1. Home
  2. 暮らし術
  3. ニッポン47都道府県 正直観光案内
  4. 北海道の大自然は「全部いい」けど、中でも...

ニッポン47都道府県 正直観光案内

2022.08.14 更新 ツイート

北海道の大自然は「全部いい」けど、中でもおすすめは? 他、エキゾチックな博物館、日本一危ない神社…見どころ多すぎ 宮田珠己

気の向くまま、日本中を旅している宮田珠己さんが「本当にイイ!」と思ったスポットを、47都道府県別に紹介している『ニッポン47都道府県 正直観光案内』。文庫化記念で試し読み。お次は富山県!

*   *   *

北海道

私ごときが北海道の観光案内をするなど百年早い感がありますが、考えてみれば、どの都道府県を案内するのも百年早いので、気にせず今回も己の良心と公正さと思い込みと偏見にしたがって案内してみようと思います。

まず最初に言っておかなければならないのは、北海道は広いということ。九州の倍以上あります。北海道ひとつで十以上の県が入るぐらい広いのです。なので、だいぶ端折って紹介する必要があります。

とはいえ、本州以南の県と同じような感覚で広がっているわけではありません。人口密度も薄ければ、町も少ない。たとえば県別の地図を見て、他の県であれば地図上に何も載ってなくても、そこには町もあれば人も住んでいる可能性があります。全部載せられないから省略されているわけです。

でも北海道は違います。地図に載っていないものは存在しません。地図上で何もないところに一本だけ道路が走っている場合、そこには何もありません。町も店さえもない。あるのは原生林とときどき駐車場です。ただポツンと駐車場。自販機もトイレもないチェーン着脱スペースみたいなものが、国道沿いに配置されています。あまりに隣の町が遠いため、ここで休んでいけということでしょう。

さて、そんな北海道をひとことで言い表すとすれば、これはもう「大自然」「外国」ということになるでしょうか。あ、ふたことになってしまった。

まず「大自然」。風景が日本じゃない。函館ですでに何かがちがいますが、そこで感心するのはまだ早い。道北に近づくと北海道はさらにもう一段変化し、ぐっと北極圏に近づいた感じがします。その荒涼たる大地の広がりは、トナカイが飛び出すまであと一歩という感じでしょうか。

そうしてそのまま大いなる期待とともに日本最北端の宗谷岬へと到達してみると、えーなんといいますか、ぼくは岬と言ったはずだよワトソン君。岬といったら陸地が海に突き出ているところだよね。

稚内まで来たなら、利尻、礼文に渡るとさらに味わいがありますが、北海道の素晴らしい大自然について語りだすと、とてもこの項では手に負えないので割愛します。宗谷丘陵とかサロベツ原野とか知床半島とか釧路湿原とか霧多布(きりたっぷ)湿原とか大雪山系とか摩周湖とかオホーツクの流氷とか、全部いいのでどこでも行くといいでしょう。最近では摩周湖に近いエメラルドブルーの神の子池や、美瑛の白金温泉を流れるコバルト色のブルーリバーなどの人気が上昇しているようです。

恐怖驚愕の噴火痕 有珠山

道東や道北まで行く余裕がないという方には、有珠山(うすざん)はどうでしょう。二〇〇〇年に大噴火を起こしたことは、もうみんな忘れていると思いますが、その爪痕がすごいです。そもそも噴火したのは従来の火口ではなく、道路でした。道路が陥没して火口となり、周囲の住宅や工場を飲み込んで、隣接する洞爺湖(とうやこ)温泉街には熱泥流が流れ込んで橋と団地を破壊しました。その痕跡が今もそのまま残され圧巻です。雲仙、桜島、三宅島、浅間山など噴火の爪痕が残る場所は全国にいくつもありますが、これほど広範囲に生々しい痕跡が残る場所はかなりレア。

そもそもすぐそばには昭和新山というできたての山があるのですから、考えてみるとすごい話です。山って、そんな気軽にできていいものなんでしょうか?

エキゾかわいい北方民族遺産 網走

さてもうひとつのポイント「外国」についてです。

北海道は風景だけでなく歴史も本州以南とはまったく違っています。北海道には弥生時代がありません。古墳時代もない。縄文のあとは続縄文とオホーツク文化→擦文(さつもん)→アイヌと移り変わったと言われています。あとトビニタイ文化というのもある。どんな文化だったのかまるでイメージが湧きません。トビニタイ? 何語なんでしょうか。

北海道にはかつて北方からやってきた異民族が住んでいました。網走にある北方民族博物館モヨロ貝塚館では、そうした異民族文化の痕跡などを紹介していて、どこからどこまでが日本という既成概念が頭の中でとろけていくのを感じます。北方民族博物館は、大阪が誇る国立民族学博物館にも似て非常にエキゾチックなのですが、なぜかこれらの博物館はちっとも世間に知られておらず、実にもったいない話です。

日本らしからぬ彫像たち。(イラスト:宮田珠己)

あと北海道といえば、アイヌを忘れるわけにはいきません。二〇二〇年、室蘭と苫小牧の間、白老の湖畔に国立アイヌ民族博物館がオープンしました。これも期待できます。

さらに北海道と本州以南の文化が全然違っている例として、北海道には大きな神社仏閣がほとんどない点があげられます。最近のものが少しあるだけ。そんななかで唯一面白いのは、瀬棚町にある太田神社でしょうか。日本一危険な場所にある神社とも言われ、急斜面をさんざん登ったあと、さらに垂直の断崖にかかる鎖を登らないとたどり着けません。三度参拝すると願いが叶うと言われ、私が行ったときも彼氏が欲しい女性たちが集団で登っていましたが、残念ながら最後の鎖を前に断念していたようです。鎖を登ってみると小さな洞窟と祠があり、「恋人を作る! 横澤玲子」と大書きされた絵馬がかかっていました。横澤さんの健闘を祈ります。

最後に知床半島と根室半島の間にある小さな野付(のっけ)半島を紹介して終わりにします。国後島を望むこの地には今は海抜ゼロメートルの砂州しか残っていないのですが、あまりにぺったんこなのでまるで海の中に立っているかのようなこの土地に、かつて国後に渡る港があったそうです。キラクと呼ばれる遊郭があったという伝説もあり、こんな最果ての地に遊郭が、と想像するだけで寂寞とした思いが胸にこみあげます。

*   *   *

この続きは幻冬舎文庫『ニッポン47都道府県 正直観光案内』をご覧ください。

{ この記事をシェアする }

ニッポン47都道府県 正直観光案内

スペクタクルな富山県、果てしなく遠い和歌山県、大分県は大魔境、何かとやりすぎな徳島県、青森県はSFの世界、愛知県の可能性は無限大、埼玉県がダサいと言われる本当の理由とは? へんてこ旅を愛する著者が、知名度や評判に惑わされず本気で「イイ!」と思った観光スポットのみを厳選。かつてなく愉快な、妥協なき47都道府県観光案内。

バックナンバー

宮田珠己

旅と石ころと変な生きものを愛し、いかに仕事をサボって楽しく過ごすかを追究している作家兼エッセイスト。その作風は、読めば仕事のやる気がゼロになると、働きたくない人たちの間で高く評価されている。著書は『ときどき意味もなくずんずん歩く』『いい感じの石ころを拾いに』『四次元温泉日記』『だいたい四国八十八ヶ所』など、ユルくて変な本ばかり多数。東洋奇譚をもとにした初の小説『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』で、新境地を開いた。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP