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内閣情報調査室

2019.06.04 更新

いま明かされる「官邸直轄のスパイ機関」の真実

金正男不法入国事件にみるインテリジェンス報告の功罪今井良

『内閣情報調査室』今井良・著(幻冬舎新書)

官邸機能強化と特定秘密保護法成立に伴い、大幅に権限を拡大し存在感を強めている官邸直轄の情報機関「内閣情報調査室」。

現在、約250人の内調スパイが安倍総理の手足となって、経済から軍事まで国内外のあらゆる情報を収集・分析し政策判断を支えているが、その実態は秘匿性が高く謎に包まれている。

公安や警察組織に関する著書をいくつもものしてきた著者が、渾身の取材により数々の内幕を明らかにした『内閣情報調査室 〜公安調査庁との三つ巴の闘い』(幻冬舎新書)

我が国のインテリジェンス組織の全貌を描き出す!

*   *   *

インテリジェンス報告をめぐる功罪
キム・ジョンナム不法入国事件

 2017年2月。マレーシアの空港で北朝鮮キム王朝のプリンス、キム・ジョンナムが殺害された。顔面に猛毒のVXを女2人に塗布され死亡したのだった。キム・ジョンナムは、異母弟であり北朝鮮の最高権力者のキム・ジョンウンから疎まれ、中国のマカオなどを転々としていた矢先だった。

 過去にこの悲劇のプリンスが家族とともに来日し、日本中をパニックに陥れた事件があった。それは、内閣情報調査室、公安警察、公安調査庁という三つ巴の情報機関の功罪が浮かび上がった事件でもあったのだ。

 2001年5月1日。成田空港の到着ロビー内の1室に4人の男女が通され、法務省入国管理局成田空港支局出張所員、警視庁公安部外事二課員から聴取を受けていた。

「これは偽造旅券ですね?」
「そうだ。ドミニカ共和国で2000ドルで購入したものだ」

 流ちょうな日本語で答えた男は、若かりしころのキム・ジョンナムであった。妻子と付き添いの女性との、4人での不法入国だった。

「北朝鮮のキムファミリーの一員が偽造旅券で家族と来日」との極秘情報は、数時間後に総理官邸に報告された。このとき法務省入国管理局の幹部から連絡を受けたのは、財務省から出向中の総理秘書官だった。

 国家の治安に係る速報事案ならば、本来は警察庁出身の総理秘書官が対応することになっている。警察庁出身の秘書官は「治安問題担当総理補佐官」としての役割を担っているからだ。しかし、財務省出身の首相秘書官が、この情報を総理官邸の情報担当官である内閣情報官に伝えることはなかった。キム・ジョンナム不法入国の報告を秘書官から受けた小泉純一郎総理大臣(当時)は「キム・ジョンナムをどうするかは事務方の判断を待つ――」という考えだった。ここから総理大臣が知らないところで不幸なことが起きていた。

 実は、キム・ジョンナム入国の事前情報は、警察庁だけでなく公安調査庁、入国管理局にも同時に通報されていたのだ。

 公安警察の司令塔である警察庁警備局は、通報を受けた時点から外事課分析第三係による追及オペレーションを展開した。そのスキームはこうだ。

 出入国管理及び難民認定法違反容疑を既遂したキム・ジョンナムを、水際で拘束せずに入国させ泳がせる。そして日本最大の公安警察部隊・警視庁公安部外事二課第二担当五係を中心とした作業班によって完全秘匿・24時間体制の視察活動を行って、接触を持つ全ての人物を記録。帰国の際に身柄を拘束し、刑事事件として立件する――。

 キム・ジョンナムを泳がせて、行動を追っていけばさまざまな情報が得られる。北朝鮮のスパイとして仕立て上げることも視野に入っていた。ところが警察庁のオペレーションはのっけからつまずいた。法務省入国管理局が「未遂のまま」拘束してしまったのである。入管は出入国管理を通常通りこなしたに過ぎなかった。

 そして総理官邸からは指示が降りてきた。

「キム・ジョンナムかどうか、一切の確認をしてはならない。このまま帰せ――」

 官邸からの天の声は警察庁・公安調査庁、そして蚊帳の外だった内閣情報調査室にも伝えられた。しかし、公安警察である警察庁警備局、公安調査庁には官邸に報告していない重大な情報があった。

 キム・ジョンナムは2000年に日本へ2回密入国しており、所持していたパスポートにも入国と出国のスタンプがきちんと押されていた。しかし、それ以前の1999年12月にも入国していた事実があり、それを唯一確認していたのが公安調査庁だったのだ。

 公安調査庁のブロック局・関東公安調査局が、キム・ジョンナムを密かに追跡し監視下に置いていた。帰国まで見届けた公安調査官たちは、本庁に報告書を上げる。しかし、この極秘情報は警察庁警備局、内閣情報調査室にも共有されることはなかったのである。

