『からくさ図書館来客簿』シリーズで知られる仲町六絵さん最新刊『アンティーク弁天堂の内緒話』(幻冬舎文庫)。不思議な力を持つ店長・洸介(こうすけ)と女子高生の紫乃(しの)のコンビが、骨董に秘められた“思い出”を優しく解き明かすストーリーは、読んだあとほっこり暖かい気持ちになれると話題になっています。「第一話 白鳥の想いびと」のためし読みを3回にわけてご紹介。紫乃が子供時代に祖母と交わしたある“約束”のお話。仲町さんがこのシーン執筆のために足を運んだという、京都市左京区最北端の集落、久多の写真も合わせてご覧ください!

 

*  *  *

 

 透き通ったガラスの抹茶碗は、氷がぶつかりあうような涼しい音を立てる。

 藍色の鳥が描かれた盃は、人々の楽しげな語らいをひそやかに響かせる。

 深い緑色の徳利は、三味線の音色をとぎれとぎれにこぼす。

 小学一年生の夏休み、祖母の住む茅ぶき屋根の離れに初めて入れてもらえた日。

 紫乃(しの)は、先祖たちが集めたというさまざまな骨董品から、聞こえるはずのない音を聞いた。

「おばあちゃん。ここにある物、色んな音がするよ?」

「あら、そう。紫乃ちゃんにも、そういう力があるんだね」

 祖母の和恵(かずえ)が、麦茶のグラスを手にしながら言った。薄い絽(ろ)の着物が総白髪によく似合っている。

「そういう力って?」

 紫乃も麦茶を飲んだ。

 両親が京都の街中で買ってきた新しいグラスからは、音は聞こえてこない。

「古い物が抱えている、過去や心を知る力。『ふることぎき』と呼ばれる力」

「ふることぎき……ふることぎき」

 祖母の言葉を、紫乃は繰り返してみた。古いことを聞く、という意味のようだ。

「紫乃ちゃんも私も、ふることぎきなんだよ」

 棚に並ぶ古い器物を見つめている紫乃の頭をなでながら、和恵は言った。

「他の人は違うの? ふることぎきじゃないの?」

 おばあちゃんも自分と同じなら安心だ、と思いながら紫乃は尋ねた。

 青磁の花瓶が、シャキンと花ばさみの音を鳴らす。生けられているのは薄紫の野菊。群れて咲く華麗な姿が友禅にたとえられる、北山友禅菊(きたやまゆうぜんぎく)だ。

「たいていの人はふることぎきじゃないけれどね」

 和恵は優雅な仕草で座り直し、紫乃の顔を見つめた。

「私が知っているふることぎきは、全部で四人。私のお祖母さん、私のお母さんとその弟、それに紫乃ちゃん」

 会ったことのない親戚たちもそうだったと聞いて、紫乃はいっそう心強く思った。

「ふることぎきって、いでんなの?」

「そうかもしれない。しかし遺伝だなんて、まだ七つなのに難しいこと知ってるね。もう学校で習ったの? それとも移動図書館?」

 和恵は褒めながら、紫乃の長い黒髪をなでた。

「ネットで読んだの」

 企業や官公庁が子ども向けに科学ニュースを発信していると紫乃が幼い口調で説明すると、和恵は「あら、まあ、まあ。さすが平成の子は違う」と、驚いたような声を出した。

「この山奥も、情報は入りやすくなってるんだねえ」

 ほ、と息をついて、白髪の美しい頭をかすかに傾ける。

「この久多(くた)も一応、京都市なんだけどねえ。未だにとことん山里で、私が子どもの頃から本屋さんのあったためしがない。まあ、左京区はものすごく南北に長いからしょうがないんだけど」

 大人たちがときどき苦笑と諦め混じりに披露する知識を、和恵も口にした。

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仲町六絵『アンティーク弁天堂の内緒話』

進学のため京都・下鴨神社近くの寮で暮らすことになった女子高生の紫乃。ある日、実家からお守りとして持ってきたガラスの白鳥から、亡き祖母を呼ぶ声がすることに気づく。途方にくれる紫乃だったが、琵琶湖の弁財天を名乗る女性に、哲学の道にある骨董店へ行くよう促される。そこには不思議な力で訳ありの品の謎を解く店長・洸介がいて――。