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本屋の時間

2018.01.16 公開 ツイート

第30回

本屋のマナー 辻山良雄

 
thanasus/iStock

 私語厳禁、撮影禁止、一人一品の注文など、その種類は違ってもお客さんに守ってほしいことを、店内に掲示している店をたまに見かけます。店をやっている身としては「書きたい気持ちは、とてもよくわかる」と見るたびに思います(程度にもよりますが……)。しかしその気持ちを明文化してしまうと、それがルールになります。何事もルールになってしまうと随分と息苦しくなりますし、否定的にお互いを見てしまうことにも繋がりかねません。

 それに対して、マナーは明文化されないところにその価値があります。本屋でのマナーは、細かくいえば幾つもあると思いますが、その肝は「本屋は、来店した人が落ち着いて本を買うための場所である」ということです。何を当たり前なと思われるかもしれませんが、そう考えれば、その場にふさわしくない行動が随分とわかりやすくなると思います。本屋は撮影スポットでもしゃべり場でもありませんし、売り物の本の上に自分の鞄を置いても良いとは思えません……。

 しかし、もしマナーが守られないことが増えてきたとすれば、店をやっている人は自分のしている仕事を見直すべきかもしれません。店の人自らが守るべきマナーをしっかりと守り、その上で店をきれいにしていれば、店に来た人も普通は度を越したことはしないものです。はじめて来た人でも買い物がしやすいように、店を平準に保つのが店主の仕事です。そのためにはあまり色々なことに馴れ馴れしくならないのが良いと、個人的には思っています。

「お客様は神様だ」という言葉がありますが、店は客のものではありません。しかし同時に店は店主のものでもなく、そのあいだに位置して、ともにその場所を作っていくところだと思います。お互いが節度を持ちながら程よい緊張感が保たれているのが、よい店の条件だと思っています。

 

今回のおすすめ本

木下龍也 岡野大嗣『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』(ナナロク社)

 短歌でこんなことが出来るとは思わなかった。ある七日間に起きた、二人の高校生の心情が、連続した短歌で綴られる。一つ一つの歌が独立しながら存在し、それでいて全体としては連なった波のようでもある。

 

◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBSHOPでもどうぞ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

辻山良雄さんの著書『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』のために、写真家・齋藤陽道さんが三日間にわたり撮り下ろした“荻窪写真”。本書に掲載しきれなかった未収録作品510枚が今回、待望の写真集になりました。

 

○2024年4月12日(金)~ 2024年5月6日(月)Title2階ギャラリー

『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』小林エリカ原画展

科学者、詩人、活動家、作家、スパイ、彫刻家etc.「歴史上」おおく不当に不遇であった彼女たちの横顔(プロフィール)を拾い上げ、未来へとつないでいく、やさしくたけだけしい闘いの記録、『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』が筑摩書房より刊行されました。同書の刊行を記念して、原画展を開催。本に描かれましたたリーゼ・マイトナー、長谷川テル、ミレヴァ・マリッチ、ラジウム・ガールズ、エミリー・デイヴィソンの葬列を組む女たちの肖像画をはじめ、エミリー・ディキンスンの庭の植物ドローイングなど、原画を展示・販売いたします。
 

 

【書評】New!!

『涙にも国籍はあるのでしょうか―津波で亡くなった外国人をたどって―』(新潮社)[評]辻山良雄
ーー震災で3人の子供を失い、絶望した男性の心を救った米国人女性の遺志 津波で亡くなった外国人と日本人の絆を取材した一冊
 

【お知らせ】New!!

「読むことと〈わたし〉」マイスキュー 

店主・辻山の新連載が新たにスタート!! 本、そして読書という行為を通して自分を問い直す──いくつになっても自分をアップデートしていける手段としての「読書」を掘り下げる企画です。三ヶ月に1回更新。
 

NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。

毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。4月16日(日)から待望のスタート。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
 

黒鳥社の本屋探訪シリーズ <第7回>
柴崎友香さんと荻窪の本屋Titleへ
おしゃべり編  / お買いもの編
 

◯【店主・辻山による<日本の「地の塩」を巡る旅>書籍化決定!!】

スタジオジブリの小冊子『熱風』2024年3月号

『熱風』(毎月10日頃発売)にてスタートした「日本の「地の塩」をめぐる旅」が無事終了。Title店主・辻山が日本各地の本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方をインタビューした旅の記録が、5月末頃の予定で単行本化されます。発売までどうぞお楽しみに。

関連書籍

辻山良雄『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』

まともに思えることだけやればいい。 荻窪の書店店主が考えた、よく働き、よく生きること。 「一冊ずつ手がかけられた書棚には光が宿る。 それは本に託した、われわれ自身の小さな声だ――」 本を媒介とし、私たちがよりよい世界に向かうには、その可能性とは。 効率、拡大、利便性……いまだ高速回転し続ける世界へ響く抵抗宣言エッセイ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

新刊書店Titleのある東京荻窪。「ある日のTitleまわりをイメージしながら撮影していただくといいかもしれません」。店主辻山のひと言から『小さな声、光る棚』のために撮影された510枚。齋藤陽道が見た街の息づかい、光、時間のすべてが体感できる電子写真集。

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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

バックナンバー

辻山良雄

Title店主。神戸生まれ。書店勤務ののち独立し、2016年1月荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店 「Title」を開く。書評やブックセレクションの仕事も行う。著作に『本屋、はじめました』(苦楽堂・ちくま文庫)、『365日のほん』(河出書房新社)、『小さな声、光る棚』(幻冬舎)、画家のnakabanとの共著に『ことばの生まれる景色』(ナナロク社)がある。

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