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オトコ・マンガ/オンナ・マンガの世界

2019.07.30 更新 ツイート

第1回

マンガには「オトコ・マンガ」と「オンナ・マンガ」がある中川右介

※本稿は男女差別をテーマとしており、現実を確認するために、女性差別、女性蔑視的な表現もありますが、差別を肯定、容認、助長する意図はありません。
 

(写真:iStock.com/bartamarabara)

 

6月30日、2016年のアニメ映画『君の名は。』がテレビ朝日系列で放映された。地上波では二度目で、今回の視聴率は12.4パーセント。

その直後から、思わぬ批判がSNSで展開された。

 

物語の前半は、高校生の男女の心と身体が入れ替わる設定だ。そのなかで、「女子になってしまった男子が胸を触るのが気持ち悪い」というのが第一の批判。次に、飲食店で働く女性が悪質な客にスカートを切られたシーンで、被害者の女性店員が警察に訴えようともしないことへの批判。これは、そういう行為をする男性も悪いが、それを「笑ってすませてしまう女性」を描いたこと、さらには、そういう「寛容な女性」を好意的に描くことへの批判だ。

なるほど。

少年マンガや青年マンガばかり読んでいると、そういう描写はそれほど奇異ではないので、わたしには何の違和感もなかったが、男性マンガ文化の「外部」にいる人(主として女性)のなかには、違和感を持つ人がいたようだ。

『君の名は。』は、映画館では女性の観客も多かったし、「男子向き」と謳われていたわけではないが、作者の新海誠は男性であり、「男性作品」であることから逃れられていなかったといえる。

テレビで放映されたことで、そんなに関心のなかった人々も見たために、社会が男女差別により敏感になっている今、女性蔑視的問題点が指摘されたともいえる。

問題点とは、男性が創作するマンガやアニメ作品には、男性のみの世界で培われた「伝統」、「お約束」とも呼べる表現が、どんなにカムフラージュしても、存在するということだ。そして同じことは、女性が創作したマンガ・アニメ作品にもいえるはずだ。

これは、マンガとアニメが男女別で、異性が読むことを前提とせずに発展した、特異なジャンルであるから生じた。

 

 

「このマンガがすごい!」(宝島社)という、その年の面白いマンガを投票でランキングする本が毎年、刊行されている。同社の「このミステリーがすごい!」のマンガ版である。マンガファンや書店員、編集者などの投票で、順位が決まる。

「このミス」のほうは、日本人作家と外国人作家(翻訳)とに分かれているが、「このマンガ」は、「オトコ編」と「オンナ編」とに分かれている。

学園もの、スポーツもの、SF、ミステリー、恋愛もの、といったジャンルでの分類ではなく、「オトコ」「オンナ」での分類だ。それも、作者が男か女かというのではないらしい(結果としてはそうなるのだが)。

2019年版のオトコ編の1位は『天国大魔境』(石黒正数)、オンナ編は『メタモルフォーゼの縁側』(鶴谷香央理)だった。前者は何らかの事情で日本は壊滅して15年が過ぎ、わずかに生き残った人々を描くSF、後者は現代の日本が舞台で書店でバイトをしている女子高校生と75歳の高齢女性がBLを通して親しくなるというストーリー。

たまたま、両極端な作品が1位になったのかもしれないが、2位以下のも、オトコ編はSF、ファンタジーなど異世界を舞台にしたものが多く、オンナ編は現代の等身大の女性を主人公にしたものが多い。両者にはマンガである点以外、何ら共通項はない。スポーツとしては同じでも、マラソンと野球とを比較できないのと同じだ。

マンガには宝島社の分類に従えば「オトコ・マンガ」と「オンナ・マンガ」の2種類がある。

そして、この2つを一緒にして、「ベストテン」を決めることはできない。

 

オトコ・マンガの多くは「闘い」

男たちは、どんなマンガを読んで楽しんでいるのか。

例外はあるが、オトコ・マンガの多くは、「闘い」が題材となる。スポーツもの、企業もの、SF、異世界ものなどのファンタジーであっても、とにかく闘う。

それは男同士の闘いが基本で、女が出てくるとしたら、男の性的欲望を満たす対象としてであり、たとえラブコメであっても、対等なパートナーとしてではない。

たとえば島耕作は課長、部長と、どんどん出世し会長にまでなったが、その過程で常に「大人の女性」が現れ、何の迷いも悩みもなく関係を持つ。その後も、ドロドロの愛憎劇にはならない。後腐れのない「大人の関係」があるだけだ。

