思想家・吉本隆明氏の家に集う猫と人の、しなやかでしたたかな交流を綴った『それでも猫はでかけていく』より、試し読みをお届けします。

 血尿も止まり、尿の状態も安定しているシロミ。では尿モレも改善したのかというと、そんなことはありません。

 しっかりとモレるんです!

 ただメリハリがついてきたというか、食べたり遊んだりと、ある程度身体(神経)に緊張がある時には、ポタポタとモレることは少なくなり、ダラーッと弛緩して寝ている時などに、ジョワーッと一気にモラすようになりました。また、ダランと垂れ下がっただけだった尻尾も、感情を表す時など先端が少しだけパタパタと上下するようになり、伸びをする時にはほぼ垂直まで上がるようになりました。これは多少なりとも、神経そのものが回復してきたことを示しています。

 しかし先日避妊手術のついでに、D動物病院長がシロミのお腹の中を調べたところ、膀胱は萎縮して伸縮性を失ったイチジクみたいで、さらに腸も何ヶ所か腹腔の内壁に癒着していたそうです。やっぱりシロミは、一生涯障害と付き合っていかねばならないようです。

 やっかいなのは排便も同じで、ベッドに1コロ廊下に1コロと、1ヶずつトコロテン式に押し出されてくるだけなので、常に便秘気味。便が詰まってくると、その固まりが尿道を圧迫して尿も詰まり気味。おしっこが一度に大量に排泄できないと、膀胱から溢れた分だけ常にタラタラとタレ流しになります。人間は廊下のモレだまりを踏んだり、落ちているウンコを蹴とばしたりと、スリリングな日常を味わうハメになります。

 しかし体調さえ保っていれば、シロミが寝場所に決めている所にトイレシートを敷き、それだけではイヤがって寝てくれないので、その上に洗えるタオルやマットを敷いておけば良いわけで、飼う側にとってはかなり楽になりました。

 思えばシロミがやって来た当初は絶望的でした。運動機能はほぼ正常なので、チョコマカと元気に走り回り家中どこでもポタポタモラしまくる。おまけにおしっこは異常に臭い(膀胱内で細菌が増殖するため)! 「院長は普通の猫の5倍はたいへんと言ったけど、こりゃ20倍じゃないか!!」と思っていましたが、シロミも早2才。オトナの落ち着きも出て身体も丈夫になり、多少は改善も見られるし、飼う側としてもすっかり慣れて、シロミの行動パターンが読めるようになったし、双方歩み寄って、確かに現在では5倍というあたりに、落ち着いているようです。

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ハルノ宵子『それでも猫は出かけていく』

いつでも猫が自由に出入りできるよう開放され、家猫、外猫、通りがかりの猫など、常時十数匹が出入りする吉本家。思想家の父・隆明が溺愛したフランシス子、脊髄損傷の捨て猫シロミ、傍若無人のチンピラ猫トリオ……。吉本家に集う猫と人の、しなやかでしたたかな交流から見えてくる「生きる」の意味。ハードボイルドで笑って沁みる、猫エッセイ。