ふらりと立ち寄る百貨店ですが、百貨店には百貨店ならではの秘密があるのはご存知でしょうか。『ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで』の作中でも、そんな”百貨店ならでは“のエピソードがたくさん紹介されます。一部引用してご紹介します。

 

 

外商は販売員であって販売員であらず

 

百貨店というと、欲しいものの「売り場」に買いにいくのが普通ですが、百貨店の上のほうに”外商フロア“なるものがあるのをご存知でしょうか。「外商」とは、字の通り「外で商いをする」人たちのこと。作中では以下のように紹介されています。

 

 

外商を辞書で調べると、「デパートなどで、店内の売り場ではなく、直接客のところへ出かけて行って販売すること」と説明されている。もちろんそれで正解なのだが、充分ではない。外商という部門はもともと呉服屋の御用聞き制度がルーツで、百貨店の店舗で行われいる販売とは一線を画す。店舗では、店員と客はその場だけの関係だが、外商と顧客の関係はそれこそ一生もので、「ゆりかご」から「墓」までお世話するのが外商の仕事なのだ。そういう意味では、「執事」または「秘書」ともいえる。さらに、顧客の話し相手をしたり日々の相談に乗ったりするのも、外商の仕事の内だ。そういう意味では、「コンパニオン」ともいえる。(本文より抜粋)

 

世の中には百貨店に買いに行かなくても、百貨店から家まで売りに来てくれる方々がいるということなのですね。わざわざお家で買うのだから、さぞかしすごいものを顧客の方々は買うのだろう、と想像しますが、これが意外。それこそペン一本からお墓まで、ありとあらゆるものが家にいたまま買えるのだそうです。

そして、物を「売り買い」するだけの関係でない、ということが何より面白く、その仕事の詳細は『ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで』でたっぷりお楽しみくださいませ。

 

「インゴ」がいっぱい

百貨店にいるとよく耳にうするのが店内のアナウンス。「〜からお越しの〜さま。お連れさまがお待ちです」や「〜からお越しの〜さま。お伝えしたいことがございますので〜フロアまでお越しください」など耳を凝らしていると、何種類かのアナウンスがあることに気づきます。そのアナウンスの中に実は“隠語”なるものが隠されているということはご存知でしたでしょうか。隠語には諸説ありますが、まことしやかに噂されている隠語としてはこんなものがあります。

 

赤井さん

万引き犯や、不審者のこと 。

「赤井様、3階〇〇にお越しください。」は、3階〇〇に万引き犯、もしくは不審者が現れたという意味。スタッフへ拡散するためにアナウンスでお知らせします。

 

桃井さん

万引きをしそう、不審な動きをしている人のこと。赤井さんの一歩手前ということです。 

 

川中様

これも万引き客のこと。

「買わなかった」⇒「かわなか」さん。ということです。

 

ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで』では、以下のような隠語が登場します。

 

「ちょっとサンバいってきます」

さて。「サンバ」とはなんのことでしょう。正解は「トイレ」です。なぜサンバがトイレ? かといいますと、隠語の番号からきているのでした。

 

一番:昼休憩

二番:中休憩

三番:トイレ

四番:万引き

 

作中の万両百貨店では一から四までがこのような隠語になっていて、三番が訛って「サンバ」になったということでした。

 

トイチの秘密

では、次の質問です。作中のやりとりの意味がみなさんわかるでしょうか。

「先日ね。とある外商さんが、仕事を紹介してほしいお得意がいるって相談してきたのよ」

「……お得意ですか?」

「いわゆる、トイチよ」

「え? トイチ? 闇金ですか」

 

さて、”トイチ”とは何の隠語かみなさんは想像つきますでしょうか。「10日で1割の金利」……ではありません。第二話「トイチ」第三話「インゴ」では、そんな隠語の魅力がたっぷり味わえるお話になっていますので、お楽しみください。

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真梨幸子『ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで』

欲あるところに極上ミステリあり。
美味しいものが食べたい、きれいな服を着たい、きれいになりたい、恋をしたい、子供がほしい、子供を立派に育てたい、金儲けしたい、もてたい、浮気がばれないようにしたい、家がほしい、幸せになりたい、いい暮らしがしたい、死にたくない。
私利私欲の百貨店へいらっしゃいませ。

真梨幸子『アルテーミスの采配』

出版社で働く派遣社員の倉本渚は、ある日AV女優連続不審死事件の容疑者が遺したルポ「アルテーミスの采配」を手にする。原稿は“僕は犯人ではない。本当の黒幕は”という告白の途中で終わっていた。好奇心のあまり調査を始める渚だったが、やがて原稿に張り巡らされた罠に気付く――。一頁目から無数の罠が読者を襲う、怒濤の一気読みミステリ。