日本各地のおいしいものが揃っていて、有名なレストランも気軽に入れて、高級ブランドがひしめき合って、赤ちゃん用品から喪服までありとあらゆるものが綺麗で豪華な空間に揃っている……それは何処か。百貨店です。時代が変わるにつれその姿も変える百貨店はいまや海外旅行客にも大人気のアニューズメントパーク。

そんな万集まる百貨店を題材にしたミステリー小説『ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで』まで発売されることに。「百貨店には人間の欲が詰まっている」は著者、真梨幸子さんの言葉です。さてさて。みなさま、私利私欲の詰まった百貨店へいらっしゃいませ。 

年末年始は百貨店が忙しい。お歳暮、御節注文、初売り、福袋……。人でごった返す店内を見ていると、地方で百貨店が閉店するニュースなどが嘘なのではと疑ってしまうくらいである。しかしながら、“三が日は営業しない”という百貨店が現れた。従業員の働き方を考慮してとのことだが、年がら年中忙しい百貨店であるから、年始くらいゆっくりおやすみしてもいいのではないかと個人的には納得している。そんな中、1月2日に日本橋三越にお邪魔したところ、「営業はしているけれど今日は17時までです」と申し訳なさそうに謝ってくださる。いえいえこちらこそ2日から早速お邪魔させていただき恐縮です、と申し訳ない気分になりました。

女子の伊勢丹、ママの高島屋?

それにしても、百貨店。最近の百貨店はすごいのである。特に東京都内の百貨店は店内テナントの充実、内装の豪華さやサービスの至れり尽くせり感も含めて、素敵を通り越して凄まじいのである。新宿伊勢丹、新宿高島屋、日本橋三越、日本橋高島屋、渋谷東急本店、二子玉川高島屋、小田急百貨店、京王百貨店、西武、東武、銀座松屋、銀座三越、大丸、そして和光……。もはや百貨店フィーバーです。みなさんのお気に入りはどの百貨店でしょうか。大丸の地下のお弁当の充実や、東急百貨店のゆったりとした店構え、三越のデパ地下の大充実や女子が「住みたい」と豪語する伊勢丹、ママの天国の二子玉川高島屋など、もう群雄割拠です。

どうしてそんなに百貨店に人は惹きつけられるのか。もちろん、「必要なものがあるから買いに行く」のだとは思いますが、それだけではないのが百貨店ではないでしょうか。ネットでポチりと買うのではなく、近所のスーパーで済ますのではなく、ここにしかない「何か」を買いにいく–—正しくは「満たされていく」のではないでしょうか。何を満たしにいくのかというと、それはきっと自分の中の「欲」なのですね。

私利私欲が渦巻く百貨店

欲にもいろいろあると思います。綺麗な格好をして出かけたい欲、美味しいものを食べたい欲、誰かに素敵な贈り物をしたい欲、子供と安心して過ごせる場所に行きたい欲、綺麗なところでトイレしたい欲、綺麗な場所で買い物をしたい欲、デパートで買い物をするような人間に見られたい欲……。いわゆる「物を売っているだけではなく空間と時間を提供している」百貨店でしか満たされないものがきっと誰にでもあるのだと思うのです。

地下から屋上まで。フロアリストを見ていると、そのまま人の欲の早見表に見えます。あなたの欲を満たしてくれるのは何階の何フロアでしょうか。私利私欲が渦巻く百貨店をぶらりと歩いていると、人間の本質がチラリと見えるのかもしれません。

そんな百貨店を題材にしたイヤミスが発売されることとなりました。その名も『ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで』。著者は”イヤミスの女王”こと真梨幸子さん。

イヤミスと百貨店の好相性

イヤミスとは、人間の醜い感情、イヤな部分を巧みに刺激し、ぐいぐい読者を引き込み、読み終わってもなお後味がいや〜なミステリーが語源ということですが、私利私欲が渦巻く百貨店は、すなわちイヤミスのネタの宝庫でもあるのです。次回はそんな百貨店の”秘密”についてご紹介したいと思います。      

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真梨幸子『ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで』

欲あるところに極上ミステリあり。
美味しいものが食べたい、きれいな服を着たい、きれいになりたい、恋をしたい、子供がほしい、子供を立派に育てたい、金儲けしたい、もてたい、浮気がばれないようにしたい、家がほしい、幸せになりたい、いい暮らしがしたい、死にたくない。
私利私欲の百貨店へいらっしゃいませ。

真梨幸子『アルテーミスの采配』

出版社で働く派遣社員の倉本渚は、ある日AV女優連続不審死事件の容疑者が遺したルポ「アルテーミスの采配」を手にする。原稿は“僕は犯人ではない。本当の黒幕は”という告白の途中で終わっていた。好奇心のあまり調査を始める渚だったが、やがて原稿に張り巡らされた罠に気付く――。一頁目から無数の罠が読者を襲う、怒濤の一気読みミステリ。