
辞書が大好きなアイドル・乃木坂46の鈴木絢音さんと、「辞書の神様の生まれ変わり」と評される辞書編纂者・飯間浩明先生の異色の対談、小説幻冬5月号でお届けしたものを抜粋してお届けします。鈴木さんのファースト写真集『光の角度』の写真を用いて、短い言葉で伝えるときにどんなことに気をつけたらいいか、飯間先生に教えていただきました。(構成・文/森本裕美、小説幻冬2021年5月号掲載)
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「ライター」の説明を一行書くために徹夜
飯間 短い言葉で伝えるというのはとても難しいんですよね。例えば、私たちが作っている『三省堂国語辞典』に「ライター」っていう項目があるんですけれども。ここ……、「タバコの火をつける器具」って書いてありますよね。実は私、これを書いた時に徹夜をしたんです。
鈴木 そうなんですね、なぜですか?
飯間 どうしてかというと、ライターって色々な方式があるんですよ。電子ライターでパチンとつけるものもあれば、シュボッとヤスリで発火石をこすって摩擦で火をつけるライターもある。パチンとシュボッと両方あって、これをどうやって説明したらいいのかなと思って、ライターを分解して構造を調べはじめたんです。
鈴木 なるほど、すごい。
飯間 で、調べているうちに夜が明けてきて、悩んだ末、これは「タバコに火をつける器具」と書くのが一番いいという結論になりました。そりゃそうですよね。でも、この一行を書くためにけっこう血と汗が滲んでいるわけですよ。
鈴木 「ライター」という単純な言葉の説明の裏にそんなご苦労があったんですね。
飯間 ところが、最新版でそう説明したら、読者から指摘を受けました。「ライターって、タバコ以外の火もつけるでしょう」って。
鈴木 なるほど、そんな指摘があったんですか!
飯間 誕生日のケーキのロウソクなんかも、ライターでつけたりしますね。それを指摘されて、がっくりきました。そんなことを日々経験しているうちに、自分だけ悩むのが段々いやになってきました(笑)。そこで、鈴木さんが去年の11月に出された写真集『光の角度』を見ながら、一緒に写真の説明文を考える作業をしてみようと。いかがですか。
鈴木 私も同じ苦労を味わうんですね(笑)。
飯間 はい。鈴木さんと一緒に悩んでみたいなと思ったわけです。写真集の中から、これはという写真を選んで、タイトルをつけてみましょう。
伝わる伝え方1 全てを説明せず一点にフォーカスする
飯間 お気に入りの一枚っていうのはありますか?
鈴木 この、本を読んでいる写真、お気に入りです。

飯間 いいですね。私なんか「本を読む少女」、そのままのタイトルをつけがちなんですが。
鈴木 たしかに、本を読む少女ですね。
飯間 そうなんですけど、この写真の特徴を表すようなフレーズが欲しいんですよね。例えばこの本は何ですか?
鈴木 なんだったかな……。日本語ではなくて、撮影した場所にあった本です。ここは記念館のような所で、タヒチの資料などが置かれていました。
飯間 本が置いてあって、ちょっと読んでみようかと。他に説明に使えそうな要素はありますか?
鈴木 何がありますかね、難しいですね。
飯間 おそらくね、写真の全部の特徴を言うのは無理です。どこか一点だけですね。
鈴木 今見ていて気になったのは、右ひじをなぜか左足にのせているんですよね。こんなきつい体勢でなぜ読んでいるんだろうって思いました。
飯間 じゃあもうできましたよ。「きつい体勢で読書」。
鈴木 あははは、たしかにその通りですね!
飯間 きつい体勢で読書をしているんだっていうことまでは、写真を見る人はなかなか観察できないですよね。でもモデル本人が言っているんだから間違いない。
鈴木 タイトルで、そのきつい体勢について教えて、この写真に対する理解が深まるということですね。
飯間 そう、理解が深まる。
鈴木 なるほどなるほどなるほど! 面白~い!
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光の角度

乃木坂46鈴木絢音さんファースト写真集の発売が決定いたしました。
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