ニューヨークのオイスターバーなどのメニューに、さまざまな種類の生牡蠣と並んで、生の蛤があることをご存知の方がいらっしゃると思います。
 リトルネック、チェリーストーンなどといった種類があるこの貝は、クラムと呼ばれているために、私は、頭の中で「蛤」と直訳してしまっていたのですが、英語でクラムというのは所謂、二枚貝のことを指し、浅蜊も蛤も、食用のそういった貝を引っくるめて皆、クラムと呼ぶのだそうです。
 
 私は、アメリカのオイスターバーで、この生のリトルネックやチェリーストーンを頂くのが、好きでした。

 近頃、スーパーマーケットの鮮魚コーナーに、浅蜊や蛤に並び、ホンビノスという貝があるのをよく目にいたします。
 このホンビノス貝が、オイスターバーで供される、リトルネックやチェリーストーンと同じ貝なのだ、ということを私はつい最近まで知りませんでした。

 そう知ってみると、ホンビノスという聞き慣れない響きのこの貝が、一気に親しみを持って感じられるようになりました。
 残念ながら、東京のスーパーマーケットでは、ホンビノス貝が、生食用として売られているのは見たことがありませんので、必ず加熱し、頂くことになりますが、同じような大きさの蛤と比べると、かなりリーズナブルな値段で手に入れることができますし、味わいも、蛤に引けを取らない美味しさです。

 ホンビノス貝を使って、昔、母がよく浅蜊や蛤を使い、作ってくれた、シーフード・サラダを作ってみようと思い立ちました。

 フライパンにバターを落とし、大蒜を入れ、弱火にかけて、香りを出します。
 香りが立ち始めましたら、火を強め、そこにホンビノス貝、つぶ貝、海老などを入れ、ワインを注いで、蓋をし、酒蒸しにいたします。
 ホンビノス貝が開いたら、火を止め、ざるで濃し、具と汁を別の器に取り分けておきます。

 それとは別に、乾燥若布を水で戻し、白だしに浸し、下味を付けておきます。 
 サニーレタスを水洗いして、水気を切っておきます。

 取り分けておいた酒蒸しの汁に、醤油と酢をお好みで加え、ドレッシングを作ります。蒸し汁の風味を殺してしまわないように、醤油と酢は、やや控え目の味加減にして頂くとよいかと思います。

 以上で、下準備は完了です。

 器に適当に切ったサニーレタスを重ね、その上に若布を軽く搾って盛ります。
 レタスと若布の上に、酒蒸しにした魚介を飾ります。
 あとは、ドレッシングを各自、好きなだけかけて、頂きます。

 魚介の旨味と、ワインとバターの風味が混じり合った、優しい味のドレッシングで頂く、このシーフード・サラダは、子供の頃の私の好物でした。
 
 シーフードが載っておりますので、ちょっと豪華な感じもあり、お客様へのおもてなしにも、喜ばれる一品となるのではないでしょうか。

 それにしても不思議なのは、40年ほども昔に、思いがけなく洗練された、このシーフード・サラダを作っていた母は、そのレシピを、一体どのようにして学んだのだろうか、ということです。

 サラダを作りながら、自分が、母の人生について、案外、よく知らないという事実に気づかされた午後でした。

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