【発売即重版!!】人生100年時代の、男の生き方がここにある。古希(70歳)を迎えた元・大学教授の独り暮らしを描いた、笑えて泣ける珠玉のエッセイ『70歳、はじめての男独り暮らし』。試し読み第7回目をお送りします。咲かなくなったミモザ、チカチカと切れていく電灯たち。妻がいた頃の明るい家へ、戻したいけれど……。

想い出が詰まった庭だから(写真:iStock.com/Halfpoint)

咲かなくなったミモザ

 一年を通じて独りで生活しますと、家の管理についてもいろいろなことが見えてきます。

 家そのものの補修や管理のような大きなことから、庭や植木の管理に始まり、小さいところでは、トイレットペーパーの補充などまで、様々なことに気を配っておかねばなりません。妻が元気な時は全てしてくれていたのでしょう。気楽に生活し、それが当たり前のように思っていましたが、自分で全て管理せねばならないようになると、今まで全く気づかなかったことが沢山ありました。

 精神的に余裕がなく、昨年は殊ことのほか暑く雨が少なかったためかもしれませんが、庭の草木が次から次へと弱ってきていました。

 妻が植えて大好きだったミモザは、二階の高さぐらいにまで成長し、きれいな黄色い花を咲かせて楽しませてくれていましたが、妻が居なくなると突然上の半分が枯れてしまいました。今では、高さがかつての半分ほどになっていますし、今年はあの黄色い花がほとんど咲きません。

 まるで「私の仕事は終わったよ」と言っているかのようです。

 芝生にも雑草が生い茂ります。

 家の中の整理整頓で精一杯で、とても庭の手入れまで手が回りません。

 そういえば雨が上がった後などよく妻は庭に出て「雨上がりの時が一番草を抜きやすいのよ」と言って、草刈りをしていたものでした。今の私には、草刈りなどまで手を回す余裕は全くありません。家の中にこもると、色々と思い出に耽って鬱な気分になり、何も手につきません。それではいけないと、頼まれた講演などを積極的に引き受けると、家にいる時間が少なく、家のことは全くはかどりません。

 妻の一周忌を機会に、植木屋さんに電話して庭の手入れをしてもらいましたが、毎日の水やりや雑草取りなどの作業をしていませんので、以前のような勢いはもうありません。

 いつまで私自身がこの家に住んでいられるのかは分かりません。私もいずれ近い将来、妻との生活の思い出が詰まったこの家を離れ、旅立たねばならないでしょう。

 無駄なことだとは理性では分かっていますが、植木屋さんにお願いして、枯れた植木を入れ替えてもらいました。もう一度妻が楽しんでいたような元気な庭にしたいなと思っています。

消える電球、色褪せる外壁

 一方、家の中でもいろいろなことが起こります。ちょうど一年経った頃から、いろんな場所で乾電池が切れてきました。家の中には結構たくさん、乾電池で動いているものがあることに気づきました。

 ある日、時計が止まっていました。そこで電池を交換しましたが、二週間ほどするとまた別の時計が止まります。

 どうも一年に一度乾電池を交換せねばならないようです。ですから、一年経つと家中で、電池交換の作業をせねばならなくなるのだということが分かりました。

 妻がしてくれていた家を管理して維持するということは、このような些細なことを一つ一つ解決していくことなのでしょう。

 同じように、色々な場所で、電球が切れます。

 妻が元気な時に、一部はLEDの電球に換えましたが、昔からの白熱電球や蛍光灯の分の交換が必要となってきます。交換そのものは、大して時間をとりませんが、天井から吊り下げられている電灯の電球交換を脚立を持ち出して一人で作業すると結構大変なものです。いつも妻が助けてくれ、下で受け取ってくれていましたから、脚立に一度乗ると降りないで最後まで作業ができました。しかし一人で行うと、いちいち下に降りねばなりません。交換の不要なLEDに全て交換しようかなと考えています。

 家そのものの管理も大変です。

 10年ほど前に家の外壁の塗装をし直しました。外から見ると、色合いが変化し、そろそろもう一度塗装せねばならない時期が来ているなと感じます。

 しかし、相場というのが分かりません。見積を作ってもらうと、考えていたのと桁違いなのにびっくりしました。でも友人たちから、その程度だよ、と言われましたので、外壁の塗装を依頼しようと思いましたが、講演などで出かけることが多く、工事をお願いしても家にいることができません。

 なるほど、一人で生活しているとこのようなことが案外問題となるものです。

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西田輝夫『70歳、はじめての男独り暮らし』

「このまま私はボケるのか?」定年後の独り暮らしを描く、笑えて泣ける珠玉のエッセイ! 古希(70歳)を迎えた元大学教授が、愛妻を癌で亡くした。悲しみを癒す間もないままひとりぼっちの生活が始まるが、料理も洗濯も掃除も、すべてが初めてで悪戦苦闘。さらに孤独にも苦しめられるが、男はめげずに生き抜く方法を懸命に探す。「格好よく、愉しく生きるのよ」妻の遺言を胸に抱いて――。<目次>はじめに/第一章 家事に殺される!? ~オトコ、はじめての家事~/第二章 男やもめが生きぬくための7つのルール/第三章 妻を亡くして ~オトコ心の変化~/第四章 妻がくれたもの ~大きな不幸の先に大きな幸せが待つ~/おわりに