【発売即重版!!】人生100年時代の、男の生き方がここにある。古希(70歳)を迎えた元・大学教授の独り暮らしを描いた、笑えて泣ける珠玉のエッセイ『70歳、はじめての男独り暮らし』。試し読み第8回目をお送りします。歳をとればとるほど増えていくのが交流した人の数。管理を奥様にまかせっきりだった西田先生、困り果ててしまいます。

はてさて…どなたかな(写真:iStock.com/bowdenimages)

立つ鳥、跡を濁さず

 一人になって生き抜くために最低必要な家事全般は毎日のかなりの部分を占めます。しかしそれ以上に大変なのが、今まで妻が全てしてくれていたお付き合いです。

 妻は十一月の初めから、自宅を離れ、緩和ケアの病棟に入院しましたが、その年のお歳暮をどうするかを、最後まで気にしていました。自分で選んでお送りできないこと、送り状を書けないことなどが気持ちの上で負担にはなっていたようです。

 デパートからは、前年までのデータが送られてきます。そこで、今までと全く同じようにせねばと思い、デパートには、前年通りにお送りするようにお願いしました。

 しかし、刻一刻と近づいてくる妻との別れの中で、送り状や頂戴(ちようだい)したお歳暮のお礼状などを私は書く気持ちの余裕も時間的な余裕も全くありませんでした。妻が元気でこれらの仕事をこなしていてくれた時とは異なり、先方に対して大変失礼なことになってしまったことが、私にとっての一つの後悔です。

 12月に亡くなりましたので、次の大仕事が喪中はがきの作成と差し出しでした。

 幸い住所管理ソフトを妻と二人で共有して使っていましたので、ある程度の差し上げるべき方々のリストは分かります。とにかく出せる範囲で全ての方々にお知らせする方が良いのではと考えました。それと同時に会葬御礼の手紙を出さねばなりません。

 失礼があってはと、かなり神経を使いましたが、それでも新年を迎えると、年賀状を頂戴します。お一人お一人へ、喪中であることをお知らせして失礼を詫びる作業が続きます。本来なら、寒中見舞いという形で、改めてご挨拶すべきかもしれませんが、妻を失って一ヶ月余りの状態でとてもそこまでの力はありませんでした。

 あっという間に時は巡り、お中元の季節になりました。

 少し時間が経ちましたので、今後のことを考える余裕が出てきました。私の関係の皆様には、今まで通りにお送りさせていただくことにしました。

 しかし分からないのが、妻の関係の方です。妻がいなくなった今、私の名前でお送りするのが良いのか、この際止める方が良いのかずいぶん悩みました。

 闘病中からずっと献身的に妻を支えてくださっていた同級生の皆様に、まさかお中元はどうしましょうと伺うこともできません。いつも妻との会話で耳にしていた親しい方々のお名前は分かりますが、送付リストの中には、私では判断できないお名前が幾つもあります。

 結局、妻の名前でお送りしていた方々には、かえってご迷惑ではと考えこのお中元からお送りするのを止めました。

 妻は私が先に逝き自分が残ることを当然のことと想定していたのでしょう。住所録のソフトを開けてみますと、私の知人のメモ欄にかなり詳しく私との関係を書き込んでいます。そう言えば、いつも「○○さんとはいつの時代のお付き合い?」などとよく聞かれたものでした。私の人生でどの時代のどのようなお付き合いであったかを聞き、メモとして入力していました。

 しかし、妻の知人のところには、ほとんど記載がありません。妻の頭の中に関係や思い出があるのですから、ソフトに入力する必要は全くないのです。

 しかし、私の方が残された状況になると、これは大変困ったことです。

 今までの妻との会話や、住所などからどのような関係の方であったのかを推測するしかありません。多分この段階で幾人かの方とはご縁が切れてしまったかもしれません。妻には申し訳ない気持ちですが、こればかりはどうしようもないことと諦めてもらうしかありません。

 このような経験をしましたので、私自身が亡くなった後、残された人たちが困らないようにしておかねばならないと思うようになりました。

 特に連絡先のリストは大切です。そういえば、遠くに住んでいます長男から、

「お父さんが死んだ時に、最低限、誰と誰には連絡するかは、はっきりしておいてくださいね」

 と言われたことを思い出しました。

 お付き合いが生まれるたびに入力していたお名前が今のところ3,000件ほどありますが、時間を見つけては、もう亡くなってしまった方、今も連絡を取り合っている方、長年疎遠の方などと分類しながら、その方々との関係を懐かしく思い出しながら、住所録ソフトのメモ欄に記入する作業を開始しました。

 ゆっくりですが、整理し終えるまでの時間が私にはまだあると思っています。

 懐かしいお名前を見て、その方と関わりのあった時代を思い出しながらメモを作るという作業は思いの外、時間をとります。

 自分自身の残された人生の時間の中で、またお目にかかることがあるのだろうか、とも考え込みます。

 この歳になってきますと、何かにつけてスリムにしていかねばならないと考えました。そこで、思い切ってお付き合いの断捨離を試みています。

 多分とんでもない失礼なことをしているのかもしれませんが、私がいなくなった後、残された者が悩むことを考えると、自分自身の経験からも、しっかり断捨離をしておかねばと思います。

 70年という歳月のどこかで出会った懐かしい方々とのご縁は、なかなか簡単には切れないものですが、この歳になれば、勇気を持って不義理をしていかねばなりません。

 皆様方も理解して許してくださるでしょう。

この記事をシェア
この連載のすべての記事を見る

★がついた記事は無料会員限定

西田輝夫『70歳、はじめての男独り暮らし』

「このまま私はボケるのか?」定年後の独り暮らしを描く、笑えて泣ける珠玉のエッセイ! 古希(70歳)を迎えた元大学教授が、愛妻を癌で亡くした。悲しみを癒す間もないままひとりぼっちの生活が始まるが、料理も洗濯も掃除も、すべてが初めてで悪戦苦闘。さらに孤独にも苦しめられるが、男はめげずに生き抜く方法を懸命に探す。「格好よく、愉しく生きるのよ」妻の遺言を胸に抱いて――。<目次>はじめに/第一章 家事に殺される!? ~オトコ、はじめての家事~/第二章 男やもめが生きぬくための7つのルール/第三章 妻を亡くして ~オトコ心の変化~/第四章 妻がくれたもの ~大きな不幸の先に大きな幸せが待つ~/おわりに