 一方の公安警察・警察庁警備局のアンテナにも当然引っかかっていたのが、キム・ジョンナムの家族たちの動向であった。1990年代の初めに家族とみられる女性の集団が複数回出入国していることが判明。女性たちは銀座のブティックやブランド店で買い物をしていたことが、追尾中の警視庁公安部外事二課の公安捜査官によって確認されている。

 さらにキム・ジョンイルの次男、キム・ジョンチョルが入国していることも判明。こちらも警視庁公安部外事二課アジア第二担当による完全秘匿の追尾が実施されていた。

 警察庁関係者が説明する。

「キムファミリーの密入国は10回以上確認されている。中でもキム・ジョンナムは東京・赤坂の高級韓国クラブに足しげく通っていた。お気に入りの韓国人女性がいたからで、プレゼントや現金を渡していたようだ」

 キム・ジョンナムや家族の日本への密入国は、情報機関の触覚に確実に反応した。しかし重要な情報は、総理官邸に報告されることはなかったのである。

 いま一番必要な情報を政策判断トップに直接報告する――。

 キム・ジョンナム事件での情報抱え込み・未報告問題が情報機関の方針を改めさせた。

「情報コミュニティ間における重要情報は内閣情報調査室に一元化せよ」

 2008年3月。町村信孝官房長官(当時)は内閣情報会議の場で居並ぶ情報コミュニティ幹部らを前に指示した。

 そもそも総理大臣への情報報告ルートは大きく分けて5つある。

(1)総理大臣秘書官ルート
(2)内閣官房長官ルート
(3)内閣官房副長官ルート
(4)各省庁局長ルート
(5)内閣情報官ルート

 総理大臣秘書官は各省庁から出向している5人が中心となる。このうち、首席秘書官は政務担当秘書官と呼ばれ、2019年1月現在の首席秘書官は今井尚哉氏(1982年通産省入省)である。首席秘書官は情報伝達ルートには組み込まれておらず、総理大臣の「PM(プライムミニスター)予定表」における、総理の個人的人脈との面会スケジュールなどを総合調整するのが主たる役割である。

 他の4人の秘書官には警察庁、財務省、外務省、経済産業省の4つの省庁からの出向者が就いている。4人はそれぞれ分野が異なる情報伝達ルートを持っていて、例えば警察庁出身の秘書官は警察庁のほか、防衛省、法務省、検察庁、公安調査庁、消防庁、総務省の情報を担当している。

 官房長官の秘書官も出身省庁担当別に役割分担されていて、警察庁出身の官房長官秘書官は治安・安全保障問題担当、外務省出身の秘書官は対外情報、財務省出身の秘書官は内政全般の情報を担当している。

 そして内閣官房副長官ルートは、全官僚のトップでもある事務担当の官房副長官が独自のルートを持ち、総理大臣・官房長官に直接伝達している。杉田和博官房副長官は警察庁出身で、安倍総理大臣の信頼が厚い。

 内閣情報官ルートは言わずと知れた北村滋内閣情報官による「総理報告」で、国内外のインテリジェンスが報告されている。

 ごくささいな情報でも各省庁が共有し、政策判断に生かすべく報告を上げる。内閣情報調査室への一元化は、かつてより実践されていると内調関係者は言う。

「やはり北村滋内閣情報官の手腕によるところが大きい。安倍総理の秘書官を務めたことも北村情報官の総理報告の姿勢に反映しているのだろう。北村情報官の存在が、内閣情報調査室を情報コミュニティのトップたらしめたんだ」

関連書籍

今井良『内閣情報調査室 公安警察、公安調査庁と三つ巴の闘い』

官邸機能強化と特定秘密保護法成立に伴い、大幅に権限を拡大し存在感を強めている官邸直轄の情報機関「内閣情報調査室」。現在、約250人の内調スパイが安倍総理の手足となって、経済から軍事まで国内外のあらゆる情報を収集・分析し政策判断を支えているが、その実態は秘匿性が高く謎に包まれている。対北朝鮮交渉、諸外国スパイとの攻防、テロ対策、インターネット諜報システムの構築、そして複数の公安機関との覇権争いなど、数々の内幕を明らかにし、我が国のインテリジェンス組織の全貌を描き出す!

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Kazukun  RT @1000bpm: 6月13日 朝日新聞&読売新聞 広告。 幻冬舎新書の話題作。官邸直轄の情報機関の真実がここに! 『内閣情報調査室 公安警察、公安調査庁との三つ巴の闘い』(今井良・著) 幻冬舎Plus↓で立ち読みできます。 https://t.co/IEOmERow5… 4日前 replyretweetfavorite

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今井良

1974年千葉県生まれ。中央大学文学部卒業。99年にNHKに入局し、地方局や東京の報道局ニュースセンターでディレクターとしてニュース番組の制作に十年間携わる。その後、民放テレビ局に移籍し、警視庁キャップ・ニュースデスクなどを歴任。主な著書に『風俗警察』(角川新書)、『警視庁科学捜査最前線』『マル暴捜査』(新潮新書)、『テロVS.日本の警察 標的はどこか?』(光文社新書)、『警視庁監察係』(小学館新書)。

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