師走です。今年1年を振り返って、頑張った自分を褒めてあげたいですね。
ちょっと奮発して「大物」を買ってみる?!
だって、がんばったもの。

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エッセイ
ご褒美

 透明のガラスで覆われたエレベーターは、恐ろしいスピードでどんどん上昇していく。20F、30F、40F……。

 東京の夜景がぐんぐん広がって、光が描く地平線が見えてきた。地上46Fまでものの1分くらいで辿りついてしまった。もはや遊園地のアトラクションの域である。

 汐留カレッタというとても大きなビルにあるお店でライブをした僕らは、「せっかくなら東京の夜景を眺めながら1杯くらい飲もう」と息巻いて、田舎者丸出しでビルの最上階へよじ登りたくなったのである。さすがに地上46階まで登ると、高さも200mくらいある。足がすくむほど、景色がもう、なんていうか、まあすごい。人工的な東京の夜景を見ているのに、大自然の星空を眺めているような気分だ。

「いらっしゃいませ」

 恐ろしくゴージャスなエントランスで、スラッと背の高いお兄さんがスーツをキメて待ち構えている。これは……よう入らん……。1杯ずつ飲んだとして、一体いくらかかるのか想像もつかない。

 しかし、我々は強気に足を踏み出して、その光輝くbarへ飛び込んでいった。最悪お金が足りなかったとしても、今夜の我々には、ライブへ遊びに来てくれたこのエッセイの編集者、“幻冬舎のそでやまさん”という強い味方ついているのだ。多分なんとかなるはずだ。

 広島からついてきていた酒好きのバンドメンバーも、「こんな所で飲んでみたかった!」と鼻息を荒げている。今日、我々は、東京のシティーボーイズとして生まれ変わるのだ。東京タワーのライトが消える瞬間を手で隠して、「ほぉ~ら、東京タワーの光、ボクが盗んじゃった」と格好つけるのだ。東京人としての筆下ろしである。

写真:iStock.com/leolintang

 夜景の見えるオシャレなソファーに腰掛け、「パーフェクトハイボール」なるものを僕は注文した。完璧なハイボール……。今までチェーン店で飲んできた280円のハイボールは一体なんだったのか。“完成品”はここにあったのか。金色に輝くハイボールには、オレンジとレモンの切身が入っていた。

 ハイボールってフルーツ入れてはじめて完成するのか。はじめまして、ハイボール。

 いつかはこんなbarで「マスター、いつもの」と言えばハイボールが出てくるような、パーフェクトな男になりたいものだ。

 一生懸命がんばって、自分で稼いだお金でお酒を飲み、労をねぎらう。そうやって、昔から男はどこまでも走り続けてきたのである。※しっかりとそでやまさんにご馳走になりました。

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 今年も気がつけば12月。師走である。

 おかげさまで旅もたくさんしたし、いろんな出会いや出来事があった。新幹線に一体何回乗っただろう。

 今年は東京でマンスリーイベントをさせてもらった関係上、月に2回ずつくらい広島-東京間を往復した。新幹線に乗れば、広島駅から東京駅まで約4時間でたどり着くことができる。試しに同じ距離をGoogleMapで「徒歩」で検索すると、『7日と3時間』と表示された。つまり新幹線は『6日と23時間』も、“人間の移動時間”を短縮してくれるわけだ。

 ここからは僕の持論だが、”人生で使える時間そのもの”は変わらないんじゃないかと思っている。生身の人間では不可能な超スピードで東京まで移動しているっていうのは、すなわち自分の寿命を削っていることなんだと思うのである。

 ということは、新幹線に乗るたびに、僕の寿命は約1週間ずつ縮んでいることになる。

 50回くらい乗れば1年分だ。まぁ太く短く生きてやろうじゃないか。

 ちなみに僕は、新幹線の切符は当日に最寄駅で「東京往復、自由席で」と言って買って、一番早く乗れる新幹線に適当に乗り込む。

 帰りも同じだ。冷静に考えたら、旅のスケジュールは先々まで決まっているのだから、事前に早特割で買うとか、クレジットカードで買ってポイント貯めるとか、本来ならば色々とあるはずだ。年間なん十万円ものお金を支払っているのに、特になんのポイントも割引も受けていないというのは、すごく損している気がする。

 そんなことに気づいた師走。のんびりしている場合ではない。そう思い、一先ずクレジットカード機能付のJRの「EXカード」を作ろうとしたら、普通に審査で落ちた(笑)。

 その辺のサラリーマンよりはたくさん新幹線に乗ってるはずなんだけど、会社員でもない僕には信用がないらしい。悔しいが、まぁしょうがない。財テクに詳しい方に、お得な切符の買い方を教えて頂きたいものである。

 何はともあれ、2017年も様々なことがあった。映画『ケアニン』の主題歌を歌わせてもらったり、マツダスタジアムで国家斉唱をしたり、ライブツアーでは全国をまわり、ファイナルとなる地元の1000人ホールでのワンマンコンサートまで、完走することができた。

 我ながらなかなかよくがんばっている。体調を崩さないよう管理しながら、日々のスケジュールもこなしてきた。うん。よくがんばった。これはそろそろ”自分へのご褒美”を用意しても良いのではないか。と、いうことで僕は思い立ったのである。

