4日目はアアルトのカフェで朝食。午前9時のオープンと同時に一番乗りだ。

 席に着くと、

「ジャパニーズメニュー?」

 と、日本語メニューを持って来てくれる。

 モーニングは4種類。「アアルト」「詩人」「ミュージシャン」「ラファエロ」。なかなか素敵なネーミングなのだった。

「ミュージシャン」をチョイスしてみた。黒パン、ヨーグルト、分厚いトマトスライス、同じく分厚いキュウリスライス、チーズ、ナッツとドライフルーツのグラノーラ、フレッシュオレンジジュース、コーヒー。これでだいたい1300円くらいだろうか。物価の高い北欧ではかなりお得に感じる。見た目よりボリュームがあり、食べ終わるとおなかがいっぱいに。

 カフェ・アアルトでは、若い女性店員がひとりでフロアを担当していた。広いスペースではないのだけれど、彼女の無駄のないきびきびとした動きにうっとり。テーブルからテーブルへ移動するときも、常に早歩きだ。小鳥のようにちょんちょんと飛んでいる感じ。常連客にも、わたしのような観光客にも同じように朗らかな笑顔で、出発前にJALのカウンターの女性が、フィンランドは「人も親切だし」と言っていたのを思い出す。

 朝食のあとは、電車に乗ってミュールマキ教会へ。光の教会とも呼ばれている、美しい教会らしい。

 ヘルシンキ中央駅からP線の列車に乗って約20分。空港につづく線でもある。

 この旅はじめて、車内での切符チェックがあった。電車、トラム、バスなど、ヘルシンキの交通機関では、切符を買ったかどうかを確認する仕組みにはなっていない。その代わり、たまに切符パトロール隊による、車内の不意打ちチェックがある。切符を持っていないと一万円近い罰金が課せられるのだが、持っていてもドギマギするくらいパトロール隊には威圧感がある。無賃の乗客が他の車両に移動できぬよう、前後からジワジワと確認していくのである。わたしの切符を確認したのは女性パトロール隊だった。切符を見たあと、わたしのネイルにもちらっと目をやったのがかわいかった。フィンランド旅行前にネイルサロンできれいにしてもらっていたのだった。

 Louhara駅で下車すると、プラットホームからミュールマキ教会はすぐそこに見えていた。

 駅を出て、教会の前まで歩く。建物の一部が見える。かなりそっけない。長方形の高い壁、その上にぽつんと十字架。十字架の先にはカラスがとまっていた。

 道にそって歩いて行くと、全貌が見えてくる。地面にホワイトチョコレートを立てて並べたような、すっきりした建物である。

 ドアを開けると、大柄な男性が立っていた。係の人のようだ。わたしのことが窓から見えていたのだろう。「どこから来たの?」と英語で聞かれ、日本からです、と答えると同時くらいに、もう日本語のパンフレットを差し出された。

 礼拝堂に案内される。

 扉を開けると、中は雪の中のように真っ白。壁も椅子も。吹き抜けの高い天井から、照明が星のようにつり下げられていた。

 うわぁ。

 美しさのあまりわたしが声をもらすと、男性は満足げにうなづいた。そして、どうぞごゆっくり、みたいなことを言って出て行った。祭壇のあたりは立ち入り禁止で、写真は自由に撮ってよいとのこと。

 静かだった。なのに、心の中に音楽が響いているようだった。美しいものを見て泣いたことは何度もあるけれど、ここでもやはり涙がこぼれた。

 しばらく白い長椅子に座り、天井を見上げていた。窓から入る太陽の光が、壁をまわって室内全体を包んでいる。

 建築家はヘルシンキ出身のユハ・レイヴィスカ。コンペで勝ち抜き、ミュールマキ教会の設計を手がけたとのこと。礼拝堂の外のテーブルや椅子にはアアルトのものが使われていた。

 教会の照明は、最初、夜空のたくさんの星に見えた。しかし、次第に「音符」のように感じられた。空間に漂う光の音符。そのせいでなにも聞こえないはずなのに、リズムを感じるのではないか。

 日本語のパンフレットがあるということは、日本からの観光客も多く訪れるのだろう。ミュールマキ教会のことは、わたしのガイドブックには載っていなかったのだが、以前、なにかで知って行ってみたいなぁと思っていた。運良く、貸し切り状態だった。旅の初日、送迎のエリカさんが見学可能な日時を調べてくれたので、本当に助かったと思った。

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