2017年も終わり、ベスト作品選出の季節がやって来ました。

 まずは昨年のベストテンの発表です。

 ランキングは、文化季刊誌「フリースタイル」の特集、「THE BEST MANGA 2018 このマンガを読め!」によっています。

1位 宮谷一彦『ライク ア ローリング ストーン』

2位 萩尾望都『ポーの一族 春の夢』

3位 押見修造『血の轍』

3位 板垣巴留『BEASTARS』

5位 阿部共実『月曜日の友達』

6位 熊倉献『春と盆暗』

7位 大童澄瞳『映像研には手を出すな!』

8位 久野遥子『甘木唯子のツノと愛』

9位 沢田新・作/浅井蓮次・画『バイオレンスアクション』

10位 千明初美『ちひろのお城』

10位 松本大洋『ルーヴルの猫』

 宮谷作品がベストワンになったのは、正直、うれしい驚きでした。このマンガは今からほぼ50年も前に描かれ、今回初めて単行本化されたものだからです。私がその単行本の解説を書いているので、本欄での紹介は控えたのですが、もちろん私にとっても2017年のベストワンです。これは大友克洋以前の日本マンガの革命であり、マンガ家が自分自身を抉るようにして描いた史上最初の「私マンガ」なのです。その途方もない画の力はいまだにまったく衰えていません。

 萩尾作品については本欄で触れましたが、以下、各作品について短評を記します。

『血の轍』恐ろしい母親を描くいかにも押見修造らしい変態心理ドラマで、異様な迫真力に満ちていますが、物語は始まったばかりで、評価はちょっと……。

『BEASTARS』擬人化された肉食獣と草食獣が共同生活する学園ドラマという変わりダネ。絵もうまく、話しも面白いが、だからどうした? といわれると困ります。

『月曜日の友達』中学1年で変人とされる女子が心の通じる相手を見つける話で、心理の繊細さとユーモア感覚のバランスがよくとれています。かなり文学的な内容をあえて子供っぽい絵柄で描くところが持ち味でしょうか。

『春と盆暗』ボンクラ男子の変人女子への片思い、すれちがいを描く短編集。軽い感じの絵に節約したセリフで、言葉にならない心のすき間を描く手法がとても巧いです。

『映像研には手を出すな!』これは面白い! アニメ好きの3人の女子高生がアニメ作りに乗りだすという話ですが、舞台、物語、小道具、絵柄等々がすべてアニメ作りのメタレベルでの解析になっていて、驚くべき高度な批評性がみなぎっています。

『甘木唯子のツノと愛』ツノのある女の子という設定で、現実とファンタジーが接するぎりぎりの世界を描きだすことができたのは、独特の線と空間処理の仕方によるのでしょう。ただ、こういう世界を描く作者の真のモチーフが見えてきませんでした。

『バイオレンスアクション』可愛いふわふわした女の子が非情凄腕の殺し屋という設定だけで持たせているという感じです。

『ちひろのお城』1970年代後半に上質な少女マンガを描いた千明初美の復刻作品集。高野文子の編集に深い愛とマニアックな共感がこもっていて、作品の感動をいっそう深めています。作家の再評価をうながす真のオマージュです。

『ルーヴルの猫』この作品も1位の宮谷作品に匹敵する2017年のベスト級のマンガです。動物を主人公にし、正面きって絵画を主題にするという点で、松本大洋の新境地を切り開いた素晴らしい力作です。

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