2018年に入り、東京は雪に翻弄されています。ちょっと積もるだけで交通機関は混乱し、すべったころんだと大騒ぎ。
 2月初日の夜も雪。また積もるというので、せっかくだから雪の山に登ってみようかと思い立ちました。
 同行者は、山と猫と買い物に並々ならぬ情熱を注ぐ友人、通称カッパ。その情熱のおかげで、アイゼンとゲイターを2セットずつ持っているというので、それを拝借して、いざ。

 雪の高尾山。山頂の積雪は30cmとの情報です。
 2月3日、朝7時、高尾山口駅。レインパンツを履き、靴に雪が入るのを防ぐゲイターを装着します。
 今回のルートは、ふもとから山頂までを登る、いちばんハードな「稲荷山コース」。ハードといっても、標高は599mですので、あしからず。
 登り出しから、早くも積雪。前に積もった雪も残っているようで、つるつるしています。そこで初めて、アイゼンなるものを装着。金属のトゲで雪や氷をがしっとつかんでくれる道具です。
 ぐさっ、ぐさっと、凍った雪につきささる。なんたる安心、安定感。
 南側の日当たりの良いコースなので、はじめは土がぐしゅぐしゅしている部分もありましたが、徐々に雪道になってきました。

 エッチラオッチラ歩いていると、下からにぎやかな声。
 大学生と思われる男女の集団が、きゃっきゃとはしゃぎながら私たちを追い抜いていきました。カジュアルめのふつうの格好に、ニューバランスやナイキのスニーカー。
 えっ、その格好で山頂まで? 積雪無視?

 幸か不幸か快晴の日和。
 木の枝に積もる雪が、サラサラ、キラキラと舞いおりて「きれい~」なんて浮かれていたのは最初だけ。
 歩いていると、予告もなく、頭上から雪がザッサー! と落ちてきます。レインジャケットも着て、防水の帽子もかぶり、全身をガード。

 標高があがるにつれて気温も低く、雪深くなってきました。
 一歩一歩、アイゼンで踏みしめながら、さっきの若者たちを思います。このルートは、山頂までほぼ1本道。
 つるっところんだり、スニーカーに雪が入ったり、ザッサー! と落ちてきた雪によって全身びしょぬれになったりしているはず。
 大丈夫なのだろうか。
 大丈夫なのだろう。
 だって。
 ころんでも反射神経の良さから受け身がとれるので、たいしたケガにならない。ケガをしてもすぐ治る。体力があるから風邪をひかない。風邪をひいてもですぐ治る。
 この先の長い人生のなかで「あの雪サイアクだったねー」と笑い合い、良い思い出として語られるのでしょう。はー。

 約2時間で、山頂に到着。雪は、深いところでは、ひざ近くまで埋もれるほど積もっています。
 売店などがある広場のほうにいくと、たくさんの人々が雪景色を楽しんでいました。ケーブルカーやリフトに乗ってきた人もいるので、軽装から重装まで、格好はさまざま。

 朝9時半ですが、おなかぺこぺこの私たちは、おひるごはん。ん? 2度目の朝ごはん?
 食事担当のカッパがリュックから出したのは、サッポロ一番みそラーメン。雪からの連想なのでしょうか。具は、カット野菜にくわえ、バターとコーンとゆで卵。「チャーシューがなかったからさぁ」と、豚の生肉も出てきました。
 サッポロだけに、サッポロ黒ラベルで、気温0度のなか、乾杯。
 湯を沸かし、全部をぶちこんで、グツグツグツ。鍋ごと、ガツガツガツ。

 下山は、いちばんメジャーな1号路で。
 整備されている道とはいえ、雪が積もり、凍っているところもあります。
「きゃー」という声の先には、スカート姿の若い女の子。つるつるすべってしまい、一緒にきた若い男の子につかまっています。「こわーい」「大丈夫」などと言い合う、笑顔のふたり。
 その横を、アイゼンでざくざく進む真顔の私たち。
 準備不足で危ない目に合い、それを異性に助けてもらう。ああいうふうにやればよかったのだろうか。はー。

 山頂近くには、「薬王院」という、白狐にのった烏天狗様がまつられているお寺があります。
 寺には、たくさんの人々。そう、今日2月3日は節分です。これから豆まきがあるそうで、それを待つ人々で境内がにぎわっているのです。
 階段の下から、豆をまく側の人々が、列をなしておごそかにあがってきました。
「おすもうさんだ!」
 なにやら相撲協会はゴタゴタしているようですが、おすもうさんを見ると、どうしたって気分があがるもの。ゲストはほかに、北島ファミリー、丘みつ子さん、鈴木福くんらがいらっしゃるとか。豪華。
 福くんが笑顔で「福はーうちー」と投げた豆を食べたなら、確実に幸福が訪れそうです。

 午後から別の用事があるため、豆まきを待たずして、下山続行。
 高尾山は、中腹までケーブルカーとリフトが運行しています。
 私たちは、雪の山を最後まで堪能しようと、リフトを選択。乗り場にいくと、お客さんは誰もいません。そりゃこの寒さだもの。むなしくカラカラまわりつづける、誰も乗っていないリフト。静かに揺られること12分。

 リフトを降りて歩いていると、おばあちゃんと一緒に来た小学生男子の兄弟が、全身をくねくねさせながら、歌うように叫んでいます。
「リフト! リフト!」
 ケーブルカーでいこうというおばあちゃんに、兄弟は、リフトにしようとせがんでいるようです。
 酷だよー。あんたたちは危険な方が楽しいかもしれないけど、おばあちゃんには、酷だよー。登るほどに寒いのよ。あと10年位したら女の子とくればいいじゃない。日本一急勾配の、二人乗りのリフト。ぐらぐら。きゃーこわーい。大丈夫だよ。さむーい。こっちにおいでよ。とか言いながら、はぐくみなさいよ。そうしなさいよ。 
 がんばれ、負けるな、おばあちゃん。私はおばあちゃんの味方です。おばあちゃん側の人間です。

 リフトで冷え切った体は、高尾山口駅直結の「京王高尾山温泉極楽湯」で温めました。
 はー、ごくらくごくらく。

*きょうの昭和*高尾山ではありません。下山後に行った某文化センターにあった看板。かわいかったので思わずパシャリ。とくに「な」「れ」あたりがたまりませんな。

*きょうのごはん*雪ですから。サッポロ一番みそラーメンとサッポロ黒ラベル。飲み干さなければいけないので、汁は少なめ。

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山田マチ『ひとり暮しの手帖』

これは、ひとり暮しの山田の手帖です。

実家をはなれて、およそ20年。
これまでも、きっとこれからも、ひとり暮し。
ここには、ひとり暮しのいろいろなことを書きつけます。
このなかのどれかひとつくらいは、あなたの心に届くかもしれない。
いや、ぜんぜん届かないかもしれない。
そんなふうな、
これは、ひとり暮しの山田の手帖です。