JJ(熟女)になると減るもの、それは新規開拓欲求だ。

若い頃は新しい場所に出かけて、新しい人と出会い、新しい経験をしたかったが、今は新しいことがダルい。食事に行く時も、馴染みの友達と馴染みの店で馴染みのメニューを頼む。

浮気や不倫をする人は、性欲よりも「新しい人とチョメチョメしたい」という新規開拓欲求が大きいんじゃないか。年をとるとチョメチョメするにしても「馴染みの夫でいいや、面倒くせえし」と思うようになる。

JJは刺激がしんどいお年頃なのだ。20代は激辛メニューに挑戦したりしたが、40代になると胃腸も弱る。ヘタに蛮勇を発揮して「よーし、この高い樹から飛び降りてみよう!あしたって今さ!」とジャンプしたら、両足首を骨折する。

とはいえ、新しいことを何もしないのはどうなのか。
私が「元気なおばあさんだなあ」と感心するのがデヴィ夫人だが、以前インタビューで「若さの秘訣はチャレンジ精神」と語っていた。

デヴィ先輩は御年77歳にして、空中ブランコ・スカイダイビング・瓦割り・イルカに乗る…など、様々なことにチャレンジしている。
保育士の仕事に挑戦した時は、お絵かきする子どもに「何を描いてるの?」と聞いて「ドラえもん!」という回答に「ダライラマ?」と聞き返していた。ダライラマを描く保育園児がいたら、それは次期ダライラマ候補だろう。

デヴィ先輩は「挑戦する気持ちを失った時が、自分が年をとったということになるんじゃないでしょうか」と語っていた。私も「初めての○○」にチャレンジすべきかもしれない。

ちなみに「初めての老化」には日々遭遇している。JJは毎日が発見の連続、しゃかりきコロンブスなので、最近も首に老人性イボを発見した。女友達が「それは皮膚科で簡単にとれるよ!」と教えてくれて、JJネットワークのありがたみを感じた。

若い頃はイボもできず肉体は健康だったが、メンがヘラヘラで、毎日がジェットコースターだった。JJになりメンが安定して平穏な暮らしを送っているが、平穏すぎてボケると困る。
そんなわけで「初めて○○」に挑戦することにした。

1つめは「JJ初めての大衆演劇」

先日、大衆演劇ファンの20代女子に連れて行ってもらった。彼女は子どもの頃から女装男性が大好きで「女形を見たい…!!」と観に行ってハマったんだとか。今では推しの劇団を追いかけて全国行脚しているらしい。

その日連れて行ってもらったのは、神戸にある新開地劇場。新開地はご当地キャラの「893くん」が人気で…というのは嘘だが、まあそういうテイストのエリアで、劇場のすぐそばに競艇場がある。

劇場の扉を開くと、そこは下町のデンデラだった。観客の9割はババア先輩方で、客席の豹柄率がすごい。
公演のプログラムは歌謡ショー→お芝居→歌謡ショーと3時間半に及ぶが、チケット代は1800円とメッチャ安い。客席での飲食も自由で、先輩方は銀紙で包んだおむすびを食べたり、アメちゃんポーチから黒飴や黄金糖を出して交換しあったりと、のびのび観賞していた。

その劇団には若いイケメンの役者も多く、推しが登場すると「キャー!!!!」と歓声が上がる。ババアになっても黄色い声って出るんだ、と心強さを感じる。
胸元をはだけて乳首をチラ見せしてくる役者もいて、「おばあさんにとって若いイケメンの乳首は、仙豆以上の栄養価だろう」と思った。私も法令線が伸びるのを実感した。

第二幕は国定忠治モノの時代劇で、「まったくババアは使い物にならねえな!」といった客いじり的なセリフに、ババアたちが爆笑していた。やはり言葉は誰が言うかだ。同じことを安倍総理が言ったら進退問題になるだろう。 

第三幕の歌謡ショーのラストでは、三代目J Soul Brothersの『無限ロード』が爆音で鳴り響き、ホスト風の紋付袴の役者たちがヒップホップ風のダンスを踊っていた。だが顔は時代劇メイクのままなので、多国籍すぎてポカーンとなる。
おまけにド派手なレーザー光線とライトが点滅しまくって「ポケモンみたいおばあさんが失神するんじゃ?」と心配になったが、先輩方の顔は多幸感で輝いていた。

公演終了後に劇場を出る時は、役者たちが全員でお見送りをしてくれる。肩を組んでツーショット写真を撮ったり、おしゃべりしたりもできて、料金は発生しない。
オタク女子から「地下アイドルのイベントで写真集を買うと一緒にチェキを撮れるので、同じ写真集を10冊買いました!」といった話を聞くが、地下アイドルより大衆演劇のアイドルにハマる方が財布に優しい。

なにより、屋内でオールシッティングなので体に優しい。JJは野外フェスとか体力的にキツいし、モッシュとかすると命に関わる。
「年をとって、お金があまりなくても、楽しめるものはいっぱいあるなあ」と思いながら、私は劇場を後にした。すぐそばの競艇場の前では、おじいさんたちが道に座ってワンカップを飲んでいた。
それも楽しそうだが、やはり私はギャンブル沼よりアイドル沼につかりたい。次回は黄金糖をポーチに入れて参戦する所存だ。

