裁判経験豊富な弁護士が、世間で「トンデモ判決」と言われる48の裁判を読み解き、痛快にジャッジする『裁判官・非常識な判決48選』より、介護のあり方を考えさせられるお話をご紹介します。

※写真はイメージです。(iStock/kazoka30)

●訴えの内容

 91歳で認知症を患っていた男性が、徘徊行動により自宅を出て電車線路内に立ち入り列車にはねられ死亡した。認知症の男性を介護していた当時85歳の妻、別居していた男性の長男ら子供たちは、男性を監督して事故を発生させないようにする義務を怠った。したがって、約720万円の損害賠償金を支払え

●判決

 短時間居眠りをした妻には、男性の監督を怠った責任がある。また、別居していた長男にも事実上の監督者として責任がある。よって鉄道会社の被った損害全額を支払う義務がある

(名古屋地方裁判所平成25年8月9日判決)

認知症患者やその家族に「自由」はあるのか

 本事案は、判決直後ネットやSNSなどで話題となり、あまりにも遺族に対して酷すぎる判決では? と様々な議論を呼んでいます。

 本件は、平成19年12月7日、認知症を発症し独力では日常生活を送ることができない状態にあった男性が、認知症が原因とされる徘徊行為により電車の駅構内に入り込み、駅を通過しようとした列車に衝突した死亡事故です。

 この事故で、原告である鉄道会社は、振替輸送にかかった費用など合計約720万円を被告に請求しています。当然、事故を起こした男性は死亡しており、請求はその男性の妻と子供たちに対して行われました。

 事故の当時、男性の身の回りの世話をしていたのは男性の妻です。妻が介護のさなか、5~6分程度居眠りをしてしまい、その間に男性は家を出てしまったのです。

 判決では、男性の妻には男性のことを監督して徘徊などして事故を起こさないようにする義務があったのに、それを怠ったとして責任が認められました。

 また、男性の長男についても、男性の介護について方針などを決定しうる立場であったことを前提に監督責任を怠ったとして責任が認められました。

高齢化社会における問題が浮き彫りに

 この判決については、「裁判所は、認知症患者の行動がとても予想できるものではない、ということを理解していない」「85歳という高齢で、自身も要介護1の認定を受けていた妻に監督責任を認めるのはおかしい」「同居しておらず、事故当時も男性と一緒にいなかった長男に責任を負わせるのは酷い」などという批判があります。

 中には、「裁判所の判断を前提にすれば、認知症患者の家族は本人を縄で縛っておかなければいけなくなる」などというものもあります。

 確かに、損害を受けた鉄道会社の言い分もわからないこともありません。しかし、いくら認知症の患者であるとはいえ、その介護をする家族などが「徘徊して電車に衝突して鉄道会社に損害を負わせる」ということまで予想できるものでしょうか?

 そこまで予想して対応策を立てなければいけないとなると、現実的に対応は不可能な気がします。

 また、当時別居していた長男にまでその責任を負わせるのは酷な話です。それが認められてしまえば、地方の実家に高齢の親を残して都心で働いている人は、いつ責任を負わされるか怖くておちおち仕事もしていられません。

 これからの超高齢化社会においては、このような事故や事件は多発することが考えられます。こういった事故について、介護する人やその家族だけに責任を負わせてよいものかどうか、社会的に議論が必要になってくると思います。

 なお、この判決は高裁では、長男には責任がないとし、賠償金額を半分に減額したものの、一審と同じく妻に責任を認めていました。

 しかし、最高裁は、長男だけではなく妻にも責任がないとして、鉄道会社の請求を棄却しました。認知症患者に対する家族介護の難しさに配慮したと思われます。今後の認知症患者に対する家族の監督責任のあり方に、大きな影響を与える判決となるでしょう。

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