数多くの大手有名企業でマネジャー研修を担当するコーチングのプロ・播摩早苗氏。そんな播摩氏が描く話題のビジネス小説『宿屋再生にゃんこ』では、部下の心に眠る仕事への情熱を引き出す方法が楽しくわかります。ここでは春からの新リーダーに向けて1章・2章を特別無料公開! 毎日連載でお送りします。 

◆STORY◆倒産寸前の旅館に支配人として赴任した永理子。黒字化を達成しようと意気込むが、赴任初日から従業員と全面的に対立する。疲れ果てて寮のベッドでうとうとしていると、寮の居候猫が話しかけてきて……。

 

◆8◆

「う、嘘でしょ……」

 狭い部屋を見回した。私とオカミだけだ。オカミは、陶器の置物のように行儀よく前足を揃え、長い尻尾を体に巻いて座っている。

「オカミ、まさか……」

「だから、オカミじゃないねん。あたしの名前」

「なんで……」

「なんで猫がしゃべるんかって思ってるんやなぁ」

 私は、オカミの顔をまじまじと見た。

「だって、猫でしょう」

「厳密に言うとなぁ、あたしが言葉をしゃべっているわけやなく、あんたとあたしの周波数が合っちゃったゆうか……」

「はあっ!?」

「大きな声を出さへんの。他の人にはあたしの声は聞こえてへんのやから」

 私は、疲れているのだ。そうだ。夢かもしれない。リアルな夢だ。金縛りの一種かもしれない。

「金縛りとちゃうでぇ」

「えっ、思っていることも分かるの?」

「周波数が一致してるゆうとるやろ」

「オカミ……」

「だからぁ、オカミじゃないんやて。あたしの名前」

「何ていう名前?」

「あたしの名前は、ジェニファー」

「えっ。外国人?」

「そゆことや」

「なんで関西弁なの?」

「いろいろ事情があるねん。とにかく、ジェニファーって呼んでや」

 ジェニファーは、ガラス玉のように透明な目を光らせた。その輝きに見覚えがあった。

「あっ! 夢に出てきた、あのときの……」

 襲い掛かるゾンビの群れから私を救出してくれたあの金色に光る目だった。

「そんなことは知らん。予知夢でも見たんやないか」

 私は、夢と、現実と、話す猫に混乱した。

「永理子さん、これからほんまもんのゾンビにもみくちゃにされるでぇ」

 不意に切り込まれた。

「ど、どういうこと?」

「いろんなことが起こるゆうこっちゃ。優等生でやってこられたのはここまでや」

「なっ、何言ってるの?」

 ゴールドの目に催眠術を掛けられたように身動きできなくなった。

「いっぺん泥かぶったらええがな。自分を変えな、成功せえへん」

 ジェニファーの言葉が私を縛った。

「分かったら、もう今夜は寝よか。ハイ、お休み」

 ジェニファーは、ベッドに寝そべって眠ってしまった。

 

 

 

 

 2日目、出勤途中でしゃべる猫のことを思い返した。あれは夢だったのだろう。

 夢の猫は「優等生でやってこられたのはここまでや」と言っていた。実は、それはすごく怖い言葉だった。私の胸の奥にずっと重く存在していた予感で、しかしそこから目をそらしていたのだった。

「自分を変えな、成功せえへん」という話も妙に説得力をもって残っている。ここに来て、自分をどう変えたらいいのだ。私のなかで急に自信が萎み、心許なさが増幅した。

 ダメだ、ダメだ。行なうべき施策はきっちり計画してある。とにかく従業員に言うことを聞かせ、早く進めなければならない。私は鳥楓亭の前に来て、夢の猫のことを無理やり頭の隅に追いやった。

 昼過ぎに青島がやってきた。本部がつくった公式ホームページが完成したので、端末ソフトの使い方をスタッフに説明しに来たのだ。

「前から聞こうと思ってたんだけど、青島が私を推したの?」

 駐車場から事務所まで歩きながら訊ねた。

「まさか! 社長の独断だよ」

「本当?」

「実は、ちょっと前にも、甲斐さんに合うところないかなぁって……」

 私の赴任は、伊勢谷の判断のようだった。しかし私は、いまだにその意図を測りかねていた。

 

 

 


本日はここまで。明日の公開をお楽しみに!
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播摩早苗『ストーリーで学ぶ最強組織づくり 宿屋再生にゃんこ』

倒産寸前の旅館に支配人として赴任した永理子。黒字化を達成しようと意気込むが、やる気のないスタッフを前に空回りするばかり。そんなとき、一匹の猫が永理子に向かって語り始めた!  「舐められるぐらいのマネジャーがええんや」「あんたがアタマ使えば使うほど、みんなはもの考えなくなるでぇ」「マネジメントは『全部自分のせい』から始めるんや」  なぜかマネジメントに詳しい猫の教えで永理子は自分を変えていき……。ストーリーを追うことでチームマネジメントのポイント、旅館事業の裏側、地域活性化のヒントが楽しく学べる!

播摩早苗『えっ、ボクがやるんですか? 部下に教えたい、社会人のものの言い方100

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