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オトコ・マンガ/オンナ・マンガの世界

2019.12.10 更新 ツイート

第19回

少年誌と少女誌を往還するマンガ家中川右介

少年誌と少女誌を往還する、あだち充

「少年サンデー」は1959年の創刊時から60年代なかばまでは、発行部数で「少年マガジン」に圧勝していたが、1960年代後半、『巨人の星』『あしたのジョー』『天才バカボン』などが大ヒットした「少年マガジン」に抜かれ、70年代になると後続の「少年ジャンプ」「少年チャンピオン」にも抜かれ、部数としては低迷していた。

しかし『うる星やつら』に続いて、1981年にもうひとつの名作の連載が始まることで、第二の「サンデー黄金時代」が到来する。あだち充の『タッチ』である。

 

あだち充(1951~)は、貸本マンガで育った。「少年サンデー」「少年マガジン」の創刊時は8歳だが、買っていなかった。3歳上の兄がいて、貸本マンガでデビューしていた。

高校1年生、16歳になる年に、創刊されたばかりの「COM」に投稿すると、1967年9月号に、『虫と少年』が佳作で入選した。「描きなれた達者な作品だといえる」と選評にある。竹宮惠子が佳作になったのが2号前の7月号なので、同時期にキャリアを始めていたことになる。以後も、あだちは高校生活を続けながらマンガを描いて「COM」に応募し、常連の投稿者になる。

あだちは高校卒業後は永島慎二のアシスタントになるはずだったが、永島が失踪してしまい、路頭に迷うところだったのを、「COM」編集部の紹介で、石井いさみのアシスタントになった。

そして、1970年、「デラックス少年サンデー」に原作付きの『消えた爆音』でデビューした。レーサーを主人公にしたマンガである。以後も、原作付きで描き、コンスタントに「少年サンデー」の増刊号などに載ったが、ヒットが出ず、1975年になると、編集部はあだちを見限ろうとしていた。

そんなとき、デビューさせてくれた担当編集者が「少女コミック」に異動になり、あだちは少女マンガで再出発することになった。

あだち自身、当時は少女マンガばかり読んでいたので、この移籍は、苦ではなかったようだ。

2018年刊行の『あだち充本』のインタビューで、〈少女漫画はすごく元気があった。(略)刺激があったのは、圧倒的に少女漫画のほうでした。〉と語っている。

「少女コミック」でも最初は原作付きだったが、やがてオリジナルの作品を描くようになる。少女マンガなので主人公は女の子だが、恋の相手の少年は野球をしているものが多い。

こうした低迷期、修業期間を経て、あだち充は1978年に野球マンガ『ナイン』を「少年サンデー」増刊・10月号に描いた。1回だけの読切のつもりだったが好評なので連載となり、80年11月号まで続くクリーンヒットとなる。
 


「少女コミック」にも『陽あたり良好!』を1980年2号から81年15号まで連載しており、この時期は、まだ少女マンガ誌にも描いていた。

「少年ビッグコミック」に1980年17号から『みゆき』を連載し、これもヒットし、その勢いで、「少年サンデー」81年36号から『タッチ』が始まる。あだちもまた、キャリアの初期に二大名作を同時に描くのだ。

『タッチ』は、少女マンガの王道である学園ラブコメと野球マンガを融合させたもので、あだち充の独自の世界が確立された。この路線は『ラフ』『H2』『クロスゲーム』などを経て、現在連載中の『MIX』へと続く。

あだち作品のヒロインから、少年は何を読み取るのか

あだち充作品には、主人公の少年の周囲に複数の少女が登場し、三角関係、あるいは四角関係となる。少年の視線によって物語は展開し、主人公と読者の少年たちは、少女たちの内面を考えなければならない。女の子が「嫌い」と言っても、「好き」な場合があることを、少年は、あだち作品で知る。

あだち作品の少女は、主人公の少年よりも運動神経に優れているケースも多い。しかし、「女」であることから、何かを断念しなければならない。このあたりは、女性が読んでも共感するかもしれない。

少女マンガにおける、セリフに頼らずに内面を表現する技法を、あだち充は身につけ、それによって少年マンガを革新した。その描写は精緻でありながら、「省略」を駆使して、読者に「読み取る」ことを求める。最終回は、「あの二人が結ばれたのか」が曖昧なまま終わることもある。

『みゆき』が1984年、『タッチ』が86年に連載が終わると、あだちはいったん少女誌に戻り、「ちゃお」に『スローステップ』を連載した。「少女コミック」に引っ張ってくれた編集者が「ちゃお」の編集長になっていたが、売れ行き不振で毎号1億円の赤字を出す状態となっていた。そこで立て直しのために、あだちに描いてもらったのだ。

