「美しい暮らし」の電子書籍が発売となりました。
 お読み下さった方から、思いの外に好評なのが、巻末に付けたレシピ集です。本文のいろいろなエピソードに登場する料理のひとつひとつについて、材料と分量、作り方の細かい手順を記したものですが、早速試して、感想を伝えて下さる方もいて、うれしく思います。

 私も、料理本やレシピ本などを読むのが大好きで、先日も、そんな一冊を手に入れました。

 子供の頃、「大草原の小さな家」のシリーズを愛読しておりました。
 主人公の家庭、インガルス家の食卓に並ぶ、見たことも聞いたこともない、料理やお菓子などの数々に、想像と食欲を膨らませたものでした。

 先日、調べものをしている時に、「大草原の小さな家」シリーズに登場する料理のレシピ本がアメリカで出版されているのを見つけ、すぐに買い求めたのです。
 幼い頃に憧れだった、インガルス家の食事が、一体どんなものだったのか、知りたいと思いました。

 一番興味があったのが、ミンスパイです。それは、昭和の東京に暮らす、子供の私にはまったく想像のつかない食べ物でした。
 想像を超えているけれど、やけに美味しそうな何か、という印象だけが残っています。

 ミンスパイは、現代では普通、ドライフルーツの入った小ぶりのパイなのだそうです。元々は、肉も入っていたのですが、いつの頃からか、肉を入れないようになったといいます。

「小さな家」のレシピ本を開いてみると、ミンスパイのレシピには、牛肉と豚肉が使われていました。パイのサイズも、直径9インチ(約23センチ)のパイ型を使う、大きなものとなっています。
 骨付きの牛肉と豚肉を煮て、骨を外し、小さく刻み、それを様々なフルーツと漬け込み、パイ生地に詰めて焼く、というのが大まかな手順です。

 現在、イギリスなどでクリスマスに供される、ポピュラーなタイプのミンスパイとは若干、趣が異なるものとなっているようです。

「小さな家」のさまざまなレシピを見て行くと、その時々に収穫された大地や自然の豊かな恵みをふんだんに使っていることに気づかされます。折々の収穫は、保存食料として加工もされ、それがまた、いろいろに形を変えて、ヴァリエーション溢れる料理に活用されます。

「小さな家」のレシピ本に登場するミンスパイの材料で、今の時期の東京の我が家で、手に入れられるものは限られており、正確に再現するのは難しいということがわかりました。

 簡単に手に入る材料で、レシピのエッセンスだけを取り出して、作ってみることにいたしました。

 合挽肉を油を敷かずに炒めます。塩・胡椒、シナモン、クローヴ、ナツメグなどのスパイスとメープル・シロップ、ブランデーまたはラム酒をたっぷり目に入れ、汁気がなくなるまで煮詰めます。

 それとは別に、林檎を皮付きのまま、小さめの賽の目にカットし、フライパンに入れ、砂糖を振りかけて、しばらく置きます。水分が出て来ましたら、バターをひとかけら入れて、火にかけます。ブランデーかラム酒を少々、加えます。林檎が透き通って来ましたら、火を止めます。レーズンや、適当なドライフルーツをひと掴みほど、大きめのものは粗く刻み、鍋の中に入れ、残っている水分と絡め、吸わせます。

 ドライフルーツが水分を吸ってしっとりしましたら、それを先ほどの、炒めた挽き肉とよく混ぜ合わせ、ザルなどに入れ、油分を切っておきます。油が多すぎますと、パイの焼き上がりがべたっとしてしまいます。

 パイ型に冷凍パイシートを延ばして敷き、油を切った具を入れ、残りのパイシートを上から被せてパイの体裁を整え、照りを付けるため、刷毛で卵黄を塗っておきます。

 200度で予熱したオーヴンに入れ、20分程、焼きます。黄金色の焼き色が付きましたら、出来上がりです。

 熱々のパイを口に運んでみて驚きましたのは、その味わいの濃密さです。肉の旨味とフルーツの甘さが渾然となって、とても豊かな風味を醸し出しています。

 家族の皆が楽しみにする、特別な日のご馳走だったことが想像されます。お茶にも合いますし、大人は、ワインやウィスキーなどとつまんでもよさそうです。

 丁度遊びにいらしていた、私と同世代の女友達も、子供の頃、「小さな家」のシリーズを楽しみに読んでいたそうで、私たちは、焼き立てのパイを頬張りながら、150年ほど前のアメリカの、とっておきのパイを囲んだ、温かい家族の団欒に思いを馳せ、語り合い、幸福な午後のひとときを過ごしたのです。

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矢吹透『美しい暮らし』

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