横綱・日馬富士が前頭・貴ノ岩を殴打した傷害事件の責任をとって引退した。

 九州場所直前の鳥取巡業で起きた場外乱闘は、連日マスコミが大騒ぎしたが、私が辟易(へきえき)したのは、テレビ各局が朝から一日中流しているワイドショーである。相撲もよく知らない芸能人などが、おもしろおかしく言いたいことを言っている姿にはうんざりする。

 事件は10月25日深夜、鳥取市での酒宴で起きた。宴席には大横綱・白鵬をはじめモンゴル出身の三横綱がそろい踏みで、ほかに関脇・照ノ富士もいた。

 問題なのは、新聞もワイドショーも、当事者の直接取材ではなく、すべて伝聞情報だったことだ。

 そこで語られている関係者の証言は、まるで伝言ゲームのようにマチマチで、誰のどの証言が正しいのか、わけがわからない。

 ただ言えることは、加害者側の後援者ら関係者は日馬富士に同情し、擁護し、被害者側の関係者は手を変え品を変え暴行のきっかけとなった貴ノ岩の言動情報を否定し、その人柄を称えている。

 考えてみれば、こんなトラブルの場合、それぞれの立場によって証言や評価が正反対になるのは当然である。

 同じ部屋(現場)に何人も力士や地元高校関係者がいたにもかかわらず状況や原因がはっきりしないのは、事件関係者が誰も表に出ず、詳しい説明をしないからだ。

 

なぜ相撲協会に報告しなかったのか

 今回の事件で、最高責任者である八角理事長と日本相撲協会の出足が遅かった理由の一つは、被害者の師匠・貴乃花親方の対応にも謎と問題が多いからだ。

 その詳細は新聞とテレビのワイドショーでご存じのとおりだが、一番の問題と謎は、事件が起きてから4日後の10月29日に貴乃花親方が鳥取県警に被害届を出していながら、相撲協会の八角理事長に事件の報告をしていないことである。

 しかもその後、協会は八角理事長自ら再三「協会の危機管理委員会の調査に協力してほしい」と直接要請しても、貴乃花親方は貴ノ岩の体調不良を理由に「お断りします」と拒否したという。

 この異常でかたくなな態度については、新聞やワイドショーが「ああでもない、こうでもない」と連日“徹底討論”しているが、そんな話には興味がない。

 そして私は、相撲協会や日馬富士、貴乃花のどちらにも味方しないが、一連の動きで「そのとおりだ」と同感したのは、11月20日に開かれた日本相撲協会の評議員会後、池坊保子議長が語った言葉だった。

 池坊議長は記者会見で、各評議員から本場所中に不祥事が発覚したことを残念に思う意見が多かったことを紹介した。巡業中に起きた問題を相撲協会に報告しなかった貴乃花巡業部長に対しては、「(暴力行為は)絶対にあってはならないこと。巡業部長は巡業中に何かあったときは理事長に報告する義務がある。速やかに報告していたら、理事長も対応の仕方もあったと思うと残念。(口を閉ざしている貴ノ岩は)当事者なので、出てくるのは当然のこと。どのような暴行を受けたのかを説明すべきだ」と苦言を呈した。

 たしかに貴乃花親方は被害者・貴ノ岩の師匠だが、自身も理事で、巡業部長という要職にある協会ナンバー3である。

 今回の事件は、自分が統括する巡業中に起こったのだから、少なくとも県警に被害届を出した時点で協会に報告するのは当然だろう。

 そして八角理事長は、事件の責任者や当事者を適正に処分すればいいだけの話である。

「巡業部長の報告義務」は池坊議長の言うとおり、相撲協会のルールである。巡業部長が責任者としてルールを守るのは当然であり、それは社会の常識だ。

 名横綱だった貴乃花親方が、そんなこともわからないはずはないと思うが、もし当然の常識を知らないとしたら、親方が師事している恩師や後援者がしっかり教えてやるべきだ。

 

協会不信が事実なら角界から去るしかない

 九州場所が終わった夜、貴乃花親方は後援者を集めた部屋の打ち上げパーティーで10分余りの挨拶を行い、暴行事件のいきさつと自身の考えを初めて吐露した。

 この中で貴乃花親方は、「貴ノ岩の容体は、普通に転んだり、普通に殴られたりでできる傷ではありません。それを私が、最初隠していた本人から傷口をみて、早期に行動を起こしたというまでです。現状は鳥取警察署にご相談をして、そこからすぐに県警へあがったという次第です。正当に裁きをしていただかなきゃいけないというのが、これが巡業部長の責任であります」と語ったが、肝心の協会への報告義務違反については答えていない。

 伝えられているように、協会役員で巡業部長でありながら、確執が続く八角理事長と相撲協会が信用できないから事件の発生を報告せず、調査にも協力しないというのなら、弟子ともども所属する組織(相撲協会)を去るしかない。

 野球も相撲も、スポーツはルール厳守が大原則だ。野球賭博など不祥事が続いたプロ野球界でも、問題が起こったら球団が即、球界の最高裁判所であるNPB(日本野球機構)に報告し、コミッショナーが裁定(処分)を下す。

 たとえば選手が遠征先の酒宴で他球団の選手に重傷を負わされた場合、監督や球団が「コミッショナーが信用できないから事実調査に協力しない」と反旗をひるがえしたらどうなるのか。

 巡業先で起こった横綱の殴打事件は、不祥事続きの野球界にもけっして無縁ではない。

 

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