1. Home
  2. 社会・教養
  3. ハイスペック女子のため息
  4. 上沼恵美子さんの沈黙をふと考える年の暮れ

ハイスペック女子のため息

2018.12.28 更新

上沼恵美子さんの沈黙をふと考える年の暮れ山口真由

「怒るよりむしろ傷ついたか」報道にしっくりきてしまった

(写真:iStock.com/ivan101)

お笑いのM-1グランプリ2018を観て「へー、すごいね、面白いね」と思っていたら、その打上げで、芸人のスーパーマラドーナ武智正剛さんと、酔っぱらったとろサーモン久保田かずのぶさんらが、審査員・上沼恵美子さんに対する批判をSNSでライブ配信して、大きな騒動になってしまったとのこと。とにかく、酔っぱらったらせいぜい個別のメッセージに留めて、SNSで発信するのは絶対にやめたほうがいいと思った。芸人さんとか、そういう仕事で必要な人は仕方がないんだろうけど、それ以外はSNSってほぼいいことないよね? 他人のキラキラな生活を見せられて楽しい?

この騒動について、上沼恵美子さまご本人ではなく、マネージャーが「怒っているほうが面白いでしょうけど、全く。デマも流れましたが、冷たい言い方になりますけど本人は全く興味がなく、相手にしていないのが実情です」と答えたとのこと。

直接の謝罪を受け入れて、そこで説教の一つもすれば、それなりの愛情を持って後輩に接して、和解を受け入れたということになるという。確かにそうなのだろう。だからこそ、その余地すら残さないというのは、相当に強い怒りの感情なのだろうか。

 

 

けれど、私は、とろサーモンの久保田さんと同じ番組に出演させていただいたときに、M-1について「俺の15年間」と仰っていて、「へー」と思ったのだけど。15年間って相当に重いのでしょうね。

又吉直樹さんの『火花』という作品もありましたが、寝食を惜しんでというか、貧乏して満足に食べられなくてもやせ我慢をして、とにかく面白いことだけを考えて。そうやって少しずつ売れてきてM-1に出られるようになれば、大会前は大好きなお酒を断って、わが身を削って削って15年間……渾身の力で出したものを、「どうして最後のM-1でこのネタをやったの?」とからーくコメントされたりして。そうやって積み重なった15年間。そうやって終わっていく15年間。

その15年間の終わりに、お酒も入れば、テンションはややおかしくなるのも決してわからないではない。

すべてを賭けたM-1の終わりをかみしめる場というやや特殊な空間であっても、非礼は決して許さないというのが上沼さんの信条ともいわれる。ところが、女性セブンは上沼さんは「怒っているというより、むしろ傷ついたか」と報じていて(「女性セブン」2018.12.13)、私には何となくしっくりきた。

曰く「最近若い芸人の中に上沼さんをバカにした態度をとる人がいた。今回の発言にもそれを感じて、気にしたのかもしれません」とのこと。

「西の女帝」をバカにする人なんてまさかいないと思うけど、「バカにされていると感じる」ことがありえないわけではない。

強く見える女性が、必ずしも強いというわけではない

私は、世の中の成功している人には、えてして2種類の人がいるのではないかと思う。ひとつは、自己肯定感が異常に高い人。もうひとつは、自己肯定感の低さを自身の努力と負けん気で補っている人だ。

長嶋一茂さんなんかは前者で、それは、まあ、父・長嶋茂雄にその存在を忘れられ、球場に置いてきぼりになったこともあるという。が、でもそうはいっても、家柄、容姿、才能に恵まれるというのはやはりやんごとない。だって、まず大きいもん。肉体的な要素というのは、性格を決定するうえで、非常に重要だと私は思う。ZOZOの前澤友作社長があと30cm背が高ければ、これほどまでの承認欲求を振りかざさずに済んだに違いない。逆に、ZOZOTOWNもできてないかもしれないけどね。ともかく、学生時代からどこにいっても「きゃーきゃー」「キャーキャー」と騒がれることに慣れていた一茂さんなら、どんなことを言われようと自己肯定感をうっすらとも削られないと思う。どこ吹く風である。

ところが、後者の場合にはそうはいかない。後者の人というのは、他者の目に自分の意義を読み取ろうとする。だから、「バカにされた」「なめられた」と感じると、自分自身の存在感が貶められたように思ってしまう。そして、傷つくたびに、「なにくそっ」と負けん気を発揮して、そのネガティブを自分を前に進めるパワーへと変えていく。そうやって、前へと進んできた人は、どんなに成功しても決して満足しないのだ。おそらく、えてして、人一倍繊細なのだろう。