続いて、2つめの挑戦は「JJ初めてのメイクレッスン」

美容オタクのライター女子から「雑誌や広告で活躍するヘアメイクさんからレッスンを受けられますよ!」と教えてもらって、JJ仲間と行ってきた。

そのレッスンは持参した自前の化粧品を使ってくれて、商品の営業もされない。それでお値段は1時間6000円とリーズナブル。なによりヘアメイクのお姉さんがナチュラルで素敵な人で、柳原可奈子のコントみたいなBA感は皆無だった。

私は「石原さとみにしてください!」と威風堂々言ってのけ、JJらしい太メンぶりを見せつけた。その後のレッスンでは「石原さとみに寄せつつ、自分の顔に似合うメイク」を教えてもらった。

たとえば「毛は若さの象徴だから、JJは眉毛をふっさり太めに描くべし」という定説があるが、太眉が似合う顔と似合わない顔があって、私は似合わない顔らしい。たしかに今回、眉をシャープにカットしてもらって「ピンポン、越後製菓!」「正解!」というのがよくわかった。人によってメイクの正解は違うのだ。

また「乾燥肌のJJはフェイスパウダーを使わない方がいい」などのアドバイスや、効果的なコンシーラーやアイラインの入れ方など、目からウロコのテクニックも教えてもらった。

そしてメイク完成後、鏡を見て息を飲んだ。「石原さとみ風のブスが……!」

顔の作りは変わらないので、いきなり美人に変身したりはしない。6000円で美人になれるなら高須クリニックはいらないし、この世からテロも戦争もなくなるだろう。だが“石原さとみ村一番のブス”という風情にはなれた。すこぶる満足だ。

サロンを出た後、女友達と中華料理屋に行き「プロってすごいね~!」と話しながら、小籠包をもりもり食べた。JJになっても食欲は衰えず、“石原さとみ村一番のデブ”の称号も得られそうだ。

そこで友人から「次は何にチャレンジをするの?」と聞かれて「JJ合同結婚式をしないか?」と提案した。

先日、ハナコレというウェディングサイトの取材を受けて「JJ仲間とウェディングドレスを着て写真を撮ってパーティーしたら楽しそう、新郎はナシで」と話したのだ。
だが彼女は「いやべつにウェディングドレス着たくないし」と塩対応。おらが村に乙女はおらんのか。せっかく担当者からおすすめのフォトスタジオも教えてもらったのに。

友人は「40代のウェディングドレスはキツいんじゃないか?」と言っていたが、日本は世界屈指の晩婚大国。
ネットのウェディング記事には「40代の質感が増した肌は、それが味となってドレスの緻密なディテールとの一体感が増してくるのです』と書いてあり、物は言いようやなと思った。
我が国にはJJにも似合うドレスがあるだろうし、この飛行できそうな二の腕もカバーしてくれるだろう。なにより、俺たちにはフォトショップがついている。

とはいえ、1人で写真を撮りに行くのはつまらない。こういうのは女同士でキャッキャウフフするのが醍醐味だ。
そのスタジオはウェディング以外の写真も撮れるそうなので、「義母を誘ってみようかな」と思いついた。流行りものが好きな義母は「私も終活しよかしら~」とよく言っているのだ。だが「遺影を撮りにいきませんか?」と提案したら、鬼嫁と思われるかもしれない。

それにしても、空中ブランコや瓦割りといったデヴィ先輩のチャレンジに比べて、私のチャレンジはゆるゆるだ。
だが、私と先輩では根性が違う。先輩は逆上がりに挑戦して達成できず、悔し涙を流していた。私だったら「7歳でできなかったものが77歳でできるかよ」と1秒で投げ出すだろう。

なにしろ先輩は20代で大統領の第三夫人となり、クーデターを生き延びた人物。一方の私はクーデターが起きたら真っ先に死ぬモブだ。モブはモブらしく、胸を張ってゆるく生きよう。

先日、デヴィ先輩より3歳年上の義母に「この前クシャミをしたら尿漏れしたのよ!」と報告されて「お義母さん、それは誇っていいですよ」と返した。
40代女性の3割に尿漏れがあると言われるのに、80歳で「初めての尿漏れ」に遭遇するなんて立派なものだ。義母は見た目もとても若いが、骨盤底筋も若いのだろう。

私はナウシカの大ババ様のようなババア然としたババアに憧れているが、バッシャバシャ尿漏れするのは避けたい。義母は昔ホステスさんをしていたのだが、スナックのママから「ボーッと突っ立ってるヒマがあったらマンコ体操しなさいよ!」と言われて、ケーゲル体操に励んでいたらしい。私も股間のアンチエイジングに励もう、と決意した。

ここまで書いて「このコラムって元旦に更新されるのか」と気づいた。新年早々、尿漏れの話で恐縮だ。だが40年も生きていれば、新年といっても目新しくない。なので気は引き締めず股間だけ引き締めて、本年もゆるゆるやっていこうと思う。

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