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オトコ・マンガ/オンナ・マンガの世界

2019.08.06 更新 ツイート

第2回

マンガが男女別なのはいまや国民的常識中川右介

第1回「マンガには『オトコ・マンガ』と『オンナ・マンガ』がある」はこちら

(写真:iStock.com/Amin Yusifov)

マンガ以外のフィクション、小説や映画、テレビドラマ、演劇、あるいは音楽(歌)は、作品ごとに、女性向き、男性向きというのはあったとしても、ジャンルとしては、性別で分かれてはいない。

小説では、ボーイズ・ラブ(BL)の専門誌などを除けば、純文学の「新潮」「文學界」「群像」も、エンタメ系の小説の雑誌も、とくに男性向き、女性向きと、読者を予め選別しているものはないし、そこに書いている作家たちも、男もいれば女もいる。

 

ある程度の規模の書店では、小説の棚を作家ごとに分類し、さらに「男性作家」「女性作家」と別にしている店もある。これは、あくまで読者が探しやすいようにするためで、対象とする読者を男女別と想定しているわけではない。

女性作家の男性ファンは少ないかもしれないが、男性作家の女性ファンは多いだろう。

今期の直木賞は候補者全員が女性作家だったが、そのジャンルも作風もさまざまだ。

でも、マンガは違うのだ。小学生向けから大人向けのものまで、ほぼ全ての雑誌が男性向けと女性向けとに分かれている。

マンガは「オトコ」「オンナ」に分かれた。年代別でも分類できるが、その前に、男女別となっている。

男子も女子も楽しめるのは、『ドラえもん』など、児童マンガに限られる。それは、『ドラえもん』が、「小学一年生」から「小学六年生」までの、小学館の学年別学習雑誌に連載されていたからだ。これらは、男の子も女の子も読んでいた、ユニセックス誌である。

それを卒業すると、男の子は少年誌、女の子は少女誌を読むようになり、両者は分離した。

男の子は「コロコロコミック」でマンガに出会い、「少年ジャンプ」「少年サンデー」「少年マガジン」「少年チャンピオン」を経て、「ビッグコミックスピリッツ」や「ヤングジャンプ」「ヤングマガジン」「モーニング」などの青年誌に進み……というルート。ひとによっては、成人マンガにも向かう。

女の子は「なかよし」「りぼん」「ちゃお」で出会って、「Sho-Comi(少女コミック)」や「マーガレット」「花とゆめ」などへ進み、その先に「flowers」とか「Kiss」のヤング・レディー誌がある。ひとによってはレディースコミック、あるいはBL系に進むだろう。

マンガの単行本(コミックス)は、ほとんどが雑誌と同レーベルで出されているので、これも男女別。男性向け雑誌に描いているのは男性マンガ家がほとんどで、女性向け雑誌には女性マンガ家が描いている。

高橋留美子のように、女性でありながら男性向け雑誌に描いて成功したマンガ家もいるが、あくまで、「例外」だ。

その結果、「オトコ・マンガ」「オンナ・マンガ」に分かれて発展していった。

 

 

全出版物の20%前後の売上を占めるコミックス

出版統計では、出版物を、書籍と雑誌に分類しているが、さらに「コミック」も別枠である。

ベストセラーのランキングも、コミックス(マンガの単行本)は書籍にはカウントされず、独立したランキングとなっている。そうしないと、ベストセラーランキング上位のほとんどがコミックスになってしまうからだ。

マンガは全出版物の売上のなかで、2割前後を占めている。

残りの8割のなかには小説もあれば、実用書もあれば、医学書もあるし占いの本もある。

小説は話題になるので目立つが、「文芸書」は売上金額では全出版物の中の5%前後に過ぎない。

もっとも、「文庫」が10%前後で、その大半は小説なので、合わせれば15%前後となるだろう。児童書が6%前後で、これも大半がフィクションなので、これらを合わせて、ようやくマンガと対抗できる。

