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オトコ・マンガ/オンナ・マンガの世界

2019.08.13 更新 ツイート

第3回

少年雑誌から分離・独立して生まれた少女雑誌中川右介

第1回「マンガには『オトコ・マンガ』と『オンナ・マンガ』がある」はこちら

(写真:iStock.com/Igor komarov)

日本において、少年少女雑誌ほど、男女平等が形だけ見れば早くに確立されたものはない。

2010年代のいまは、「少年」とか「少女」という単語が誌名にある雑誌は少ないが、半世紀前まで、大手出版社は、男女双方の、対になる雑誌を出していたのだ。

 

講談社は「少年クラブ」と「少女クラブ」、光文社は「少年」と「少女」、集英社は「少年ブック」と「少女ブック」という具合に。

少年雑誌の歴史は明治時代に遡る。

「少年」という単語を冠した最初の雑誌は、1888年(明治21)に創刊された「少年園」という雑誌。大日本帝国憲法が公布されたのが1889年なので、その一年前。

少年雑誌と憲政(けんせい)は、ほぼ同時に始まった。

「少年園」が売れると、「日本之少年」「小国民」「少年文武」「少年世界」などが創刊された。

この時点での「少年」には、男の子だけでなく、女の子も含まれる。つまり、女の子も読んでいた。この時代は、「少女雑誌」どころか、「少女」という言葉も、一般的には使われていない。

 

少女は初め「少年(大人ではない人)」の一部だった

博文館というと、いまでは日記帳の出版社だが、日本最初の大出版社で、いくつもの雑誌を出し、書籍も出していた。

その博文館が1895年(明治28)に創刊したのが「少年世界」で、7万部ほど売れていた。当時としては、大部数だ。

この雑誌は、男子も女子も読んでいたが、「少女欄」というページが設けられるようになる。女の子のためのページである。「少女」という言葉が使われだしたのがこの頃だ。

「少女」は「少年の一部」として始まる。「少男」という言葉は生まれず、男子は「少女ではない少年」ということになる。

つまり、「少女」とは、〈自分が「少女」であると意識した少年(大人ではない人)〉という意味で、「わたしは少女だ」と意識しない限りは、女の子であっても、少年だった。男の子は、何も意識せず努力もしないで「少年」になる。

そして、「少年世界」創刊から12年目の1906年(明治39)、博文館は「少年世界」の「少女欄」を独立させて、「少女世界」を創刊した。

それに先立つ1902年(明治35)、金港堂書籍が創刊した「少女界」が最初の「少女」と冠した雑誌とされる。この出版社は「少年界」「青年界」「婦人界」「文芸界」など「界」と付く雑誌をいくつも出していた。

以後、少年雑誌を出していた出版社は、少女雑誌も出すようになる。

生まれる数は男女がほぼ同数なので、男子向きの少年雑誌が売れれば、少女雑誌も売れるはずなのだ。

このように――雑誌が男女別なのは、明治からだった。

 

雑誌の男女別は、男尊女卑の定着装置に

戦後の男女平等の憲法や法制度の前から、雑誌は男女平等だったのだ。日本が近代社会になり、「子供の発見」がなされたときから、同時に「男の子」と「女の子」も発見されて、分離された。

やがて「女性」「婦人」を誌名にする「婦人雑誌」も登場する。しかし、その実態は、男女平等とは程遠いというか、その逆で、少女雑誌とは、男尊女卑を定着させるための装置だった。

雑誌や小説によって、男の子は、「国のために戦う」ことを教えられ、女の子は、「家のために生きる」ことを教えられた。「家のため」とは、「父のため」「夫のため」「息子のため」、つまり「男に尽くせ」ということだ。

戦後になっても、その構造は根本的には変わらない。

婦人雑誌が扱うのは、家事と育児に関する情報が大半で、「女の生き方」をテーマにする雜誌は、1960年代以降にならないと登場しない。

もちろん、「青鞜(せいとう)」のような雑誌もあったが、あれは婦人運動の機関誌のようなもので、商業誌ではない。

 

男女別フィクションは、小説からマンガにとって変わられた

子供向けの雑誌が男女別なのは、近代出版史の初期からだった。しかし、戦前の少年雑誌、少女雑誌とも、「マンガ」はほとんど載っていない。子供向けのフィクションといえば、小説である。

