「カバンに何が入ってるんですか?」

 とよく訊かれる。

 そして、

「いや、別に大して何も入ってないんですけど」

 と答えると、いつも怪訝な顔をされる。何も入ってないと言うにしては、僕のカバンはいつも大きく膨らんでいるからだ。

 別に嘘をついているわけではない。自分では特に大したものを何も入れていないつもりなのに、いつの間にか荷物が多くなってしまう。

 それは僕が考え過ぎで優柔不断のせいだ。外出をするときに、あれも要るかも、これも要るかも、などと考え出すと、どんどん持ち運ぶものが増えてくるのだ。

 退屈なときに暇を潰せるように文庫本を一冊くらい持っていこう。あ、この本がいまいち気分に合わない可能性もあるから、念のためもう一冊持っていこう。時間を無駄に過ごさず情報をインプットするためにはこういうのが大事なんだ。急に頭の中で何かを思いついて考えをまとめたくなるかもしれないから、ノートとペンと付箋も要るな。あとスマホの充電が切れたらすごく不安に襲われるから、充電器と予備のバッテリーも必須だ。これは現代人の生命線だろう。ノートパソコンもあったほうがいいかな……。多分使わないだろうけどあると安心するんだよな。急に長文書きたくなったりすることあるし。電車の中で気分を落ち着けるためにペットボトルの水とガムを持っていこう。小腹が空いてしまったときのために軽いお菓子もあると心強い。冬はカイロも常備しておきたい。できれば3個くらい。カイロ、コンビニで買うとちょっと高いんだよな。ひょっとしたらどこかで突然ちょっと仮眠したくなるかもしれないから、アイマスクと耳栓を持っていると安心感がある。たまに、いきなりサウナに行って仮眠室でごろごろしたくなるときあるしなあ。お気に入りのアイマスクはあまりそのへんで売ってないし。あと、胃もたれしたときとか気分が悪くなったときとか風邪気味になったときのために薬も何種類か常備しておかなくちゃ。気温の変化に対応できるように折りたためる上着も入れておくか。……というような感じだ。

 自分だって、そんな風に持ち運んでいるものの9割は実際に使わないだろうことはわかっている。わかっているんだけど、過去に「付箋が今とても必要なのに無い」「充電器がなくて死にそう」「なんで持ち歩いておかなかったんだ、俺は馬鹿だ」という悔しい経験をしたときの記憶が必要以上に脳に刻み込まれていて、その恐怖を避けたくて、何でもかんでも持ち歩きたくなってしまうのだ。

 だから、とても少ない荷物で外出している人を見ると、それだけでとても尊敬してしまう。なんという決断力の人なんだ。彼/彼女はきっと、外出においてあれが起こるかもこれが起こるかもなんて小さいことを気に病まずに、起こった状況をあるがままに受け入れられる強い精神の持ち主なのだ。

 自分がいろいろ物を持ち歩いてしまうのは、多分外出そのものと向き合っていないからだ。外出というのは、既知のものしか存在しない自分の部屋を飛び出して、未知の何かと出会うための行為だ。予想外のイベントがランダムに起こる外界で、そのイベントの波をアドリブで乗りこなしていくというアトラクションだ。だけど自分は未知のことが次々に起こるのが怖くて、既知のものをたくさん持ち運ぶことで身を守ろうとしてしまう。自分の人生はいつもそうだ。何が起こるかわからない生の現実に身を投げ出すのを恐れて、頭の中で余計なことを考え過ぎて、大事な瞬間から逃げてばかりいる。だから自分はだめなのだ。荷物のことを考えると、そんな風に自分の今までの生き方まで否定してしまいそうになる。

 結局これからもずっと自分は常に大きなカバンにたくさんの物を持ち運び続け、その優柔不断の代償として、大きなカバンを背負うことによる肩こりという痛みを感じ続けるのだろう。そんな性分は治りそうにない。

 

 旅行のときはさらに荷物が増える。

「友達の家に2泊するくらいでその荷物は多くない?」

 などとよく言われる。でも、寝泊まりするとなると、いつも着ている寝間着で寝たいし、お気に入りのタオルがあったほうが安心するし、冬は電気毛布で足を温めたいし、もし予定が変わって布団のないところで寝泊まりすることになっても大丈夫なように寝袋も持っていきたいし、などと考えてしまって、どんどん荷物が増大していく。旅行中でも、自分のお気に入りの物を集めた自分の「巣」を部屋の中に構築しないと不安になってしまうからだと思う。

 だけど「意外と荷物が少ないですね」と、逆のことを言われたこともある。

 それは3週間ほど旅行をしていたときのことだ。3週間の旅行にしては自分の荷物は少ないらしい。へえ、そうなのか。

 多分僕は、2泊の旅行のときの荷物と、3週間の旅行のときの荷物があまり変わらないのだ。2泊だから適当でいいや、と思えなくて、自分にとって完璧な居心地を追求してしまう。だからそのまま3週間の滞在にも対応できる。

 荷物が他の人に比べて少ないのだとしたら、基本的には僕は少ない持ち物で生活するタイプの人間だからだろう。旅だからと言って普段と生活パターンを変えたくなくて、ちょっと違う場所で普通と同じように生活したい、と思っているせいかもしれない。

 そうなってみると、他の人は3週間の旅行のときに一体どんなものを持ち歩くのだろうか、ということが気になる。旅の荷物というのは、その人が生きる上で何を本当に必要としているかが如実に現れるものだと思う。いろんな人の旅の荷物を見てみたい。

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pha『ひきこもらない』

家を出て街に遊ぶ。
お金と仕事と家族がなくても、人生は続く。
東京のすみっこに猫2匹と住まう京大卒、元ニートの生き方。

世間で普通とされる暮らし方にうまく嵌まれない。
例えば会社に勤めること、家族を持つこと、近所、親戚付き合いをこなすこと。同じ家に何年も住み続けること。メールや郵便を溜めこまずに処理すること。特定のパートナーと何年も関係を続けること。
睡眠薬なしで毎晩同じ時間に眠って毎朝同じ時間に起きること。
だから既存の生き方や暮らし方は参考にならない。誰も知らない新しいやり方を探さないといけない。自分がその時いる場所によって考えることは変わるから、もっといろんな場所に行っていろんなものを見ないといけない。