こういう人々は概ね気遣いの人でもある。みんなの輪に加われなくて困っている人はいないか、誰かが居心地の悪い思いをしていないか……他人がどういう状態かを常に気にしている人は、視線を自分の内ではなく他人へと向けているのだろう。お会いしたこともないから分からないけど、石原慎太郎さんとか、市川海老蔵さんとか、ああいう、すべての他人は自分のために存在すると思っていて、スポットライトは当然俺に当たると思って恥じない、いや、それだけの立派な押し出しのある人って、そういう気遣いします? わかんないけど。するかもしれないけど。

強く見える人が、必ずしも強いということはない。私の周りにもどれほど恵まれているように見えても、心の中に常にじわじわと広がる不安を抱えている人がいる。「私、だいじょうぶ?」「私、うまくやれてる?」「私、部下になめられてない?」誤解を恐れずに言うと、男社会の中に生きる女性には、このタイプが驚くほど多い。

その才能を、その偉業を、その権威を、周囲がどれほど言葉を尽くして説いて聞かせても、彼女たちの心に巣食うモンスターは、彼女が自分自身に100%満足することを許さない。そういう人たちというのは、これほど完ぺきに近い形なのに、そこにほんの少しでも傷があると、そこだけをフォーカスして、いつまでも気に病んでいたりするのだ。そういうときに、全体が素晴らしいって言ったって、全然、なぐさめにならない。

成功している人が強い人だということは決してない。むしろ、成功している女性の半分以上はどこか脆い人という印象を受ける。周囲からすると、立場の下の相手に寛容を示せるように見えるときでも、本人からすると自分の心を守らなくてはいけない瞬間があるのだろう。

どういう生き方が生きやすく、どういう生き方が正しいかという答えはどこにもないけど、とにかく、私が決意したことは、必要がなければ今すぐSNSをやめちゃうこと。少なくとも、酔っぱらったらすべての回線をシャットダウン。年末年始、飲む機会が多いときは要注意。これだけですな。

関連書籍

山口真由『東大首席・ハーバード卒NY州弁護士が実践! 誰でもできる〈完全独学〉勉強術』(SBクリエイティブ刊)

桁違いの実績を実現したものこそ、「教科書を7回読む」という著者ならではの方法論。実際、塾に通ったり家庭教師についたりしたことは過去一度もなく、1冊の教科書にこだわり7回読み抜いてきたのです。そのシンプルにして合理的、かつ安上がりな独学法のすべてを惜しみなく公開。

関連キーワード

関連書籍

永田夏来/pha/藤沢数希/山口真由/酒井順子『「結婚・妊娠・出産」って最後の宗教みたい』

「子どもを持って初めて成長できる」。 印籠のようなこのセリフを否定するつもりはありませんが、でも、誰もが当たり前のように結婚して、子どもを産む時代は終わりに近づいているように思います。 それでも、非婚も子ナシもまだまだマイナーな選択なのでしょう。 王道のライフコースを選ぶ人生と選ばない人生。 そこにうずまく不安、安堵、諦念、自由……。 気鋭の学者、作家たちが、「結婚」と「出産」にまつわる社会の本音をあぶりだします。

{ この記事をシェアする }

コメント

幻冬舎plus  \昨日の人気連載3位/ 上沼恵美子さんの沈黙をふと考える年の暮れ<ハイスペック女子のため息>山口真由-幻冬舎plus https://t.co/F8QOqpnkBs 8日前 replyretweetfavorite

ハイスペック女子のため息

バックナンバー

山口真由

1983年、札幌市生まれ。東京大学法学部3年生時に司法試験、4年生時に国家公務員1種に合格。全科目「優」の成績で2006年に首席で卒業。財務官僚、弁護士を経て、ハーバード大学ロースクールに留学。2017年にニューヨーク州弁護士登録。 『エリートの仕事は「小手先の技術」でできている。』(KADOKAWA/中経出版)、『いいエリート、わるいエリート』(新潮社)、『ハーバードで喝采された日本の強み』(扶桑社)など著書多数。『東大首席弁護士が教える超速「7回読み」勉強法』(PHP研究所)の文庫版も出版された。 山口真由オフィシャルブログはこちら

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP