◆STORY◆肥大化し身動き不能となった巨大企業「T社」。社内調整専門部署「四七ソ」の香田と奥野に今日も新たな社内調整指令がくだる。オフィスの中のクソ野郎どもを、スタイリッシュかつアッパーに撃ち殺せ! テイルゲート! ショルダーサーフ! 禁断のオフィスハック技の数々を正義のために行使せよ!


◆2◆ 

 

 おれと奥野さんは何食わぬ顔でエスカレータを登る。口笛を吹きながら、無精髭サンダル履きのロン毛社員が上から降りてきた。

 おれたちは何食わぬ顔ですれ違う。

 ロン毛の視線は手元のスマホに釘付け。垣間見えたのは好調な日経平均のチャート。

「ん?」

 おれ達とすれ違ったことに、ようやくロン毛が気づいた。そしてエントランスホールで調整済みの受付嬢にも。

「エッ、これ……!」

 ロン毛は大慌てで、スラックスの後ろから違法3Dプリント拳銃を抜いた。

 BLAM!

 おれの銃弾は何の感慨もなくそいつを調整した。

「銃声、聞こえたと思います? サプレッサー、一応つけましたけど」

「聞こえたと思いますね」

 と、奥野さん。そうだよな……。

「じゃあ、もういいですね」

 おれはサプレッサーを取り外し、臨戦態勢を取った。

 エスカレーターを上がりきる。長い廊下だ。既に突き当りのところには十名近い社員が集まり、おれたちを待ち構えていた。

「き、来たぞーッ!」「四七ソだ! 人事部の犬!」「ちくしょう、ブッ殺せ!」

 慌てて拳銃を構え始めたところを見ると、踏み込まれると思っていなかったのだろう。距離二十メートル。後ろはエスカレータ。敵の場所までたどり着くまで、廊下には逃げ場も避難所もない。

 中間地点に無料自販機が一個あるが、大した遮蔽物にはなってくれない。

「奥野さん」

「はい」

「ここは、ファランクスでいきます」

 おれは中腰姿勢で防弾ブリーフケースを開き、盾のように構え、防弾面積を増やした。

「了解です」

 ほぼ同時に、奥野さんも防弾ブリーフケースを開いた。

 BLAMBLAMBLAMBLAM!

 廊下の向こう側から、敵の銃弾が飛んできた。横殴りの雨みたいに強烈だ。おれと奥野さんは肩をぴたりと寄せ合い、密集陣形を取った。

 右利きのおれが防弾ブリーフケースを左手。左利きの奥野さんはその逆だ。防弾ブリーフケースで銃弾をしのぎながら、おれたちは前進する。台風の中、傘一本で帰宅する二人組みたいに。

「「……全員、業務活動を直ちに停止せよ! 我々は四七ソだ! 六三フィンの存在は社内倫理第4条に反するという、物的、電子的証拠が揃った!」」

 前進を続けながら、社内調整最終フェイズのマニュアル通り、おれと奥野さんは宣告を行った。

 銃弾がものすごい勢いで飛んでくる。防弾ブリーフケースに跳弾し、壁や天井に突き刺さる。

 右手の壁には「上場前にお得に買おう!」「お年寄りコイン!」「1年で128倍見込み!」などの刺激的なポスターが隙間なく貼られてる。黄金の稲妻が走り、フォントはまるでおれの家の近くのパチンコ屋のポスターだ。

「「これより直ちに社内調整を開始する! 抵抗する者は全員この場で容赦なく調整する! これは最終調整だ! 繰り返す! これは最終調整だ!」」

「人事部の言葉なんざ信じられるかーッ!」「殺せ殺せ殺せ殺せ!」「当たってねえ! ちゃんと狙ってんのか!? 気合入れろ!」

 お決まりの反応だ。まあ聞いちゃくれないよな。

 おれたちは空いた手で、拳銃のトリガを引いた。

 BLAM! BLAM! BLAM!

「アッ」「う」「ッ」

 敵社員はどんどん調整され、飛んでくる弾の数も減っていく。

「や、ヤッバ……!」

 昔のファイナルファンタジーみたいな髪型でシャツの襟をスーツの外に出したイケメン社員が戦意喪失し、背を向けて逃げ出した。

「オイ馬鹿野郎!」「逃げんじゃねえよ!」「殺すぞ!」

 敵は罵り合いを始め、総崩れを起こす。おれたちは淡々と調整を続ける。

 BLAM! BLAM! BLAM!

「ヤバイってェ! 早く、早く! 早く認証!」

 イケメン野郎は首からブラ下げたセキュリティカードを、認証装置にバンバン叩きつけて叫んでいた。

 ピピッ、と音が鳴り、セキュリティエリアに転がり込む。

「ヤバイっすよ! 四七ソ、あいつら、たった二人なのに!」

 イケメン野郎が広いオフィスで待機している仲間たちに報告する。まいったな、五十人はいるぞ。

「おい、そいつ」

 仲間の一人、ソードオフショットガンを持った強面が、イケメン野郎を指差した。正確には、今まさにその影から歩みだしたおれだ。今この瞬間まで、おれの姿はイケメン野郎にもショットガン野郎にも見えていなかった。

 これがおれのオフィスハック能力、テイルゲートだ。注意力散漫なやつの背後について、七秒間だけ気配を消せる。

「ヒッ?」

 イケメン野郎が振り返り、声を上ずらせた。

「ちッくしょ……!」

 強面がショットガンを構えた。イケメン野郎ごとミンチにするつもりだろう。

 BLAM!

「アーッ!」

 残念ながら、おれが引き金を引くのが早い。おれは強面ショットガン野郎を調整すると、廊下の奥野さんを招き入れるために壁のボタンを叩いた。

 本格的な社内調整といこう。

 おれたちは四七ソ。「第四IT事業部第七ソリューション課」の略称。T社のヴァチカンたる第一人事部の直属として、社内正義を執行している。

「社内調整」とは、T社巨大社屋内に存在するグループ企業がオイタをした時、潜入を行い、銃弾とオフィスハック能力によって問題を解決する作業だ。

 物騒だろ? 物騒だ。だから嫌われてる。



◆To be continued......感想は #dhtls でつぶやこう◆

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