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本屋の時間

2018.03.01 公開 ツイート

第33回

文庫本はどう並べるのが正しいか 辻山良雄

Titleの文庫棚

 先日登壇したイベントで、『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)が話題になっている、バッタ博士こと前野ウルド浩太郎さんが、何故だか客席に座っていました。そのとき前野さんは、テーマで括られた書店の本棚を見て「様々な大きさの本が並んでいて格好良い」と話したのですが、確かに文庫本を〈判型〉ではなく、〈内容〉を基準にして並べていくと、一つの棚のなかに単行本と文庫本が混じりあう、見た目に動きのある並びが出来上がります。

 

 従来、文庫や新書といった、出版社が刊行する小型の本は、そのレーベルごとに並べられてきました。最近では文庫本を、コーナーのなかで、レーベルではなく著者別の50音順で並べる書店が増えてきましたが、Titleでは殆どの文庫本は従来通り判型ごと、出版社のレーベルごとに並べています。それは、(1)お客さんにとってそのほうが馴染みがある、(2)文庫本のレーベルにはそれぞれの特徴があり、まとまっていたほうがそのカラーが伝わりやすい、(3)文庫本を著者ごとに並べた時、どうしても目立たなくなってしまう著者が出てしまう(ノンフィクション系の本など、その内容は興味深くても著者名で切り取られた場合、有名な作家に埋もれてしまうことが多い)などの理由があるからです。

自然科学の棚。単行本と新書、文庫が同じテーマで並ぶ

 しかしその本の内容によっては、文庫本の置き場ではない場所のほうが、売れる場合もあります。一冊でテーマが完結しており、「こんな本があったのか」と意外性を感じさせる本が、そうした並べかたに適しているようです。例えば、日本に存在する様々な雨に関することばを集めた『雨のことば辞典』(講談社学術文庫)は、Titleでは自然科学の単行本に混ぜて並べています。開店以来、月に2~3冊は売れているロングセラーですが、恐らく講談社学術文庫の棚に並べていてもここまでは売れなかったでしょう(背表紙が地味ですし……)。そのような文庫本を、それぞれのレーベルから抜き出し、目のつくように置き場所を変えて売り上げを伸ばすことに、書籍販売の面白さがあります。本も一冊一冊に「光って見える場所」があるのです。

 

今回のおすすめ本

著:福島あずさ 絵:nakaban『窓から見える世界の風』(創元社)

 気象学が専門の福島あずささんが、世界のその地方にしか存在しない「局地風」について文章を、画家のnakabanさんがその局地風の在り処を想像して絵を描いた、世にも珍しい風の絵本。風は目には見えないが、その土地と密接に結びつき、その場所に関して雄弁に語っている。

 

◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBSHOPでもどうぞ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

辻山良雄さんの著書『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』のために、写真家・齋藤陽道さんが三日間にわたり撮り下ろした“荻窪写真”。本書に掲載しきれなかった未収録作品510枚が今回、待望の写真集になりました。

 

○2024年4月12日(金)~ 2024年5月6日(月)Title2階ギャラリー

『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』小林エリカ原画展

科学者、詩人、活動家、作家、スパイ、彫刻家etc.「歴史上」おおく不当に不遇であった彼女たちの横顔(プロフィール)を拾い上げ、未来へとつないでいく、やさしくたけだけしい闘いの記録、『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』が筑摩書房より刊行されました。同書の刊行を記念して、原画展を開催。本に描かれましたたリーゼ・マイトナー、長谷川テル、ミレヴァ・マリッチ、ラジウム・ガールズ、エミリー・デイヴィソンの葬列を組む女たちの肖像画をはじめ、エミリー・ディキンスンの庭の植物ドローイングなど、原画を展示・販売いたします。
 

 

【書評】New!!

『涙にも国籍はあるのでしょうか―津波で亡くなった外国人をたどって―』(新潮社)[評]辻山良雄
ーー震災で3人の子供を失い、絶望した男性の心を救った米国人女性の遺志 津波で亡くなった外国人と日本人の絆を取材した一冊
 

【お知らせ】New!!

「読むことと〈わたし〉」マイスキュー 

店主・辻山の新連載が新たにスタート!! 本、そして読書という行為を通して自分を問い直す──いくつになっても自分をアップデートしていける手段としての「読書」を掘り下げる企画です。三ヶ月に1回更新。
 

NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。

毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。4月16日(日)から待望のスタート。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
 

黒鳥社の本屋探訪シリーズ <第7回>
柴崎友香さんと荻窪の本屋Titleへ
おしゃべり編  / お買いもの編
 

◯【店主・辻山による<日本の「地の塩」を巡る旅>書籍化決定!!】

スタジオジブリの小冊子『熱風』2024年3月号

『熱風』(毎月10日頃発売)にてスタートした「日本の「地の塩」をめぐる旅」が無事終了。Title店主・辻山が日本各地の本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方をインタビューした旅の記録が、5月末頃の予定で単行本化されます。発売までどうぞお楽しみに。

関連書籍

辻山良雄『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』

まともに思えることだけやればいい。 荻窪の書店店主が考えた、よく働き、よく生きること。 「一冊ずつ手がかけられた書棚には光が宿る。 それは本に託した、われわれ自身の小さな声だ――」 本を媒介とし、私たちがよりよい世界に向かうには、その可能性とは。 効率、拡大、利便性……いまだ高速回転し続ける世界へ響く抵抗宣言エッセイ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

新刊書店Titleのある東京荻窪。「ある日のTitleまわりをイメージしながら撮影していただくといいかもしれません」。店主辻山のひと言から『小さな声、光る棚』のために撮影された510枚。齋藤陽道が見た街の息づかい、光、時間のすべてが体感できる電子写真集。

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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

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辻山良雄

Title店主。神戸生まれ。書店勤務ののち独立し、2016年1月荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店 「Title」を開く。書評やブックセレクションの仕事も行う。著作に『本屋、はじめました』(苦楽堂・ちくま文庫)、『365日のほん』(河出書房新社)、『小さな声、光る棚』(幻冬舎)、画家のnakabanとの共著に『ことばの生まれる景色』(ナナロク社)がある。

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