ゴルゴ13も、登場する女性は性欲のはけ口か、殺す相手もしくはその関係者としてのみ登場する。人格のある女性も出てくるが、ゴルゴ13との関係は築けない。

少年マンガにおいて、自分の意思を持ち、それに従って行動する女子高校生は、少ない。『タッチ』の朝倉南は、その最も早い例で、1980年代のマンガのヒロインとしては、かなり異質であり、だから人気が出た。

しかし朝倉南は、最初は上杉兄弟のおさななじみの隣人として登場し、やがて「女子マネ」となる。少年マンガにおける「女子マネ」的な女の子は、青少年男子にとって、最も「都合のいい女」である(現実の、個別の女子マネのことを言っているのではない)。

この女性観は、企業における「女はお茶くみするのが当たり前」という文化の土壌となる。

朝倉南は、しかし、いつまでも女子マネではなかった。自己を確立し、自分の意のままに行動する。だが、そのためには、つまり、女子マネをやめるためには、「他の何か」になる必要があった。作者のあだち充は、朝倉南が女子マネをやめることを読者に納得させるために、彼女を新体操の選手にさせた。

女の子は「女子マネ」であること、つまり「同年代の男に仕えること」をやめるためには新体操の選手にならなければならない。だが、そんなのはごく限られた女の子にしかできない。抜群の容姿と運動神経に恵まれていた朝倉南のみが、女子マネから飛躍できたのだ。

新体操の選手とは、「アイドル」のメタファーでもある。

何らかの「アイドル」になれない女の子は、高校を舞台にした少年マンガにおいては、女子マネ的な役割をつづけるしかない。

 

オンナ・マンガは「恋愛、仕事、結婚」

最近の夜9時、10時台のドラマは大半がマンガを原作としている。そのマンガも、大半が女性マンガ誌に連載された、女性マンガ家によるものだ。

オンナ・マンガにもファンタジー系作品があるが、テレビドラマ化されるものは、一応は、「現代の日本」を舞台にし、魔法使いでも未来から来た人でもない、普通の日本人が主人公のものとなる。

主人公は現代の女性で、仕事を持っている。結婚しているかいないかは、さまざま。していれば「不倫」という物語になるし、結婚していなければ、「結婚したい」「結婚なんてしたくない」のどちらかの物語となる。

ヒロインの相手役となる男性は、ほとんどがイケメンではあるが、自分勝手か、優柔不断のどちらかである。その相手にふりまわされることで、ストーリーは進行していく。

乱暴にまとめると、こうなる。

オトコ・マンガが描く「女性」は、外見は美しく、複雑な内面は持たず、男にとって都合のいい存在である。

オンナ・マンガが描く「男性」は、外見はほどほどで、内面は不明で、女にとって理解不能なやっかいな存在である。

どらちも相手を理解できないが、オトコ・マンガの男たちは、そもそも女を理解しようとしないから、そのことでの悩みはない。オンナ・マンガの女たちは男を理解しようとするから悩む。

もちろん、そうではないマンガも、たくさんあるが。

 

現実がそうだからマンガもそうなっているのか。マンガがそうだから、それを読んで育った人びとの意識もそうなったのか。「答えの出ない問題」ではあるが、考えてみたい。

 

※毎週火曜更新

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オトコ・マンガ/オンナ・マンガの世界

いまや世界を夢中にさせているマンガの世界。その発祥をたどると「オトコ・マンガ」と「オンナ・マンガ」に別れ、男女の壁が当然のように存在する。日本の女性は「オトコ・マンガ」をほぼ読まず、男性は「オンナ・マンガ」を読まずに大人になった。この交じり合わない男女像が、今の男女不理解に影響を与えている……!? マンガ独特の歴史をたどりながら日本社会を語る画期的論考。

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中川右介

1960年生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。出版社IPCの編集長として写真集を中心に美術書を編集、ソ連の出版社とも提携した。後、出版社アルファベータを設立し、代表取締役編集長に(2014年まで)。ドイツ、アメリカ等の出版社と提携し、音楽家や文学者の評伝や写真集を編集・出版。クラシック音楽、歌舞伎、映画、歌謡曲、マンガなどの分野で旺盛な執筆活動を続ける。おもな著書に『十一代目團十郎と六代目歌右衛門』『坂東玉三郎』『カラヤンとフルトヴェングラー』(以上、幻冬舎新書)、『手塚治虫とトキワ荘』(集英社)、『サブカル勃興史』(角川新書)、『1968年』(朝日新書)などがある。

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