お世話になっている人の誕生会に出席するために、慣れない六本木の街へ地下鉄で向かう。六本木駅に到着。改札を出て、地上へつながる4A階段を目指す。六本木の街は常に、訪れたそいつがこの街にふさわしいかどうか、ジャッジを突きつける。お前は歓迎しよう。お前は立ち去れ。そんなふうに。僕は後者、この街にとって部外者でしかない。僕はそんな六本木に反抗するような気持ちで、背筋を伸ばし、視線は鋭く、4A階段を探す。見つけた。狭い階段だ。昇り降りのラインを間違えてはいけない。「↓下り」と書かれたサインをしっかり確認し、そのラインを真っすぐ上がっていく。すると目の前から、いかにも「オレ昔不良やってまして今アパレルの社会人っすけどまだ全然キレッキレっすよ」的なツーブロック×チョビひげシャレオツ長身男が、僕と同じラインで下りてくるのが見える。いやおかしいだろ。絶対どかねえ。あいつ超こえーけど絶対どかねえ。僕は自分のラインを変えずまっすぐ階段を上り続ける。やつも一切ラインを変える気配を見せずに、まっすぐ下りてくる。結果、そのライン上で僕とその男は額と額が触れるぐらいの近距離で向かい合うことになった。僕は一切のひるみを見せないようにして、挑発的なトーンでこう言う。
「いやこのライン、下りっすよ(なんで俺「っす」なんて敬語使っちゃったんだろう、ビビりすぎ、超後悔してる)」
 やつは言う。
「ああ、下りだろ」

 ん??????????

 あっ!!!!!!!!!

「ごめんっ!」
 僕は卑屈な笑みを浮かべ、でも舐められたくない一心で敬語は必死で使わないように敢えての「ごめんなさい」じゃなく「ごめん」という言葉を選んで、つまりクッソ醜態をさらして、ラインを譲った。その男は僕に見向きもせず、ゆっくり階段を下りていった。

 六本木が苦手というか、そこで自分の軸を見失う自分が嫌いだ。

 誕生会はすこぶる楽しかった。アホほど泥酔した。うん、やっぱ街と人とは関係ない。どこにいようが、僕が好きな人は僕が好きな人のまんまだし、どこにいても、僕はダサいままだ。

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