電子出版は全体で2500億円くらいの市場規模だが、その内2000億円前後がコミックスである。つまり、電子出版物の全売上のうち、コミックスの割合は8割前後になる。

コミックスの海賊版サイトが問題になっているのは、これだけ大きな市場規模だからだ。

 

このように、日本の出版物において、マンガはかなりの比重を占めている。

そのマンガに男女の壁がある。

「そんなことないよ、わたしはゴルゴ13のファンだよ」と言う女性もいるだろし、少女マンガを読む男もいるが、それらは、少数派である。

最も多くの人に親しまれているフィクションであるマンガは、男女別なのだ。

小説や映画や演劇は、作り手・送り手の本音と実態が「これは女向け」の作品だったとしても、タテマエとしては「男性も女性もどうぞ」なのに対し、マンガの場合、タテマエとしても、「これは少年サンデーだから、男の子が読んでね」であり、「花とゆめは女の子のための雑誌だよ」と男女別であることを堂々と謳っている。

これは、マンガの市場規模が大きいからだ。少年マンガ誌は少年だけを対象としても、10万部単位で売れている。「女の子にも読んでもらおう」などと考えなくても、ビジネスとして成立しているのだ。少女マンガ誌も同じである。

もちろん少子化の影響で、マンガ雑誌も部数は低減状況にあるが、だからといって、たとえば「少年サンデー」が「女の子も楽しめるよ」と少女マンガを載せたりはしないだろう。そんなことをしたら、ますます読者が減ってしまうに違いない。女の子が勝手に読むのは歓迎するが、雑誌としては「女の子も読んでね」というポーズはとらない。

マンガは男女別というのが、国民的常識となっている。

その結果、男は少女マンガを読まずに大人になり、女は少年マンガを読まずに大人になった。

「フィクションを楽しむ」という知的活動あるいは娯楽において、男は男だけの世界で生き、女は女だけの世界で生きている。

つまり、多くの男は「女の感性」とか「女の気持ち」を理解しないまま大人になり、現実世界における学校や職場で多くの女性と接しながらも、結局のところ、女のことは何も分かっていない。もちろん、女にも、同じことが言える。

幼少期から小・中学校時代に出会うマンガが、その人の人格形成に与える影響は大きいはずだ。

ボーヴォワールは『第二の性』に、「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」と書いたが、戦後日本において、「女を女にさせた」のは少女マンガであり、男は少年マンガと青年マンガによって「男」になってきた。

こんにちの日本社会における男女の相互不理解は、マンガが男女別に発展してしまったからである――というのが、本稿の仮説である。以下、マンガの発展をたどりながら、考えてみたい。

 

※毎週火曜更新

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オトコ・マンガ/オンナ・マンガの世界

いまや世界を夢中にさせているマンガの世界。その発祥をたどると「オトコ・マンガ」と「オンナ・マンガ」に別れ、男女の壁が当然のように存在する。日本の女性は「オトコ・マンガ」をほぼ読まず、男性は「オンナ・マンガ」を読まずに大人になった。この交じり合わない男女像が、今の男女不理解に影響を与えている……!? マンガ独特の歴史をたどりながら日本社会を語る画期的論考。

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中川右介

1960年生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。出版社IPCの編集長として写真集を中心に美術書を編集、ソ連の出版社とも提携した。後、出版社アルファベータを設立し、代表取締役編集長に(2014年まで)。ドイツ、アメリカ等の出版社と提携し、音楽家や文学者の評伝や写真集を編集・出版。クラシック音楽、歌舞伎、映画、歌謡曲、マンガなどの分野で旺盛な執筆活動を続ける。おもな著書に『十一代目團十郎と六代目歌右衛門』『坂東玉三郎』『カラヤンとフルトヴェングラー』(以上、幻冬舎新書)、『手塚治虫とトキワ荘』(集英社)、『サブカル勃興史』(角川新書)、『1968年』(朝日新書)などがある。

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