誰でもできる〈完全独学〉勉強術』(SBクリエイティブ刊)

桁違いの実績を実現したものこそ、「教科書を7回読む」という著者ならではの方法論。実際、塾に通ったり家庭教師についたりしたことは過去一度もなく、1冊の教科書にこだわり7回読み抜いてきたのです。そのシンプルにして合理的、かつ安上がりな独学法のすべてを惜しみなく公開。

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永田夏来/pha/藤沢数希/山口真由/酒井順子『「結婚・妊娠・出産」って最後の宗教みたい』

「子どもを持って初めて成長できる」。 印籠のようなこのセリフを否定するつもりはありませんが、でも、誰もが当たり前のように結婚して、子どもを産む時代は終わりに近づいているように思います。 それでも、非婚も子ナシもまだまだマイナーな選択なのでしょう。 王道のライフコースを選ぶ人生と選ばない人生。 そこにうずまく不安、安堵、諦念、自由……。 気鋭の学者、作家たちが、「結婚」と「出産」にまつわる社会の本音をあぶりだします。

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山口真由

1983年、札幌市生まれ。東京大学法学部3年生時に司法試験、4年生時に国家公務員1種に合格。全科目「優」の成績で2006年に首席で卒業。財務官僚、弁護士を経て、ハーバード大学ロースクールに留学。2017年にニューヨーク州弁護士登録。 『エリートの仕事は「小手先の技術」でできている。』(KADOKAWA/中経出版)、『いいエリート、わるいエリート』(新潮社)、『ハーバードで喝采された日本の強み』(扶桑社)など著書多数。『東大首席弁護士が教える超速「7回読み」勉強法』(PHP研究所)の文庫版も出版された。 山口真由オフィシャルブログはこちら

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