雑誌には少年小説、少女小説が挿絵付きで載っていて、それが子供たちの娯楽だった。

男女別フィクションとしては、マンガの前に、小説があったのだ。

その小説が、戦後、マンガにとってかわられる。

現在読まれている「マンガ」は、1945年の敗戦後にその歴史が始まる。

それまでも、『のらくろ』のように、子供向きのマンガは存在したが、もともとマンガとは、大人のためのものだった。いま、大人のためのマンガというと、アダルトコミックを連想する人がいるかもしれないが、新聞に載っている4コマ漫画や1コマ漫画が、もともとの漫画、大人の漫画である。

おかしみ、滑稽味(こっけいみ)があり、風刺でもある、絵と簡単なセリフによって構成されている絵を、漫画と言った。外国にもこれはあるし、日本独自のものではない。

漫画の起源は遡(さかのぼ)れば鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)にいきつくとの説もあるが、そうだとしても、現在描かれているマンガは、直接は鳥獣戯画とのつながりはない。

 

現在のマンガの起源とされるのは、「手塚治虫」である。

1枚のページがコマで区切られ、コマのなかに絵があり、吹き出しによるセリフがあって、コマが進むに連れて、ひとつのストーリーが展開している形式のマンガを、「本格的」に「量産」した、最初の人が手塚治虫だった。

手塚治虫は1928年(昭和3)に生まれた。父は大企業のサラリーマン、祖父は法律家、曽祖父は医者という、当時の日本ではエリートで裕福な家庭だった。幼少期に一家は宝塚に引っ越した。隣に宝塚歌劇団のスターが住んでいるという環境で、宝塚歌劇に、母に連れられていき、親しんでいた。

日本に「SF」という言葉のない時代から空想科学小説にも親しんでおり、SFと宝塚、そして外国映画が手塚治虫の原点となる。こういう人物が、絵もうまく、ストーリー作りにも才能があったことで、日本社会は大きく変わるのだ。

 

※毎週火曜更新

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コメント

林けいこ  少年雑誌から分離・独立して生まれた少女雑誌|オトコ・マンガ/オンナ・マンガの世界|中川右介 - 幻冬舎plus https://t.co/tbwrMFZSlW 3日前 replyretweetfavorite

幻冬舎plus  少年雑誌から分離・独立して生まれた少女雑誌|オトコ・マンガ/オンナ・マンガの世界|中川右介 https://t.co/Pbhf2SccPW 4日前 replyretweetfavorite

hharunaga  “(明治時代の当初の)「少年」には、男の子だけでなく、女の子も含まれる。…(その後、女の子のための)「少女欄」というページが設けられるようになる。…「少女」という言葉が使われだしたのがこの頃だ” / 少年雑誌から分離・独立して生ま… https://t.co/f7Ouc2ECLU 4日前 replyretweetfavorite

幻冬舎plus  時は明治35年。初めて「少女」の名を冠した雑誌が生まれた。その背景とは?[片] → 少年雑誌から分離・独立して生まれた少女雑誌|オトコ・マンガ/オンナ・マンガの世界|中川右介 - 幻冬舎plus https://t.co/Pbhf2StNHu 4日前 replyretweetfavorite

中川右介  連載第3回 少年雑誌から、少女雑誌が分離独立する過程の話。 オトコ・マンガ/オンナ・マンガの世界|中川右介 - 幻冬舎plus https://t.co/h0yplggQ4g 4日前 replyretweetfavorite

オトコ・マンガ/オンナ・マンガの世界

いまや世界を夢中にさせているマンガの世界。その発祥をたどると「オトコ・マンガ」と「オンナ・マンガ」に別れ、男女の壁が当然のように存在する。日本の女性は「オトコ・マンガ」をほぼ読まず、男性は「オンナ・マンガ」を読まずに大人になった。この交じり合わない男女像が、今の男女不理解に影響を与えている……!? マンガ独特の歴史をたどりながら日本社会を語る画期的論考。

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中川右介

1960年生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。出版社IPCの編集長として写真集を中心に美術書を編集、ソ連の出版社とも提携した。後、出版社アルファベータを設立し、代表取締役編集長に(2014年まで)。ドイツ、アメリカ等の出版社と提携し、音楽家や文学者の評伝や写真集を編集・出版。クラシック音楽、歌舞伎、映画、歌謡曲、マンガなどの分野で旺盛な執筆活動を続ける。おもな著書に『十一代目團十郎と六代目歌右衛門』『坂東玉三郎』『カラヤンとフルトヴェングラー』(以上、幻冬舎新書)、『手塚治虫とトキワ荘』(集英社)、『サブカル勃興史』(角川新書)、『1968年』(朝日新書)などがある。

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