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ニッポン47都道府県 正直観光案内

2022.07.24 更新 ツイート

“地下神殿”が人気急上昇の埼玉県。ダサイと言われる理由がついに解明!? 宮田珠己

気の向くまま、日本中を旅している宮田珠己さんが「本当にイイ!」と思ったスポットを、47都道府県別に紹介しているニッポン47都道府県 正直観光案内。文庫化記念で試し読み。お次は印象の薄い埼玉県!

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埼玉県

ここで問題です。栃木県の代表的観光地といえば日光、群馬県なら草津、では埼玉県の全国に知られた代表的な観光地はどこでしょうか。

どこも思い浮かびません。関東在住者であれば、川越、秩父といった名前を挙げるかもしれませんが、関西人は知りません。

そもそも関東以外の人は埼玉の観光地としてどこを思い浮かべるのでしょう。

考えてもみてください、果たして関東以外の県から埼玉県に観光に来る人がいるでしょうか。関西からあるいは中京圏から、あるいは北海道や九州から、はるばる埼玉に観光に来たという人を聞いたことがあるでしょうか。

先日うちに母が来たので、聞いてみました。母は神奈川県育ちですが、もう七十年以上生きていながら埼玉県には行ったことがないそうです(通過したことはあると言っていました)。ためしに埼玉県で知ってる観光地を尋ねてみると、熊谷に古い家がなかった? とだけ言っておしまいでした。古い家? 何だそれ。

東京の人間はよく埼玉県をダサイタマと言ってバカにします。有力観光地に恵まれないのも原因のひとつかもしれません。しかしそのような蔑みは、埼玉県からすれば理不尽な話です。というのも、ダサいのは実は埼玉県のせいではないからです。その証拠に、埼玉だけでなく、お隣の群馬、栃木、さらに茨城まで周辺すべての県が、しばしばダサい認定されている。千葉だってそうです。これは奇妙なことではないでしょうか。これほど多くの県が十把ひとからげにバカにされている地域は、全国を見回しても関東以外にありません。東京があまりにかっこいいためにその落差がそのように感じさせているのでしょうか。一見正しそうな仮説ですが、違います。

実は、元凶は関東平野なのです。

関東平野全部がダサい。これは東京とて例外ではありません。本当は東京もダサいのです。その件についてはいずれ東京都の項で触れますが、とにかく埼玉県だけをいじめるのは間違っています。

ではなぜ関東平野はダサいのか。答えは簡単。

山がないから。これに尽きます。山、ないったらない。東京を出て京浜東北線や宇都宮線で北を目指すとき、車窓に広がる茫漠とした風景の絶望感といったらありません。

ずっと関東平野に住んでいる人間は気づきもしませんが、他地域から来た人間はみな、間近に山の見えない空虚さ味気なさに気づいています。山がなければ風景は変化に富みません。峡谷も生まれなければ、滝もできない。できるのは湿地か沼がせいぜいです。

んんん、せめて湿原があれば……。

これが関東平野のダサさの正体です。

当然そんな地形的バラエティのないところが観光地として自然に発達するはずがありません。そうなると、見どころは人の手で造るしかない。したがって関東平野の観光地は人工物ばかりです。その意味で関東平野は、最初から大きなビハインドを背負っていると言っていいでしょう。

で、埼玉です。埼玉県はどこを観光すればいいのか。

まず検討すべきは山方面でしょう。幸い埼玉県にも西のほうに山があります。全部が平地じゃなくてよかった。

秩父は埼玉県内でも辺境のダサいゾーンとして低く見られているようですが、とんだ勘違いで、どちらが真にダサいのか、つまりどちらがよりぺったんこか考えてみれば一目瞭然です。秩父に感謝こそすれ、バカにする権利は関東平野人にはありません。

秩父といえば夜祭、さらに芝桜で有名な羊山公園や長瀞、三峰神社ほか、日本を代表する観音霊場のひとつ秩父三十四観音もあります。大健闘です。少なくともダサい関東平野人を惹きつけるには十分です。ただ、秩父三十四観音は、西国三十三観音、坂東三十三観音とともに三大観音霊場を構成しているものの、残念ながら全部足して百にするため扱いに困った一を押しつけられているあたり、やや格下感はぬぐえません。

このように秩父も健闘しているわけですが、全国的な知名度としてはまだまだ厳しいのが現状です

驚嘆! 地下世界 首都圏外郭放水路

そんななか、なんと埼玉県にもニューフェースが誕生しました。それも山方面ではなく平地にです。

首都圏外郭放水路。

地下に造られた巨大な洪水調整池です。

地下! そうきたか。

大空間に太いコンクリートの柱が林立する光景は地下神殿とも称され、関東屈指の見どころとして注目度が急上昇しています。交通の便が悪いなど課題はありますが、高低差がないなら穴を掘ればいいという見事な発想に脱帽です。しかも湿地のせいで洪水が起きやすいという欠点を克服する施設というのですから、ダサさを逆手にとった逆転の発想にしびれます。

これ国宝級!! っていうか国宝。妻沼山歓喜院聖天堂

首都圏外郭放水路だけではありません。実はほかにも全国から人を呼べそうな観光スポットがあります。熊谷郊外にある妻沼山歓喜院聖天堂。その堂宇を埋め尽くす緻密な彫刻群は、日光東照宮に匹敵とまでは言いませんが、近年国宝に指定され注目を集めています。探せばちゃんとあるのです。

日光東照宮とも並び称される歓喜院聖天堂は、宝暦10(1760)年に完成。近年修復作業によってよみがえり、国宝に指定された。ヘタウマ調の花の蜜を吸う蝶の彫りものが印象的。(イラスト/宮田珠己)​​​​​​

そうそう、大宮には鉄道博物館もあったのではないでしょうか。私はまだ行ったことがありませんが、日本に本格的な鉄道博物館は他にないのですから、きっと見応えのある場所にちがいありません。えっ、京都にもある? あ、そうですか。でも埼玉には埼玉のよさがきっとあるはず。あると信じます。

関東平野というハンディを負いながらも、でかい穴を掘ったり、凄い彫刻の建物を国宝に指定してもらったりと、あの手この手を使って、少しずつ埼玉県は浮上しています。いずれ東京都を抜く日が来るのかもしれません。

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この続きは幻冬舎文庫『ニッポン47都道府県 正直観光案内』をご覧ください。

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ニッポン47都道府県 正直観光案内

スペクタクルな富山県、果てしなく遠い和歌山県、大分県は大魔境、何かとやりすぎな徳島県、青森県はSFの世界、愛知県の可能性は無限大、埼玉県がダサいと言われる本当の理由とは? へんてこ旅を愛する著者が、知名度や評判に惑わされず本気で「イイ!」と思った観光スポットのみを厳選。かつてなく愉快な、妥協なき47都道府県観光案内。

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宮田珠己

旅と石ころと変な生きものを愛し、いかに仕事をサボって楽しく過ごすかを追究している作家兼エッセイスト。その作風は、読めば仕事のやる気がゼロになると、働きたくない人たちの間で高く評価されている。著書は『ときどき意味もなくずんずん歩く』『いい感じの石ころを拾いに』『四次元温泉日記』『だいたい四国八十八ヶ所』など、ユルくて変な本ばかり多数。東洋奇譚をもとにした初の小説『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』で、新境地を開いた。

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