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オトコ・マンガ/オンナ・マンガの世界

2019.10.01 更新 ツイート

第9回

最初の女性コミック誌「ファニー」と、萩尾望都のデビュー中川右介

「ファニー」と竹宮惠子

(写真:iStock.com/maracz)

竹宮惠子は集英社の「週刊マーガレット」の新人賞で『リンゴの罪』が佳作となり、同誌1968年正月増刊号に掲載された。

しかし、これだけではプロにはなれない。同年春、竹宮は高校を卒業すると、徳島大学教育学部(現・鳴門教育大学)美術科に入学した。

そして「COM」7月号で、『かぎッ子集団』が入選した。16ページの作品で、団地で暮らしている少年が主人公だ。

竹宮はメジャーの「マーガレット」でデビューした後も「COM」への応募を続けていたのだ。

「COM」では、前月の6月号から矢代まさこの短編シリーズの連載が始まり、山上たつひこの読切も載り、山上は7月号から『人類戦記』を連載する。さらに、7月号には永井豪の四コママンガも載り、新しい世代のマンガ家たちが、次々と登場していた。

竹宮の次の作品が載るのは、集英社の「マーガレット」ではなく、講談社の「なかよし」だった。その1969年1月増刊号に『ゆびきり』でデビューし、同3月号に『ルナの太陽』が載る。まだ、徳島大学の学生である。

「COM」は1969年で創刊3年目に突入した。その1月号の表紙には、手塚治虫、石森章太郎、矢代まさこ、山上たつひこの名が、同じ大きさで載っている。看板作家のひとりが女性という雑誌になっていた。新人発掘のための「ぐら・こん」に入選、佳作となる者も女性が3割から4割になっていた。

これを受けて、虫プロ商事から、1969年4月、新雑誌「ファニー」の5月創刊号が発売された。誌名は「COM」で公募し、FUNNYが選ばれた。当時、「ファニー・フェイス」「ファニー・ガール」といった言葉がはやっていたのである。

その創刊の言葉にはこうある。

〈いまや、巷はコミック誌の洪水です。でも、女性コミック誌はというと、本格的なものは皆無にひとしい状態ではないでしょうか。あるのは、少女雑誌でしかありません。

ローティーンからO.L.にいたる、数多い女性まんがファンは、もっと新鮮なものを求めているとおもわれます。〉

1969年のコミック誌全般の状況を確認してみよう。

少年週刊誌が「サンデー」「マガジン」「キング」「ジャンプ」「チャンピオン」の5誌体制になるのが、この年だ。

その上の層をターゲットにして、1967年に「漫画アクション」(双葉社)と「ヤングコミック」(少年画報社)、68年に「ビッグコミック」(小学館)、「プレイコミック」(秋田書店)という「青年コミック誌」も相次いで創刊された。これらは週刊あるいは月2回刊で、誌面の大半がマンガである。

いずれも、高校生から大学生、若年労働者を対象とするが、あくまで男性誌で、女性のための青年コミック誌はなかったのだ。

だが、虫プロ商事が気づくのだから、当然、大手出版社も空白地帯があるのを認識しており、集英社は1968年に「週刊セブンティーン」を創刊した。誌名のとおり、17歳前後、高校生を対象とした。現在の同誌はファッション誌となっているが、当時はマンガも載っており、集英社のラインナップでは、小学生向けの「りぼん」、中学生向けの「マーガレット」の上の世代を狙った雑誌である。翌69年には月刊の「別冊セブンティーン」も創刊される(73年に「月刊セブンティーン」に誌名変更)。

しかし「セブンティーン」と正面からぶつかるライバル誌はなかなか登場しなかったし、「セブンティーン」は、高校生女子のための総合雑誌のイメージが強い。

「ファニー」は、そんな状況下に月刊の「日本で初めての、若い女性のための、本格的コミックマガジン」として創刊された。「COM」編集長だった山崎邦保が、「ファニー」の創刊編集長となる。

創刊号には、手塚治虫、石森章太郎、永井豪といった男性マンガ家の名もあるが、ゲスト的なもので、主軸となるのは牧美也子、矢代まさこ、竹宮惠子、みつはしちかこ、谷口早苗、岡田史子、もとやま礼子といった女性マンガ家たちだった。水野英子もイラストを寄せている。

竹宮にとって、初の連載だった。

女性コミック誌の創刊、相次ぐ

男女別ではないマンガ雑誌だった「COM」から、女性コミック誌が分離独立したのは、進化なのか後退なのか、現在では評価が難しい。

当時としては、未開の地である女性コミック誌を創刊したのは画期的だったと言えるだろう。

「ファニー」が創刊されると、「COM」の誌面からは女性の作品が少なくなっていく。女性マンガ家たちが「ファニー」へ移行したのは、明らかである。だが、「ファニー」がなかったら、竹宮惠子が「COM」に連載を持てたかというと、それはなかったとも思う。