『スローステップ』はソフトボールをやっている女の子が主人公だが、彼女をとりまく男子が、教員を含めて3人いる、ラブコメだ。

『スローステップ』のおかげで「ちゃお」は部数が伸び、コミックスも売れたので、休刊にならずにすんだ。

この後、あだち充が少女誌に連載することはないが、少年誌→少女誌→少年誌→少女誌→少年誌と往還していたことは記憶すべきだろう。

竹宮惠子や萩尾望都、高橋留美子ら女性が少年誌に少年マンガを描き、あだち充は、「少年誌に少女マンガの要素を入れた少年マンガを描いた」のである。

少女マンガを描く男性マンガ家、少年マンガを描く女性マンガ家

手塚治虫から、横山光輝、石森章太郎、赤塚不二夫、楳図かずおなどの男性マンガ家が、少女マンガを描いていた時代は1960年代でだいたい終わるが、その後も、少女マンガを描く男性マンガ家もいた。

あだち充もそのひとりだったが、他にも、『麦ちゃんのヰタ・セクスアリス』の立原あゆみ、『パタリロ!』の魔夜峰央、『スケバン刑事』の和田慎二、『キッシ~ズ』の山田也、『あおいちゃんパニッ!』『あんみつ姫』の竹本泉などがいる。立原あゆみ、竹本泉は女性と思わせるペンネームで、画風も女性的だ。男性だと知らなかった読者も多いだろう。

立原は、あだちのように少年・青年マンガへ移り、『JINGI 仁義』などのヒット作もある。

一方、高橋留美子や柴門ふみの成功から、少年マンガ誌にも女性マンガ家が描くようになるが、その多くが、男性名のようなペンネームを用いている。ヤマザキマリのように女性名で少年・青年マンガ誌に描く女性マンガ家は少ない。

男性的ペンネームの女性マンガ家として知られているところでは、『オフサイド』の塀内真人(後、塀内夏子とする)、『シュート!』の大島司、『鋼の錬金術師』の荒川弘、『3.3.7ビョーシ!!』『モテキ』の久保ミツロウ、『ゴッドハンド輝』の山本航暉、『金田一少年の事件簿』のさとうふみや、『聖☆おにいさん』の中村光、『BLOODY MONDAY』の恵広史、『結界師』の田辺イエロウ、『ゼルダの伝説』シリーズの姫川明、『ジャングルはいつもハレのちグゥ』の金田一蓮十郎、『マギ』の大高忍などがいる。

スポーツもの、SF、ファンタジー系などが大半で、女性ならではの視点や表現といった「女性らしさ」を売り物にしたものではない。男性風ペンネームは、そういう先入観を排すためでもあるだろう。

男性マンガ家が少女誌に描く場合は、男性らしさを強調するのでもなく、女には描けないものを描こうとの気負いもなさそうだ。

 

以上みてきたように、マンガはストーリーマンガが誕生し、少年誌・少女誌の上で発展したことから、ずっと読者対象を男女別にし、少年マンガ・少女マンガが分け隔てなく載る雑誌は定着しなかった。

しかし、1980年代になると、その境界にあるものは強固な壁ではなくなり、垣根のような緩いものになった。

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オトコ・マンガ/オンナ・マンガの世界

いまや世界を夢中にさせているマンガの世界。その発祥をたどると「オトコ・マンガ」と「オンナ・マンガ」に別れ、男女の壁が当然のように存在する。日本の女性は「オトコ・マンガ」をほぼ読まず、男性は「オンナ・マンガ」を読まずに大人になった。この交じり合わない男女像が、今の男女不理解に影響を与えている……!? マンガ独特の歴史をたどりながら日本社会を語る画期的論考。

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中川右介

1960年生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。出版社IPCの編集長として写真集を中心に美術書を編集、ソ連の出版社とも提携した。後、出版社アルファベータを設立し、代表取締役編集長に(2014年まで)。ドイツ、アメリカ等の出版社と提携し、音楽家や文学者の評伝や写真集を編集・出版。クラシック音楽、歌舞伎、映画、歌謡曲、マンガなどの分野で旺盛な執筆活動を続ける。おもな著書に『十一代目團十郎と六代目歌右衛門』『坂東玉三郎』『カラヤンとフルトヴェングラー』(以上、幻冬舎新書)、『手塚治虫とトキワ荘』(集英社)、『サブカル勃興史』(角川新書)、『1968年』(朝日新書)などがある。

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