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2017.12.06 公開 ツイート

『プライド』の冒頭50ページを特別先行公開!

髙田延彦 vs ヒクソン・グレイシーの真実が、20年の時を経て、初めて明かされる。 金子達仁

 ラウンジに足を踏み入れてすぐ、福薗好文は彼らの存在に気づいた。

 カープの正田と西山がいる!

 東京で育ち、広島という街にあまり接点のなかった福薗だが、ローティーンの多感な時期にいわゆる「赤ヘル旋風」を体験して以来、カープはお気に入りのチームだった。ホームランバッターやエースに憧れる少年が多い中、彼が好きだったのは監督の古葉竹識だというから、少々毛色は変わっていた。

 好きだ、観たいと思えば後先考えずに突き進むところが福薗にはある。

 小学4年生の時、実家の近所にあった日大講堂でボクシングの世界タイトルマッチが行われることになった。観たい。どうしても観たい。だが、入場券を買う金はない。では、どうするか。9歳の福薗少年は、便所の窓から会場に侵入する計画を立てた。

 そして、成功した。

「大場対チャチャイ。大場の5度目にして最後の防衛戦。初回にダウンを食らった際、足を捻挫したにもかかわらず、そこから逆転ノックアウト勝ちしたっていう伝説の試合ですよ。あれは子供心にも衝撃的だったなあ」

 より衝撃的だったのはそれから3週間後に飛び込んできたニュースだった。まだ23歳だったWBAフライ級の世界チャンピオンがハンドルを握るシボレー・コルヴェットは、首都高速5号線のカーブを曲がりきれず、反対車線を走るトラックに正面衝突してしまう。大場政夫は、即死だった。

 大場というアイドルを失っても、福薗少年のボクシング熱、スポーツ熱は冷めなかった。古葉監督率いる広島が球団初の優勝を果たすのは、それから2年後のことである。彼はボクシングを愛し、広島を愛し、そしてプロレスを愛した。お気に入りは東京12チャンネル(現テレビ東京)の『世界のプロレス』という番組で、そこに登場するアンドレ・ザ・ジャイアントやザ・コンビクト、エル・ヒガンテといった巨漢レスラーに憧れた。

 それは、大人になっても変わらなかった。

 33歳になった福薗は、この日、名古屋レインボーホールで行われたプロレス団体UWFインターナショナル主催の大会を観戦した。大会終了後、打ち上げと称して10年来の親友といつものように超のつくハイペースで杯を重ね、上機嫌になって2軒目のラウンジへとやってきた。

 他に客はいないようだから、他人の目を気にする必要もない。

 福薗好文は、思い切って広島カープのスターたちに声をかけることにした。

 嫌がられる可能性は、たぶん、ない。

 彼には、勝算があった。

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金子達仁 ノンフィクション作家

1966年神奈川県生まれ。法政大学社会学部卒。サッカー専門誌の編集部記者を経て、95年独立。96年、Sports Graphic Number誌に掲載された「断層」「叫び」で、ミズノスポーツライター賞受賞。『28年目のハーフタイム』『決戦前夜』『ターニングポイント』『泣き虫』『熱病フットボール』など著書多数。近著には、義足アスリート・中西麻耶の壮絶な生き様に迫った「ラスト・ワン」がある。

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