今年もクリスマスシーズンが到来。きれいなイルミネーションで、一年で一番街が輝きだす季節です。
クリスマスは、一般的にイエス・キリストの誕生日だといわれています。みんなで集まって「メリークリスマス!」と言って乾杯したりケーキを食べたり、プレゼントを贈り合ったりするイベントでもあります。
しかし、日本人の大多数はクリスチャンではありません。キリスト教について、イエスと聖書について、あまりよく知られていないのが現状です。
そこで、『知ったかぶりキリスト教入門』の著者で、さまざまな宗教を平易に説くことで定評のある宗教研究者の中村圭志さんが、キリスト教の最低限の知識をQ&A方式で解説。本書より、一部を抜粋してお届けいたします。

Q 本当に処女から生まれたのか?                A イエスの母マリアは処女のまま懐胎したと二つの福音書に記されていますが、神話だろうと言われています。

保守的な信者さんはこれを文字通りに信じていると思われますが、リベラルな信者さんは神話と割り切っているようです。考えてもしょうがないので、考えないようにしている人もいるでしょう。

四つある福音書──『マタイによる福音書』『マルコによる福音書』『ルカによる福音書』『ヨハネによる福音書』──のうち、最も古い段階で書かれた『マルコによる福音書』にはこの伝承が欠如しています。『マルコ』にはイエスの子供時代についての記録がなく、青年期後期のイエスが宣教を始めるところから物語が始まっています。

この『マルコ』を改編する形で生まれた『マタイ』と『ルカ』には、イエス幼少時の伝承が加えられているのですが、その内容は一致しません。福音書を書いた人たちもあやふやだったんですね。

最も遅れて編纂された『ヨハネ』も幼少期についての記述を欠いています。

釈迦も神秘的な出生であった

ちなみに、そもそも英雄的な人物、神的な人物の奇跡的な生誕というのは、世界中どこにでもある神話であり、処女から生まれるというのもそのパターンの一つです。

仏教の開祖もまた、伝承の中では、奇跡的な生まれ方をしています。

釈迦はお父さん(浄飯王じょうぼんのう)とお母さん(摩耶夫人)の子供です。しかし、釈迦は兜率天(とそつてん)という天から白象の姿でお母さんの胎に降りて来たと言われています。そのあと、お母さんは右脇腹から釈迦を産みます。

釈迦は兜率天の前にも無数の前世があり、その中で奇跡的な人生を歩んだことになっています。つまり、輪廻(りんね)信仰のある仏教の場合、前世を奇跡的に描くことで、釈迦の奇跡性を演出できます。

これに対して、キリスト教には輪廻信仰がありませんから、開祖が奇跡的に生まれるには、神が直接にかかわる必要があります。だから神と処女の子として誕生する必要があったのだと思われます。

もっとも、処女からの誕生というのは仏教世界にもある神話です。禅の五祖・弘忍(ぐにん)は師に出遭ったときもう高齢であったので、生まれ直して修行することにし、水辺の洗濯女に「わしを宿してください」と頼んで、生まれ直したそうです。すごい話ですね(もちろん伝説です)。

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中村圭志『知ったかぶりキリスト教入門 イエス・聖書・教会の基本の教養99』

キリスト教は二千年前、ユダヤ教の活動家だったイエスを人類の救世主(=キリスト)だと信じた人々がつくった宗教だ。今では二二億人もの信者がおり、世界の政治や文化にも大きな影響を与え続けている。しかし、そもそもイエスは実在したのだろうか。イエス=神か、それとも神の子なのか。一神教でありながら、神は「三つで一つ」だという教理とは何か――。人気宗教学者が、イエスの一生、聖書のエピソードと意味、仏教との比較、イスラム教との関係などを、Q&A方式で説明。最低限の知識を99の質問で学べるキリスト教ガイド。