「香川、テレビ買う」と。

 引っ越しもしたが、そういえばリビングにテレビがない。あんまりテレビ観てないし、そもそも家にあんまり帰らないので、ずっと先延ばしにしていたが、やはりテレビくらいないと、情報社会から取り残されてしまう。ドラマも、好きなやつはTVerアプリとか使ってスマホで観ていたが、ちゃんと大きい画面で観たいじゃないか。

 がんばった自分へのご褒美として、”でっかいテレビ”を買うことに決めたのである。

 しかし僕は、テレビに詳しくはない。とりあえず大きくて、そんなに高すぎなくて、少し言えばまぁまぁ音が良いのがいい。自慢じゃないが、何事もフィーリングとノリだけで生きてきた。そんな僕なので、買い物には結構失敗してきた。

 買った家具のサイズが違っていて置くとこがなかったり、ふらっと立ち寄った店でオーダーメイドの枕とマットレスを購入したものの、全然身体に合わなかったり(これ、20万もした!)……。そんなわけで、いつも人から「ちゃんと調べてから買えよ!!」と言われ続けてきた。

 実は少し前に、ろくに調べもせずにアマゾンで「これや!!」とテレビをポチった。購入後によく見たら、

 “テレビじゃなくてPCのディスプレイだった”ため、

 すぐにキャンセルしたばかりだ。

 ちゃんと下調べしなければ。と、ひとまず家電量販店のテレビコーナーに行ってみた。ちなみにこの日、僕はテレビを買って帰るつもりはなかった。あくまでも下見である。

 とりあえず説明を聞きたくて店員さんを適当に捕まえることにしたのだが、実は、これも僕にとってはすごく重要なのだ。僕は、割と”人で物を買う”習性がある。押しは強くてもなんとなく感じの良い店員さんだったり、可愛い女性店員さんだったりすると、ろくに考えもせずに、言われるがままになんでも買ってしまうのだ。

 なので、できるだけ歳のいっているキャリアの長そうな断られることにも慣れていそうな男性店員を探した。すると、俳優の「温水洋一」さんみたいな方がいた。イメージにぴったりだ。この方なら、言われるがままつい買ってしまうことはないはずだ(温水さんごめんなさい!)。

 “温水さん”から、それぞれのメーカーの説明なんかを聞いていると、フルハイビジョンだの、4Kだの、有機LEDだの、種類が多すぎて、ほんとに何買えば良いのかわからなくなってきた。

 あえて言うならば「北川景子」さんよりも、同郷の「綾瀬はるか」さんの方が、優しそうなイメージもあってタイプだ。

 そもそも、大きいテレビが欲しいと言っているが、我が家のリビングはそんなに広くない。テレビから、ソファーまでの距離なんて1mくらいじゃないだろうか。しかし、どうしても大きいやつがほしい。”自分はがんばってこれを買ったんだ!”という象徴がリビングにほしいのだから、小さいテレビだったら、ちょっとしかがんばってないことになってしまう。

 そんなわけで50インチくらいのテレビにしようと思って色々と見ていると、20万~30万はする。さすがに高価な買い物だし、ひとつの店では決めまいと、次のお店に移動することに。

 次の家電量販店でも大体ラインナップは同じで、結局は「価格」「スペック」「使いやすさ」のどこを重視して選ぶかだ。

 一旦、心を落ち着かせるためにコーヒーでも飲むか。近くにドトールかなんかあったはずだ。とブレイクタイムをとった。

 すると、近くに「激安のドン・キホーテ」の看板が目に入った。

「テレビ……あるんかなぁ??」

 興味本位で覗いてみると、あるのである。しかも、家電量販店では考えられないほどの低価格で、最新機種も取り揃えている。安いのに至っては、50インチテレビが5万円台からある。謎のメーカーではあったが。 店員さんがちゃんと説明してくれたりはしないが、これはどう考えても激安だ。

 結局僕は、単なる下見に来たつもりが、しっかりAQUOSの50インチ4Kテレビを購入したのである。何が4Kなのかはよくわからんが、なんか綺麗そうだし、将来的に地デジも4K放送になってくれるかもしれないじゃないか。僕は非常に満足したのである。

 店員さんに「持ち帰りますか??」と聞かれ、薄型だし持てるだろうと思って預かったら、信じられないくらい重くてびっくりしたが、なんとか車に積んで持って帰った。

 こうして、“あからさまにデカすぎるテレビ”を、我が家にドカーっと設置してやったのである。

 なんだか少年野球チームなのに、急にピッチャーだけメジャーリーガーが移籍してきたみたいだ。

 こうして僕は”がんばった自分へのご褒美”として、「50インチの大画面テレビ」を購入した。

 早速、普段ろくに観ないテレビを観ると、芸能人の肌の質感や、小じわやシミまでよく見える。好きなドラマ『コウノドリ』に出演している松岡茉優さんの髪の毛の美しさにはびっくりした。髪の毛一本一本が絹糸のようにツヤツヤである。

 コストパフォーマンスもいい。ちゃんとAQUOSだし、“ドンキのテレビ”はとても良い買い物だったと満足している。

 しかし僕は、テレビを買ったすぐ後から、またしても旅ばかりして家に帰っていない。たまに家に帰っても、大体寝るかギター弾いているので、自慢の50インチテレビは、今日も黒い画面をツヤツヤさせて、リビングで自分の出番が来るのを、肩をあっためながら待っているのである。

 おっと、そろそろ出発して新幹線に乗らなければ。

 スマホで『コウノドリ』でも見ながら移動しようと思う。

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