(写真:iStock.com/sedmak)

今年もクリスマスシーズンが到来。きれいなイルミネーションで、一年で一番街が輝きだす季節です。
クリスマスは、一般的にイエス・キリストの誕生日だといわれています。みんなで集まって「メリークリスマス!」と言って乾杯したりケーキを食べたり、プレゼントを贈り合ったりするイベントでもあります。
しかし、日本人の大多数はクリスチャンではありません。キリスト教について、イエスと聖書について、あまりよく知られていないのが現状です。
そこで、『知ったかぶりキリスト教入門』の著者で、さまざまな宗教を平易に説くことで定評のある宗教研究者の中村圭志さんが、キリスト教の最低限の知識をQ&A方式で解説。本書より、一部を抜粋してお届けいたします。

Q 最後の晩餐とは何か?                    A イエスが弟子たちととった最後の夕食です。ユダヤ教の祭りの日であり、ユダヤ教の儀式と新しいキリスト教の儀式とを結ぶシンボリックな意味合いをもっています。

ユダヤ教は年中行事の豊富な宗教であり、今日でも一年中色々な宗教的行事を行なっています。

太陽暦の三月・四月頃に行なわれる過越祭(すぎこしのまつり)は、重要な祭礼の一つで、ユダヤ人のご先祖様がエジプトでの奴隷状態から解放されてパレスチナ方面へと逃げ出したときの伝承を記念する行事です。

イエスの時代にもこれは重大な行事で、ユダヤ人の聖都エルサレムは神殿詣での人々でごった返しました。その時期にイエスの一党もエルサレムで行動し、官憲につかまって処刑されたのですが、逮捕される前の晩に、すでに運命を予期していたイエスが弟子たちとともに晩餐をとったとされています。

その様子は、四種の福音書に記載されています。

ですから、「最後の晩餐」は過越祭の行事とのダブルイメージをもっており、かつ後のキリスト教会の聖餐式や復活祭の起源ともされています。

つまり、ユダヤ教の行事が「最後の晩餐」を転換点としてキリスト教の行事に変わるわけです。

肉と血の犠牲

映画で描かれる弟子たちは、たいていあんまり深くものを考えていないのですが、聖都エルサレムに乗り込んだイエスに対し、期待に胸を膨らましています。

師はいよいよスーパーヒーローとしての正体を現すのだ!

終末ユートピアへ突入だ!

しかし、イエスのほうは、これがもうお別れの時だと思っています。

イエスは晩餐の席で、不思議なことを言い出します。

パンを取ってちぎり、弟子たちに回しながら「これはわたしの体である」と言い、ワインの杯を弟子たちに回して「これは、多くの人のために流されるわたしの血、契約の血である」と言います。

映画のシーンでは、弟子たちはちょっとギクッとしていますね。「パンとワインが師の肉と血だなんて、薄気味悪い」という演出でしょう。

過越祭では、昼に人々は神殿で次々と小羊を屠(ほふ)ってもらい、その血で祭壇を真っ赤に染めます。肉は共食用に切り取られ、臓物などは祭壇で燃やされます。夜に人々は家族ごと、仲間ごとに祝宴を始め、祈ったり、杯を傾けたり、小羊を食べたりします。

つまり犠牲の肉と血の饗宴です。

こういう背景があるので、イエスの告げたシンボリズム「パンはキリストの体」「ワインはキリストの血」が、これから十字架刑を通して演じられる「犠牲」を暗示していることが分かります。

ずいぶん生々しい話です。

太古において、人類は世界中で動物犠牲を捧げていました。神々は血が大好きなのです。犠牲を捧げることで罪を祓(はら)い、幸運を買うことができました。

儒教でも豚を捧げますし、インドでも昔は動物をじゃかすか殺していました。

キリスト教の場合、羊の犠牲はやめてしまいました。イエスが一回限りの犠牲になることで、罪のお祓いはすべて済んだことになったからです。

肉と血のかわりにパンとワインになったのですから、ずいぶん草食化しましたね。

インド人もまた、動物の殺生を戒めて、神像に花を捧げるなどソフトな儀礼に変えてしまいました。キリスト教の場合とは異なりますが、同じく草食系に向かっています。

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中村圭志『知ったかぶりキリスト教入門 イエス・聖書・教会の基本の教養99』

キリスト教は二千年前、ユダヤ教の活動家だったイエスを人類の救世主(=キリスト)だと信じた人々がつくった宗教だ。今では二二億人もの信者がおり、世界の政治や文化にも大きな影響を与え続けている。しかし、そもそもイエスは実在したのだろうか。イエス=神か、それとも神の子なのか。一神教でありながら、神は「三つで一つ」だという教理とは何か――。人気宗教学者が、イエスの一生、聖書のエピソードと意味、仏教との比較、イスラム教との関係などを、Q&A方式で説明。最低限の知識を99の質問で学べるキリスト教ガイド。