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オトコ・マンガ/オンナ・マンガの世界

2019.11.19 更新 ツイート

第16回

「少女漫画」の枠からはみ出てゆく竹宮、萩尾作品中川右介

萩尾望都が感じる少女マンガの限界と、手塚治虫が感じる少女マンガの可能性

萩尾望都は1977年2月から、アメリカのSF作家レイ・ブラッドベリの短編小説のマンガ化も始め、「週刊マーガレット」に掲載された。

この年、萩尾望都は手塚治虫と「別冊新評」7月10日号で対談し、ブラッドベリやSFとの出会いについて語っている。

それによると、海外のSF小説は中学2年生ごろから読んでいたが、ブラッドベリを読み始めたのは20歳ごろだという。最初が『10月はたそがれの国』で、1年ほどの間に、ブラッドベリ作品を読破した。

 

萩尾は1949年生まれなので20歳というと、69年ごろとなる。

この手塚との対談で、萩尾は「少年誌に描いてみたいんです。空間の広いSFを。少女マンガというのは奥行きが出せないというかなあ……現場でやってみると、ヒシヒシと……」と語る。

萩尾にとって「SFを描く」ことは少女マンガ誌でも可能となっているのだが、「5、6ページ続けて砂漠の荒れ果てた風景」を描くことが、少女マンガではできないと語る。手塚は「それは手を抜くという作業なんだよ」と笑いながら、手の内を明かす。たとえそうだとしても、少女誌では砂漠の風景が何ページも続くことは、許されないのだ。

手塚は、「人間描写とか、深い人生観とか、そういうものがあるんでしょう」と、少女マンガのほうが優位にあると指摘している。手塚は手塚で、少年マンガ誌の限界を感じ、少女マンガのほうが自由だと感じているようだ。

手塚治虫や石森章太郎のSFマンガは、少年誌を発表媒体としていたこともあり、「闘うヒーロー」の物語が大半だった。主人公がロボットなら『鉄腕アトム』だし、サイボーグなら『サイボーグ009』になる。あるいは何らかの理由で地球が滅亡しそうになり、それを防ぐ闘いのドラマだ。

文明論的なテーマを内在した本格SFは、手塚には『火の鳥』や、「SFマガジン」に1971年から1975年に連載された『鳥人体系』、石森にも「少年マガジン」に1969年から1970年まで連載された『リュウの道』などがあるが、そう多くはないのだ。

そんなところに、シリアスな本格SFとして竹宮惠子の『地球(テラ)へ…』が「マンガ少年」1977年1月号に登場し、萩尾望都の『百億の昼と千億の夜』が1977年8月、「週刊少年チャンピオン」で連載開始となった。
 

 

劇場用アニメ『宇宙戦艦ヤマト』がヒットしたのが1977年夏で、『スター・ウォーズ』第1作はアメリカで77年5月に封切られ大ヒットしていた(日本での公開は78年夏)。SFブームが来るかもしれない、という気運はあった。

その追い風に乗って、少年誌でも珍しい、本格SFマンガの連載が、女性マンガ家によって始まったのである。

 

『地球(テラ)へ…』のメディアミックスとしての成功

竹宮惠子『地球(テラ)へ…』の「マンガ少年」での連載は、当初は1977年1月号からの3回での予定だったが、4回となり、それも「第一部 完」としての終わり方だった。そして11月号から第二部が始まり、第三部、第四部と描かれ、1980年5月号をもって終わる、大長編となった。

その間にラジオドラマにもなり、1980年4月には東映による劇場用アニメ映画が公開された。これは竹宮のマンガの初の映像化でもあった。『宇宙戦艦ヤマト』のヒットで、松本零士原作の『銀河鉄道999』も作られ、ヒットしていた時期にあたる。

『地球(テラ)へ…』は、「マンガ少年別冊」としてまとめられ、その後、朝日ソノラマのサンコミックスからも刊行される。

竹宮の『地球(テラ)へ…』は作品としても、メディアミックスのビジネスとしても成功した。いくつかの点で、SF作家の光瀬龍がアドバイスもした。

『地球(テラ)へ…』の連載が続いている1980年9月、竹宮は「少年マガジン」に光瀬龍の短編SFをマンガ化した『決闘2108年』を描いた。

さらに『地球(テラ)へ…』の連載が終わると、竹宮は「マンガ少年」で、光瀬にオリジナルの原作を書いてもらい『アンドロメダ・ストーリーズ』を80年11月号から連載した。

萩尾の『百億の昼と千億の夜』はすでに名作として評価の高い小説のマンガ化だったが、『アンドロメダ・ストーリーズ』には小説はなく、マンガのために原作が書かれたものだ。
 

竹宮惠子はSFマンガ家としての地位を確立した。

「別冊少女コミック」1978年1月号に『集まる日,』、「少女コミック」6月増刊号には『砂時計』三部作100ページを一挙に掲載した。

さらに、小学館が女性マンガ誌として「ビッグコミックフォアレディ」を1981年2月号で創刊すると、『私を月まで連れてって!』を85年4月号まで連載した(その後、「プチフラワー」へ移る)。

