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 この「本屋の時間」の連載を含め、書籍になるものや単発の依頼など、原稿はすべてパソコンで書いています。家と店のパソコンを使い書くことが多いので、いつも最新のデータをUSBメモリに入れて持ち歩いていたのですが、ある時そのUSBメモリが全く反応しなくなりました。しかも悪いことに、そんな時に限ってデータをパソコンに保存しておらず(面倒ですよね?)、USBメモリのなかには完成した原稿が二つほど入っていました。

 反応しなくなったUSBメモリを前にしてみると、原稿を書くのに費やした時間など様々なことが思い出され、目の前が文字通り真っ白になりました。「えーっと、このような時はどうするのでしょうか……」とぶつぶつ言いながらも、うつろに〈USBメモリ〉〈データ〉〈復旧〉と検索します。すると、同じような経験をしている人が多いのか、アクセス出来なくなったデータ復旧を専門にしている会社が、幾つか見つかりました。ウェブサイトを見比べながら、そのなかの一つにUSBメモリを送り、データ復旧の見積もりを依頼したところ、「貴社のUSBメモリには〈重度の物理障害〉が発生しており、復旧が成功した場合、かなりの金額が費用としてかかります」との返答がすぐに返ってきました。

 見積もられたその金額は、近場の海外旅行なら行けそうな、聞くだけでも少しひるむものでしたが、失われた原稿のことを考えると金額の問題でもないと思い直しました。何度も手を入れ一度は完成したと決めたものは、その出来はどうあれその時の自分の「ほんとう」です。時間をかければ同じ長さのものはまた書けるかもしれませんが、そのとき一度「ほんとう」であったものは、もはやそうではなくなってしまいます。それでは自分が書いたものに対して、あまりにも無責任ではないかと思いました。

 その後のやり取りで、一旦失われた原稿は無事に取り戻すことが出来ました。高い授業料でしたが、書くものに対する認識を新たにした経験でもありました。もちろん、「それは単にあなたのデータ管理が出来ていないというだけの話ですよね」と言われそうなことは、わかっているのですが……。

 

今回のおすすめ本

望月昭秀(縄文ZINE編集長)『縄文人に相談だ』(国書刊行会)

 悩める現代人に、縄文人がスッパリと答えを出す。紀元前の遠い目から見れば、いまの悩みなんて、笑ってすませることが出来るかもしれない。この時代には、縄文のスピリットが必要だ。

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お知らせ

 

◯2018年2月24日(土)〜3月11日(日)12:00 〜 21:00  Title2階ギャラリー

ほんの風景

書籍や雑誌等でイラストレーターとしても活動する花松あゆみの版画展。暮らしのなかに本があることで現れる小さな風景を描く。手製本やポストカードも並びます。

 


◯2018年3月13日(火)〜3月19日(月)12:00 〜 21:00  Title2階ギャラリー

ぬまのう まき個展 ねどこさがし

さみしさとぬくもりを感じる絵本原画展。新作絵本「ねどこさがし」と、絵本のイラストがパッケージされた紅茶も販売。

 


『365日のほん』辻山良雄(河出書房新社)

春、夏、秋、冬……過ぎゆく毎日に1冊の本を。Titleの店主が紹介する、スタンダードな本365冊。どこでも、どこからでも楽しめる、完全書きおろし。

 

 


『本屋、はじめました―新刊書店Title開業の記録』辻山良雄(苦楽堂)

<5刷!ロングセラー>
「自分の店」をはじめるときに、大切なことはなんだろう? 物件探し、店舗デザイン、カフェのメニュー、イベント、ウェブ、そして「棚づくり」の実際。事業計画書から、開店後の結果まですべて掲載。堀部篤史さん(誠光社店主)との特別対談を収録。