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ニッポン47都道府県 正直観光案内

2022.07.20 更新 ツイート

岩手県は、「穴」と「異界幻想」を堪能しよう 宮田珠己

気の向くまま、日本中を旅している宮田珠己さんが「本当にイイ!」と思ったスポットを、47都道府県別に紹介しているニッポン47都道府県 正直観光案内。文庫化記念で試し読み。お次は岩手県!

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岩手県

聞くところによれば、岩手県といえば洞窟なのだそうです。岩手県が洞窟界のメッカだったとは、まったく知りませんでした。

たしかに日本最大の鍾乳洞安家洞もあるし、山口県の秋芳洞、高知県の龍河洞とともに日本三大鍾乳洞と謳われる龍泉洞も岩手県です。

龍泉洞は地底湖の青々とした水が美しく、洞内が泥っぽい龍河洞よりきれいだったのを覚えています。とはいえ鍾乳洞なんて二つか三つ見ればどれも同じです。クラゲみたいな形の岩とか、観音岩とか、皿がいっぱい重なってたり、地下水が溜まってたり、ときには川が流れてたり大きな空洞があったり。ひとつ見れば、以下同文でいい気がします。

実はそうではない鍾乳洞もあるのですが、それはその県の 項で紹介するとして、今は鍾乳洞は置いておきましょう。

地図を眺めてまず気づくのは、太平洋沿岸に延々と続くギザギザの海岸線です。小学校でも習った三陸のリアス式海岸は、観光の目玉スポットとして取り上げられることが多いわりに、素人には、全国にある断崖絶壁の海岸線との違いが正直よくわかりません。山が沈んでできた複雑な海岸線というのであれば、日本中が大なり小なりリアス式海岸のような気がします。世界的には珍しいのかもしれませんが、日本では普通なのではないでしょうか。

そもそもリアスって何なんでしょう。よく比較される北欧のフィヨルドなどは、行ってみるとなんともフィヨルド感があるのですが、リアス式海岸のリアス感とは何でしょう。

現地に行ったら、よく見てください。岩に大きな穴が開いています。あれがリアスです。 こらこら適当なこと言うな、フィヨルドとリアスの違いは、氷河がどうしたとか山が沈下してどうしたとか言う人もきっとあるでしょう。だがそれはあくまでオフィシャルな答え。そんな杓子定規な態度では現場で起きている状況に対応できません。

私に言わせれば、リアス式海岸とは穴を味わう海岸のことです。穴がボコボコ開いている。であるなら、ボートに乗ってその穴に入ってみなければ真にリアス式海岸を楽しんだことになりません。展望台から眺めたところで何も面白くない。サッパ船やカヤックにでも乗って探検する。それがリアス式海岸観光の真髄です。

こうしてみると岩手県の観光は「穴」と言ってしまいたくなりますが、まあ待ちなさい。それ以上に忘れてはならないことがあります。それは「異界幻想」

筆頭は、なんといっても宮沢賢治です。

スーパースター賢治の里 花巻

われわれは夏目漱石がどこで生まれたのか知りません。どこだっていい気がします。では村上春樹はというと知りません。でも宮沢賢治はと聞かれたら、花巻一択です。花巻と宮沢賢治は分かちがたく結びついており、全国によくあるつまらない「○○○ゆかりの地」とは格が違います。花巻には宮沢賢治記念館や童話村などがあって、彼の独特の宇宙感を感じることができるよう工夫されています。イギリス海岸はなぜ賢治がそんな名前を付けたのか理解できないただの川ですが、賢治の童話を頭に浮かべながら眺めると、細かいことはどうでもいい気がしてくるほどです。

彼岸と此岸の間 遠野

また遠野も忘れてはいけません。

『遠野物語』で知られた遠野は、農村風景にものすごく特徴があるとは思わないものの、歩いてみると民話の持つ濃厚な気配が漂っているような気がします。錯覚だと言われれば反論できませんが、そういうときはおしらさま人形の不気味さを思い出しながら歩けば、味わいが増すこと請け合いです。私は日本でおしらさま以上にインパクトのある人形を知りません。青森や宮城にもありますが、一度どこかで本物を見てみることをおすすめします。

桑の木の棒に馬や女性の顔を彫り、たくさんの布を被せた人形。独特の存在感があって怖い。(イラスト/宮田珠己)

そして平泉も「異界幻想」の地と言えるかもしれません。

毛越寺の庭園は極楽浄土を表現したものですし、中尊寺金色堂など幻想の異界表現の極致と言えるでしょう。ただしあまりに金ピカなうえ思った以上に小さいため、本物なのにまるでレプリカのように見えるのは残念です。異界とは関係ないですが、義経堂の仁王像はとってもチャーミングで素敵なので見にいくといいでしょう。

岩手県でおすすめしたいスポットは、まだあります。二戸郡にある御所野縄文博物館。館内でプロジェクションマッピングを行うなど展示に力を入れたなかなか斬新な博物館です。このところの縄文ブームで北東北の縄文関連施設は充実度を増していますが、これまで古代の遺跡などまるで興味のなかった私もここではわくわくさせてもらいました。弥生時代や古墳時代は地味すぎて興味が持てませんが、縄文時代は土偶や火焔型土器など見た目が変なので面白いです。

さて岩手県の最後に、私が忘れられない場所を紹介します。それは七時雨(ななしぐれ)

会社員だった頃、仕事の関係者に連れて行ってもらったのですが、深い森の奥に忽然と広い草原があらわれ、ホビット庄に来たのかと思いました。われわれ以外観光客はひとりもいなかったのですが、木々の間に妖精の姿を見た気がします。当時は仕事が辛くいっぱいいっぱいだったのかもしれません。ふと紛れ込んだ大自然に癒されたという、つまりそれだけのことだったかもしれない。とくに何か珍しいものがあったわけでもありません。それでも私は秘密の別天地を見つけたと思いました。(【ホビット庄】トールキンの小説『指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)』に登場するホビット(小人)の村)

ただ、もう一度あそこに行こうとは思いません。何十年ぶりに行ってみたらパラグライダーなんかやってたりして、きっと幻滅するでしょう。旅の印象とはそういうものではないでしょうか。場合によって、旅先についてあんまり詳しく知らないほうがいいこともある。秘密は秘密のままに。無知は無知のままに。何でもかんでも真実を知ろうと思うのは、現代人の悪い癖だと思います。

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この続きは幻冬舎文庫『ニッポン47都道府県 正直観光案内』をご覧ください。

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ニッポン47都道府県 正直観光案内

スペクタクルな富山県、果てしなく遠い和歌山県、大分県は大魔境、何かとやりすぎな徳島県、青森県はSFの世界、愛知県の可能性は無限大、埼玉県がダサいと言われる本当の理由とは? へんてこ旅を愛する著者が、知名度や評判に惑わされず本気で「イイ!」と思った観光スポットのみを厳選。かつてなく愉快な、妥協なき47都道府県観光案内。

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宮田珠己

旅と石ころと変な生きものを愛し、いかに仕事をサボって楽しく過ごすかを追究している作家兼エッセイスト。その作風は、読めば仕事のやる気がゼロになると、働きたくない人たちの間で高く評価されている。著書は『ときどき意味もなくずんずん歩く』『いい感じの石ころを拾いに』『四次元温泉日記』『だいたい四国八十八ヶ所』など、ユルくて変な本ばかり多数。東洋奇譚をもとにした初の小説『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』で、新境地を開いた。

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