女性マンガ家が、小学生、中学生向けの少女マンガではないものを発表する場を持てたという点で、「ファニー」は、マンガ表現の発展に貢献した。

竹宮惠子の最初の連載『スーパーお嬢さん!』は1回16ページで、5月創刊号から11月号まで6回、掲載された。「原作・辻真先」とある。初めての連載なので、編集部としては不安だったのだろう。原作を付け、ストーリーが行き詰まらないようにしたのだ。SF的設定のアクションの多いマンガで、主人公は大学生の女性だ。いわゆる少女マンガっぽくはないが、ロマンスもある。

「ファニー」は1969年10月号までの6号は月刊で、11月からは、隔週刊になる。

11月14日号が隔週刊の最初の号で、竹宮惠子はこの号には読切のラブコメ『カップリングOh !』、次の11月28日号からは3回にわたり、探偵ものと青春ものをあわせた『ギターと三味線』を連載した。

萩尾望都、デビュー

1969年夏、「なかよし」夏休み増刊号に載った『ルルとミミ』で、萩尾望都が商業誌デビューを果たした。当時20歳である。

萩尾望都は1949年5月に、福岡県大牟田市に生まれた。幼少期から絵を描くのが好きで、うまかったという。小学生時代に手塚治虫作品に出会い、マンガに夢中になる。他に、石森章太郎、牧美也子を愛読していた。中学に入るとSFにも夢中になる。中学2年の年に大阪府吹田市へ引っ越し、府立吹田高校へ進学した。

マンガ家になろうと決意したのは、1965年、高校2年のときで、手塚治虫の『新選組』を読んで衝撃を受けたからだった。

『新選組』はタイトルの通り、新選組を描いたもので、手塚には珍しい時代劇である。土方歳三など実在の人物も出てくるが、主人公となる二人は架空の人物である。手塚作品のなかでは知名度は低い。現在では「新選組」はBLの題材にもなるが、この手塚作品にはそういう要素はない。

萩尾はこの年に父の仕事の関係で大阪から福岡に引っ越し、県立大牟田北高校に転校、1967年春に卒業した。

卒業後は福岡市内にある、日本デザイナー学院ファッションデザイン科に入り、服飾の勉強をしながら、「COM」に投稿していた。

1968年には、「別冊マーガレット」に投稿し、5月号で『ミニレディが恋をしたら』が金賞、7月号で『青空と王子さま』が銀賞に入賞する。しかし、掲載はされなかった。

「別冊マーガレット」に入賞しても同誌からも、集英社からもデビューしなかった。編集部が求める「女の子が喜ぶマンガ」と、萩尾が描きたいマンガとの間に、かなりの溝があり、埋められなかったのだ。

翌1969年、萩尾は休暇で東京へ行った際に、つてをたどって講談社の「なかよし」編集部へ行き作品を見てもらった。すると「短いものを描いてみてくれ」と言われ、『ルルとミミ』20ページを描くと採用され、夏休み増刊号に載って、商業誌デビューとなったのだ。

この春に、萩尾は日本デザイナー学院を卒業した。マンガ家としてやっていくには、東京で暮らす必要がある。そのための資金を貯めることにした。

9月増刊号には『すてきな魔法』32ページが載った。「なかよし」は小学生が読者なので、それにあわせた、典型的な少女マンガの絵になっている。

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オトコ・マンガ/オンナ・マンガの世界

いまや世界を夢中にさせているマンガの世界。その発祥をたどると「オトコ・マンガ」と「オンナ・マンガ」に別れ、男女の壁が当然のように存在する。日本の女性は「オトコ・マンガ」をほぼ読まず、男性は「オンナ・マンガ」を読まずに大人になった。この交じり合わない男女像が、今の男女不理解に影響を与えている……!? マンガ独特の歴史をたどりながら日本社会を語る画期的論考。

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中川右介

1960年生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。出版社IPCの編集長として写真集を中心に美術書を編集、ソ連の出版社とも提携した。後、出版社アルファベータを設立し、代表取締役編集長に(2014年まで)。ドイツ、アメリカ等の出版社と提携し、音楽家や文学者の評伝や写真集を編集・出版。クラシック音楽、歌舞伎、映画、歌謡曲、マンガなどの分野で旺盛な執筆活動を続ける。おもな著書に『十一代目團十郎と六代目歌右衛門』『坂東玉三郎』『カラヤンとフルトヴェングラー』(以上、幻冬舎新書)、『手塚治虫とトキワ荘』(集英社)、『サブカル勃興史』(角川新書)、『1968年』(朝日新書)などがある。

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