◆STORY◆肥大化し身動き不能となった巨大企業「T社」。社内調整専門部署「四七ソ」の香田と奥野に今日も新たな社内調整指令がくだる。オフィスの中のクソ野郎どもを、スタイリッシュかつアッパーに撃ち殺せ! テイルゲート! ショルダーサーフ! 禁断のオフィスハック技の数々を正義のために行使せよ!
 

◆3◆

 

 十分が経過。六三フィンのメインオフィスには真っ赤なヨガバランスボールが散乱し、既に調整された社員が数十人転がっていた。

 その真ん中で、おれは事業部長を拘束し、両膝をつかせている。事業部長はロシアンマフィアみたいな巨漢で、腕は太く、頭は禿げ上がっている。

 調整用拳銃をその後頭部に押し当て、おれは促す。

「さあ」

「まッ、まッ、待ちたまえ! 何故私がこんな目にあわなけりゃいけないんだ?」

 事業部長の首には白いナプキン。口の周りにはミートソースがついている。

「六三フィン事業部の存在は社内倫理第4条に反するという、物的、電子的証拠が揃った」

「ふッ、不当だ! まったく不当な社内調整だ! 私の部署はちゃんと利益を上げているじゃないか!」

「利益は利益でも、不正な利益でしょう」

「不正だと? 何をもって……」

「計画倒産を視野に入れながら、独居老人などを狙って資金調達を行っていただろう。だがその本質は、そもそもブロックチェーン暗号通貨ですらなく、ネズミ講まがいの詐欺モデル……」

「ま、待て! よく見てくれ! 我々はどこにも暗号通貨だなんて明記していないんだ! 間違って投資するほうに責任があるとは言えないか!?」

「意図的に間違いやすく仕向けるのは、よけいタチが悪いでしょう」

「知らない! 私は知らない! 何かあったとしても故意じゃない!」

 既におれの銃の撃鉄は起こされている。おれがトリガを引けば調整は終わる。

 でも社内コンプライアンス的に、手順は全て踏まなくちゃいけない。

 インカム内蔵型のカメラ越しに、鉄輪も全てをモニタリング中だ。

「いえ、故意です。物的証拠は、これです」

 奥野さんが、セロハンテープ復元したシュレッダー文書12枚の束を突きつけた。六三フィン事業部は判断力薄弱な独居老人の資産を狙い、セミナーや悪質なWebサービスを展開。まっとうな商売をしていたT社内の他部門の利益を圧迫。この非道行為によって他を蹴落とし、T社内での生存競争を勝ち抜こうとしていたのだ。だがこの非道行為が明るみに出れば、T社グループ全体のフィンテック事業部がその信用に壊滅的打撃を受けるだろう。

「復元したのは、クレームの握りつぶし、および検索エンジンからの削除を指示するあんたの業務命令だ。反論の余地はないぞ」

「ラーララーラー!」

 事業部長は追い詰められ、歌い出した。ちょっとまずい。だが服務規則により、このプロトコルは全て踏まないといけない。

「抵抗すればこの場で調整する。抵抗をやめ、第一人事部の寛大な措置にその身を委ねろ」

 おれは告げた。ほぼ無意味だとわかってはいるが。

「お前たち、いい加減にしろよ、何が人事部だ、ふざけるなよ……!」

 事業部長は今度は泣き出した。

「もうじき第一人事部のインタビュアーが来る。愚痴はそいつに言ってくれ」

「頼む、見逃してくれ。それだけは嫌だ」

「見逃せ? バカ言うなよ」

「い……いくら欲しいんだ」

 事業部長はゴクリと唾を飲んだ。

「どういう意味だ?」

 おれは溜息をつきながら聞いた。一瞬、奥野さんと目が合った。おれ達は渋い顔で首を横に振った。

「どういう意味だって? 私を逃がしてくれたら、カネを払う。ハハハ、もうこの際、言い値でいい。君たちの口座を教えてくれ。今すぐ、今すぐ、いくらでもスマホで払うから……」

「老人からふんだくったお金を、受け取りたがる人がいると思いますか?」

 奥野さんが言った。

「クソッ! クソーッ!」事業部長は目を血走らせ、吠えた。「正論吐いて、さぞかし良い気分だろうな!? カネに綺麗も汚いもあるものか! 死にぞこないどもからカネを毟り取って何が悪い!? この国の死蔵資産のほとんどは、あいつらが握ってるんだぞ!? むしろ慈善事業だ! やらんと国が沈むぞ!」

「いやいや……無茶苦茶言うなあ」さすがにおれもその無茶な理論武装には引いた。「売り上げよりもわきまえるべき常識ってものがあるでしょ」

「そんなものは、知るか! おまえたちだって知ってるはずだ! この国じゃあなァ、社会のルールより会社のルールのほうが上なんだよ! 稼いだ者の勝ちなんだ! この国はずっとそれで回ってきた! それを今更!」

「良く解ってるじゃないか。会社の掟は絶対だよ」とおれは舌打ちした。「だから、おれたちみたいな部署があるんだろうな」

「ふざけるな! 私の部署が行っていたのは正義だ! 私はT社の売上のために尽くしていたんだ! それを、それを……おのれ、何が第一人事部だーッ!」

 事業部長が逆上し、胸元の3Dプリント拳銃を引き抜こうとした。

 BLAM!

 おれが機先を制した。銃弾は事業部長の後頭部を撃ち抜いていた。事業部長は白目を向き、前のめりに倒れて、動かなくなった。

「フゥーッ」

 おれは銃を収め、額の汗をぬぐった。

「おつかれさまでした」

「おつかれさまでした。どうでしたか?」

 奥野さんに微笑みかける。奥野さんは拳銃をホルスターに収め、肩を回しながらはにかんだ。

「さすがに今週はちょっと、調整多くて、こたえましたね。もう若くないんで」

「いやいやいや、全然若いですよ」

 おれは時計を見ながら、鉄輪(かなわ)に調整終了の報を入れた。

「片付いたぞ」

『二人とも、おつかれさま。第一人事部の事務部隊が到着するまで、あと10分ほどかかるみたいから、一応よろしくね。別に引き継ぎ義務はないんだけど』

 体裁だけでも、ここに留まらなくちゃいけないって事だ。この会社には体裁ごとが多すぎるんだ。

「ちょっと休憩しましょう、奥野さん」

「そうですね」

「非常口で、風でも浴びません?」

「いいですね。香田さん、煙草はやりましたっけ?」

「たまにはいいかな。一本、いただけます?」

「どうぞ。マルボロですけど」

「御馳走様です。ここ禁煙ですし、非常口で」

「ええ」

 おれたちは非常階段に出た。青みがかった灰色の、東京の街並みが一望できた。今日も何事もない。

 

 

◆to be continued......感想は #dhtls でつぶやこう◆

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