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今日の私がいちばんキレイ 佐伯流人生の終いじたく

2020.06.19 更新 ツイート

57歳、6500万円の大借金から始まった美肌師・佐伯チズ佐伯チズ

6月5日にALS(筋萎縮性側索硬化症)のため、76歳で逝去された美容家の佐伯チズさん。
ALSと診断されたことを公表されてからも、病と向き合いながら美容家としての活動を可能な限り継続したい、という意思をお持ちでした。2015年に発売された『今日の私がいちばんキレイ 佐伯流人生の終いじたく』にも、人生で起こる想定外のことが、新たな人生を切り開くことにつながったと書かれています。本書の中から、美容にとどまらない著者の考え方、実践例など、年齢を重ねることが楽しみになるエピソードを紹介します。

(写真はイメージです:iStock.com/Khongtham)

五十歳を過ぎた頃から、「心からくつろげる家をもちたい」と思うようになりました。私はほとんど趣味といってよいほど、住宅展示場のモデルルームをよく見て歩いていたので、理想の暮らしのイメージはかなり具体的に出来上がっていたのです。

できれば目の前に水辺の風景が広がるところで、大きな窓から陽がさんさんと射し込んで冬でも暖かいリビング。そして、大好きなカエルの置物やお気に入りの花に囲まれて、休日はひとりでのんびりと一日を過ごす──。憧れはそんな住まいでした。

当時は出張が多かったので、東京駅と羽田空港までは電車で三十分以内、そして仕事場から自宅までタクシーで三千円以内というのも、家を選ぶ上での条件にしていました。

ある日、旧知のお客様が「うちのマンション、一部屋空いたみたい。私たちが入居したときよりも安くなっているから、あなた買いなさいよ」と声をかけてくれました。その方のマンションには何度かおじゃましたことがあり、つねづね「素敵なところだなぁ」と思っていたのです。でも、まさか自分がそこに住めるとは思ってもいませんでした。しかも、安くなっているとはいえ、いわゆる“億ション”です。

でも、見るだけならタダです。ものは試しと二十階の売物件をふたりで見学に行きました。

 

部屋に足を踏み入れた瞬間、思わず私は息をのみました。リビングの窓いっぱいに東京湾の景色が広がっています。そして、羽田空港へ離着陸する飛行機が、澄んだ青空を気持ちよさそうに駆けて行くのが一望できました。ホテル仕様の部屋は年間を通して空調で適温に保たれ、自分用とゲスト用にとトイレはふたつあります。独り身の私には、贅沢(ぜいたく)すぎる住まいです。

「うわぁー、素晴らしい! でも、こんなの買えないわ。お金だって借りられないでしょう?」と思いましたが、念のために銀行に相談すると、ローンを組めるというのです。「え、銀行が貸してくれるって? だったら買う!」。定年を三年後に控えた五十七歳のとき、私は六千五百万円の大借金をして自分の城を手に入れたのです。

これが思わぬ形で私の人生を変えることになりました。

 

定年が間近に迫った頃、ある美容本のスキンケア・お手入れ方法の監修を頼まれた私は、出版社の書籍担当の女性とお会いしました。

私はそれまで四十年近くにわたって女性の肌を見てきましたが、化粧品に振り回されて自らの肌をボロボロにする人がいかに多いかを目の当たりにしてきたのです。「定年退職を機に、これまでの経験から得た私なりの肌理論を一冊の本にまとめられないだろうか」と考えていた矢先だったので、目の前の彼女に、ざっくばらんに質問をしてみました。

「本ってどうやって出すんですか?」

私の話に興味をもってくれた彼女は、「企画、出してみましょうか」と言い、さっそく会社に戻って上司の方に私の話をしてくださったのです。

それから私にとって初めての著書、『佐伯チズの頼るな化粧品!』(講談社)が出るまでには、さほど時間はかかりませんでした。

 

二○〇三年六月、私はクリスチャン・ディオールを定年退職し、七月には私の本が全国の書店に並びました。

この一冊がきっかけとなって、美肌師・佐伯チズとしての活動が始まったのです。これまでの経験をもとに、自分の言葉できれいの秘訣をお伝えすると、多くの女性が共感してくださいました。そのうちに全国各地から講演会やセミナーの依頼が次々と舞い込み、テレビやラジオからもお声がかかるようになったのです。気がつくと、著書も四十冊を超えました。

さらに、お手入れ法だけではなく、「佐伯さんのライフスタイルも知りたい」ということで、雑誌社やテレビ局の方がしばしば自宅に来られては、室内のインテリアや私が使っている食器などを撮影していかれます。

もしも私がかつての賃貸アパートに住んでいたら、とても自宅にお招きすることはできなかったでしょう。

猪突猛進型の私は、ときどき道を踏み外してしまうことがあります。

けれども、前を向いて歩いていれば、必ずまた新しい道がひょっこりと現れるのです。億ションを買うときもそうでした。「いつか買おう」ではなく、「買ってから考えよう、買えば何とかなる」という精神で即決しました。これが結果的に自分を引き上げ、六十歳からの新しいステージを用意してくれたのだと私は信じています。

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佐伯チズ『今日の私がいちばんキレイ 佐伯流 人生の終いじたく』

人と比較しない。人に過剰な期待をしない。人の言葉に流されない。 「妙な気負いやプライドから解放された、還暦以降の日々はなかなか楽しい。 人と比較しない。人に過剰な期待をしない。人の言葉に流されない。 これを習慣づけると、生きるのがとても楽になります」 美容アドバイザーとして絶大な信頼を得る著者が、60歳からの暮らしや美、心の持ち方、そして自身も目下実践中という「終いじたく」にいたるまでを綴る。 年齢を重ねることって素晴らしい! と感じることができる一冊。

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今日の私がいちばんキレイ 佐伯流人生の終いじたく

6月5日にALS(筋萎縮性側索硬化症)のため、76歳で逝去された美容家の佐伯チズさん。
ALSと診断されたことを公表されてからも、病と向き合いながら美容家としての活動を可能な限り継続したい、という意思をお持ちでした。2015年に刊行された『今日の私がいちばんキレイ 佐伯流人生の終いじたく』にも、人生で起こる想定外のことが、新たな人生を切り開くことにつながったと書かれています。本書の中から、美容にとどまらない著者の考え方、実践例など、年齢を重ねることが楽しみになるエピソードを紹介します。

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佐伯チズ

1943年生まれ。OLを経て美容学校、美容室勤務ののち、1967年にフランスの化粧品メーカー・ゲランに入社。その後、渡米などを経て、1988年、パルファン・クリスチャン・ディオールのインターナショナルトレーニングマネージャーに就任、美容部門スタッフの育成にあたる。2003年同社を定年退職後、エステティックサロン「サロン ドール マ・ポーテ」を開業。美肌師、生活アドバイザーとして、雑誌、テレビ、各種講演などさまざまな場で活動。2012年から成安造形大学の客員教授も務めている。主な著書に『頼るな化粧品! ─顔を洗うのをおやめなさい!』『美肌革命─お金をかけずにきれいになる』『佐伯チズ、美の流儀─肌、人生、仕事についての129のレッスン』(以上すべて講談社)などがある。

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