こういうSFを描く一方で、竹宮惠子は代表作『風と木の詩』を描いていたのである(1976年から84年)。

しかし、萩尾望都も負けてはいない。

『百億の昼と千億の夜』から始まる光瀬龍とのコラボ

萩尾望都の『百億の昼と千億の夜』はSF作家光瀬龍の代表作で、スケールの巨大さと、観念的で宗教を正面から題材にした難解な作品として「名作」となっていた。光瀬龍は星新一や小松左京ほどは一般には知られていなかったが、日本SF第1世代の作家で、多くのファンがいた。

当時の「チャンピオン」は手塚治虫『ブラック・ジャック』、水島新司『ドカベン』、山上たつひこ『がきデカ』などが載り、全盛期にあたる。多少の冒険が許され、大胆な企画も可能だったのだろう。

前掲の手塚との対談の時点では、夏から「週刊少年チャンピオン」に『百億の昼と千億の夜』を連載すると決まっていた。同誌の編集者がSF作家光瀬龍のファンで、萩尾が「体系的に読んだことがない」と言うと、光瀬の本を全部貸してくれた。萩尾は借りたからにはと、全部読んだ。「何がいちばん面白かったか」と訊かれたので、『百億の昼と千億の夜』だと答えると、「描くんだったら、光瀬先生を紹介しましょうか」となり、連載が決まったのだという。

1977年8月15日号から始まり、78年1月2日号まで、20回の連載だった。連載時は、だんだん掲載ページが巻末のほうになっていったので、そう人気があったわけではないだろう。

しかし、秋田書店の「少年チャンピオン・コミックス」として刊行されると、ロングセラーになった。『トーマの心臓』もそうだったが、一回ごとに読んだのでは分かりにくく、まとまったのを一気に読んだほうが面白いタイプのマンガだった。

1978年に「少年チャンピオン」に連載されていたマンガで、いまも新刊書店で入手できるのは、『百億の昼と千億の夜』と手塚治虫の『ブラック・ジャック』しかない。

『百億の昼と千億の夜』連載中に、萩尾望都は光瀬龍とのコラボで「SFマガジン」77年10月号から『宇宙叙事詩』を連載する(79年9月号まで)。これはマンガではなく、光瀬の新作小説を、萩尾の絵とともに掲載するものだ。
 


「週刊マーガレット』のブラッドベリ・シリーズも再開し、1978年3月26日号に『ウは宇宙船のウ』、4月23日号に『ぼくの地下室へおいで』、『5月21日号に『宇宙船乗組員』と『泣きさけぶ女の人』、6月18日号に『びっくり箱』、7月30日号に『集会』と6編が載った。

そして、「少女コミック」では長編SF『スター・レッド』が78年5月28日号から始まる(79年2月5日号まで)。

こうして萩尾望都はSFマンガの最先端に躍り出た。マンガ誌ではなく、SF誌にも描くようになった。「SFファンタジア」78年4号に『左ききのイザン』、「SFマガジン」80年2月号に『ラーギニー』、同11月臨時増刊号に『金曜の夜の集会』などの短編を描いた。

男女の壁どころか、マンガと小説の壁まで越えてしまったのだ。

 

『宇宙叙事詩』も評判になったので、「SFマガジン」にも、1980年12月号から萩尾のオリジナルのマンガ『銀の三角』が連載された(82年6月号まで)。

当時のマンガとしては異例の、A5判・ハードカバー、定価1500円という、文芸書の装いの本だった。

 

※毎週火曜更新

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オトコ・マンガ/オンナ・マンガの世界

いまや世界を夢中にさせているマンガの世界。その発祥をたどると「オトコ・マンガ」と「オンナ・マンガ」に別れ、男女の壁が当然のように存在する。日本の女性は「オトコ・マンガ」をほぼ読まず、男性は「オンナ・マンガ」を読まずに大人になった。この交じり合わない男女像が、今の男女不理解に影響を与えている……!? マンガ独特の歴史をたどりながら日本社会を語る画期的論考。

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中川右介

1960年生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。出版社IPCの編集長として写真集を中心に美術書を編集、ソ連の出版社とも提携した。後、出版社アルファベータを設立し、代表取締役編集長に(2014年まで)。ドイツ、アメリカ等の出版社と提携し、音楽家や文学者の評伝や写真集を編集・出版。クラシック音楽、歌舞伎、映画、歌謡曲、マンガなどの分野で旺盛な執筆活動を続ける。おもな著書に『十一代目團十郎と六代目歌右衛門』『坂東玉三郎』『カラヤンとフルトヴェングラー』(以上、幻冬舎新書)、『手塚治虫とトキワ荘』(集英社)、『サブカル勃興史』(角川新書)、『1968年』(朝日新書)などがある。

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